「さすが忍、やっぱり派手な反応だったね〜。
でも予想通りで良かったよ。」
と、苦笑している奏が口を開く。
……予想通り?
首を傾げていると、今度は響がチラッと周りに視線を走らせながら司に話しかけた。
「充分過ぎるほど牽制になったな」
その台詞に司がまた腕を組みながら静かに周囲を眺め、響に軽く頷き返しながら 『あぁ、助かった』 と答えている。
なんで司が響にお礼を言っているんだろう?と思いながら、それを見て何の気なしに周りを見渡すと、何か会話を交わしながら僕達5人を遠巻きに眺めていたり、校舎の窓という窓から身を乗り出すように指を指してこちらを眺めている人達が驚くほど沢山見えた。
…………。
うわ〜〜〜っ!恥ずかしい〜〜〜っ!!
これだけの人達に一部始終を見られていたなんて全く考えもしていなかったので、なんだか一気に恥ずかしくなってしまい、真っ赤になった顔を両手で隠しながらその場にしゃがみ込んだ。
すると暁が笑いながらクシャッと頭を撫でる。
「な〜に今更照れてんだよ〜?」
「だだだだって、こ、こんなにいっぱいの人が
見てるなんて……」
「なんたって今はもうここにいない話題のモデルと学園
アイドルの登場だぜ?
その二人の貴重なラブラブシーンなんだから、注目を
浴びて当然だろ〜?」
「ラ、ラブラブシーンって……っ!」
何か言い返そうとは思ったんだけど、さっきの自分の行動を振り返り、確かにそう言われればそうなのかも……、とか思ってしまい、相変わらず考えなしの自分が余計いたたまれなくなって、これ以上小さくなれないほど更に小さく体を丸める。
暁が苦笑しながら 『ほら、皆瀬が時間なくなるから早く昼飯買いに行こうぜ?』 ともう一度頭を撫でてくれたけど、僕はどうしても頷く事が出来なかった。
僕ってこういう所がまだまだ子供なんだよな……
どうしよう……またしても司に迷惑掛けちゃった……
その時頭上から 『忍』 と優しく声をかけられた。
でも恥ずかしいやらいたたまれないやら司には申し訳ないやらで司の方を見上げる事が出来ず、両手で顔を覆ったままギュッと目を瞑ってふるふると首を横に振る。
すると正面に司がしゃがみ込む気配がして、それと同時に少し強引に頭を抱き寄せられた。
いきなりの事に頭がすっかりパニック状態で、そのままの姿勢で固まったまま目を見開く。
司はお構い無しにポンポンと僕の背中を優しく叩きながら、耳元で静かに口を開いた。
「周りは関係ないだろう?
俺は忍が飛んで来てくれて嬉しかったけどな。」
その言葉にパッと頭を上げ、真っ赤になったまま 『……ホ、ホントに?』 と尋ね返すと、司は小さく笑って頷いてくれる。
そしてカシャカシャと工具のぶつかり合う音をさせながら立ち上がると、まだしゃがんでいる僕の方に左手を差し出し、『忍は何を食う?』 といつも通りに話しかけてくれた。
やっぱり司って、すっごくすっごく優しい……
しみじみ実感しつつ、でもだからこそこれ以上司に恥ずかしい思いはさせたくなかったので、遠慮がちにそっと人差し指だけを握った。
司はクスクス笑いながらもそのままギュッと手を握って、ぐいっと力強く引っ張り上げてくれる。
響と奏と暁も何故か笑って僕を見ている事はわかっていたんだけど、今はそれは置いておいて、ドキドキしながら司を見上げた。
「司と一緒ならなんでもいい。
……ホントにいつも、ありがと。」
恋愛初心者の上に子供な僕は、まだまだわからない事も失敗する事も沢山あって、その度にドキドキハラハラして泣いたり笑ったりする事だらけ。
自分の事だけでいっぱいいっぱいで、周りを見る余裕なんか全然ない。
だけど、それでも司や親友達が僕を守ってくれようとしてる事ぐらいはなんとなくわかる。
大事にしなくちゃ。
恋人も親友達も。
それだけじゃなく、僕を見守っていてくれている全ての人達も。
響と奏と暁を一人ひとりしっかりと見た後、司の人差し指を握っている手にキュッと力を込め、いっぱい勇気をもらって気合を入れる。
そしてこっちを眺めている人達全てを見渡した。
「いつもありがと!
これからもよろしく!」
親友達と、そして校舎にいる全部の人に感謝を込めて頭を下げた。
何もお返しなんて出来ないけれど、その分いつでも感謝の気持ちを忘れずに、それを正直に伝える努力をしていこうと思う。
一瞬間を置いた後、校舎や周りから割れんばかりの拍手や 『頑張れよ忍ちゃ〜ん!』 とか、『これからも応援してるぞ〜!』 とか沢山の言葉をかけてもらった。
響と奏と暁からは、笑いながら次々と頭を小突かれる。
エヘヘと照れ笑いをしながら、何よりも大好きな透明な瞳を真っ直ぐに見上げる。
「司が好き。
世界で一番大好き。
その気持ちだけは絶対誰にも負けない。
だから……これからもよろしくね?」
司は少しの間黙って僕を真っ直ぐ見下ろし、そして頷きながら小さく笑うと、繋いでいない方の手で僕の頭を抱き寄せ、頭のてっぺんにそっとキスをしてくれた。
それが嬉しくてウフウフ笑い、握っている人差し指をブンブン振って 『お昼買いに行こう!』 と笑いかける。
すると司は僕の台詞に頷いてゆっくり歩き出しつつ、『本当は今すぐ連れて帰りたいんだけどな』 と溜息混じりに苦笑しながら呟いた。
さすがに家に帰ってご飯を食べる時間はないだろうな〜、と首を傾げながら、司と一緒に何を食べようかと、お弁当やおにぎりやカップラーメンなんかを次々と頭に思い浮かべていた。