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昨日見た、あのオレンジ色の不気味な空が襲い掛かって来るような変な夢ばかり見て、結局昨夜はほとんど眠れなかった。
それでも部活があったので、寝不足で重たい体を引き摺るように学校に行った。
先週、先々週と土曜は練習試合が続いたから今日はミーティングだけ。
こんなに鈍っている頭と体で稽古をしたら怪我をしかねないので、それにはすごくホッとしていた。


道場に足を踏み入れるとそこには既にほとんどの部員が集まっていて、響を中心に輪になって座っていた。

神聖な道場に悩みを持ち込みたくはなかったので、グッと気合を入れ直し、『みんな、おはよう!』 と大きい声で挨拶をする。
おはよう、とか、副部長今日もよろしくお願いします、とか、次々とみんなが返してくれたので、それに、おはよう、とか、今日も頑張ろうね〜、とか声をかけつつ響の隣に座った。

うちの学園では学祭が終わるのと同時に2年生と3年生で代替わりがあり、生徒会や部活なども一斉に2年生中心に代わる。
大抵どの部でも3年生と2年生に副部長が一人ずついて、その内2年生の副部長が部長になるのが慣わしのようになっていた。
だけど次期部長の予定だった人が急遽転校になってしまったので、採決の結果、1年生から3年生まで部員全員一致で響が部長に決まったんだ。

響は最初乗り気じゃなかったけど、僕が副部長になる事を条件に渋々頷いたので、いつもお世話になりっ放しの響の助けになるなら、と喜んで副部長の任に就いている。
奏が 『響が部長で頑張るなら、その分家で沢山甘えさせてあげるからね』 と、陰で響に囁いていたのは僕達仲良しグループしか知らない内緒の話。

先輩達から引継ぎが終わった後、先週、先々週と練習試合が続いた事もあって、響も僕もその準備やら自分達の練習やらでここしばらくはすごく忙しかったんだ。
でも今日が終わればやっと一息吐けそうなので、ミーティングを手短に終わらせて、今日明日はゆっくり休もうと以前から響とは話していた。


おはよう、と響にも声をかけると、響は挨拶を返してくれながら僕の方を見て一瞬表情を曇らせる。
けれどすぐに 『そろそろ始めるぞ』 と言って決まった位置についたので、僕もその斜め後ろに正座し、姿勢を正す。
部員全員が自分の位置についたのを確認した響が 『黙想!』 と合図をし、それに合わせて目を閉じると、悩みを振り切るように精神統一をした。


2週に亘った練習試合の反省点などをそれぞれが発言し、それについて色々議論を交わしたりした。
その後、今日は用事があって学園に来ていない顧問の先生の机に内容を纏めたノートを響と置きに行き、慌しくも無事にミーティング終了。
まだまだ慣れない為に大変な事は多いけど、それでも副部長という大仕事を任されたのはとても嬉しかったし、毎日がとても充実していた。


部員全員を送り出してから道場の鍵をしめ、校門までの短い道程を響と並んで歩く。
だけど部活が終わって気が逸れる事がなくなったせいで、僕の中はやっぱり不安に逆戻りしていた。


今頃司は何をしてるんだろう?
女の人とデートでもしてるのかな……?
司はあんなにカッコいいんだから、子供っぽい男の僕なんかより、やっぱり大人の女の人の方が似合ってるよね……

……でも、やだ……
司……僕以外の人を好きになるなんて……絶対やだよ……


一度芽を出した疑惑の種は不安という栄養を与えられ、もう既に蕾がついて花を咲かせる一歩手前だった。


校門に着くと同時に響が 『忍』 と声をかけて来たので、ふと隣を見上げると、いつになく真剣な瞳で僕を見下ろしていた。
慌てて笑顔を作り、『何?』 と尋ねる。

「忍が何を悩んでいるかはわからないが、何かあればいつ
 でも連絡しろよ?
 もし皆瀬に言えない事なら、俺でも奏でも暁でも淀川でも
 いいから。
 俺達に迷惑をかけたくないと思っているのはわかるが、忍が
 そういう顔をしている方がずっと心配だ。
 いつでも親友達が味方でいる事を忘れるなよ?」

いつもは寡黙な響の温かい言葉に思わず目頭が熱くなり、じわりと涙が浮かびそうになった。

親友って、やっぱり何にもかえられないありがたい存在なんだ……

涙が零れないよう何度も何度も瞬きをして、一度鼻をすすり上げてから思いっきり笑い返した。

「ホントにいつもありがと。
 何かあったら必ず連絡するから、その時はよろしくね?」

今は響の言葉に甘えよう。
親友達がいつも見守ってくれているという沢山の勇気をもらって、今日は司と話をしよう。

響はポンと僕の頭を軽く叩くと、『親友なんだから当たり前だ』 と笑ってくれた。
そして思いっきり手を振りながら響と別れ、家路につく。

家までの間にある司のマンションに視線を向ける勇気はまだなかったけれど、それでも司が家に来るまでに、自分がどうしたいのかをちゃんと考えなくちゃ……