シリーズTOP



王子様の意味はわからなかったけど、それでも取り合えず教室を離れる間際響に止まってもらい、その男の子に 『せっかく来てくれたのにごめんね!放課後ちゃんと時間作るからね!』 と声をかけた。
一生懸命勇気を出して来てくれたのに、このままじゃあまりにも申し訳なかったから。
すると 『ありがとうございます』 と照れ臭そうに笑ってくれたので、『じゃあ後でね』 と手を振った。
また僕を引き摺るように歩き出した響が、『放課後来る気になるかどうかは疑問だけどな』 とボソッと呟いていた意味はやっぱりわからなかったけど。


B組の前を通り過ぎてC組の前に差し掛かった時、丁度教室から奏と暁が出て来た。
僕の腕を放しながら足を止めた響は、奏と一瞬お互いに視線を絡ませながら目を優しく細めあう。

あ、やっぱり二人とも目が変わってる……

そんな事を思いながら二人を眺めていると、奏が響の隣に並び、暁が僕の隣に並んだ。
そして今度は4人で歩き始めたんだけど、何故か進んでいる向きは一緒にお昼ご飯を食べるA組から遠ざかる方向だし、奏はいつもうちのクラスに来る時に持っているはずのお弁当箱を持っていない。

「皆瀬もこれでやっとひと安心だね」

「後は忍次第だな」

「それは全く問題ないだろ〜?」

相変わらず頭の上で交わされている3人の会話はさっぱりわからないし、みんながどこに向かっているのかもわからないし、突然司の名前が出て来た理由もわからない。

「ねぇ、ちょっと、何の話……」

一人だけ足の長さが違うのが悔しくなりつつも、足早で歩く3人と必死で一緒に歩きながら尋ねかけた時、どこかの教室からいきなり大きな声が聞こえた。

「おい、あれって皆瀬じゃないか?」

その声で、廊下にいたそこら中の人達が教室に駆け込み始める。
直後、『本物だ!』 とか 『皆瀬ってモデルになったんじゃなかったのか?!』 とか口々に言う声が聞こえ始め、それに続いて次々と教室から顔を出して廊下を歩く僕達の方を覗き見て来た。
けれど、司が学校に来るなんて一言も聞いてないし、それに今は仕事中の筈……


いつの間にか僕達は下駄箱の所まで来ていて、響に急かされながら外靴に履き替えた。
すると僕が行こうと思っていたコンビニに、同じく行こうと思っていたのだろう人達で人垣が出来ている。
何?何?と思っている間に響と暁が人垣をかき分け、その後に続いて奏に背中を押されながら玄関を1歩出て、校門の方に視線を向けた途端息を飲んで足を止めた。


今ではすっかり見慣れた、汗と苦労と努力がしみ込んでいるだぼだぼのベージュのニッカと黒い地下足袋。
腰に色んな工具やら何やらを下げたベルトをして、頭にはタオルを巻き、腕を組んで校門に寄りかかりながら一際大きな存在感を放っている人がいる。
スラリと背の高いその人は僕に気が付くと、学園生達から向けられている視線に構う素振り一つ見せず、いつもの透明な瞳で僕を見ながら小さく笑った。

ツカサ……

ドキドキドキと急に心臓が早鐘を打ち、胸がキュンと高鳴った。
次の瞬間。

「ツカサ〜〜〜っ!!」

自分を止める間も無く、気付いた時には司に向かってひたすら一直線に駆け出していた。
何でここにいるのかはわからないけど、そんな事よりとにかく今は司に会えた事が嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
そして僕が近付くと組んでいた腕を解き、その腕を僅かに広げてくれた司の胸に勢いよく飛び込み、思いっきりギュゥ〜っと抱き付く。

会いたかった……
暁達にはたった4日ってバカにされるかもしれないけど、僕にとっては司と会えない1秒1秒がすごく長くて寂しい時間だったから……

司はポンポンと優しく背中を叩きながら、何も言わずに抱き締め返してくれていた。


予想もしていなかった時に大好きな人に会えるのって、こんなに幸せで嬉しい気持ちになるものなんだ……


大きくて温かくて、どんな場所よりも僕が一番安心出来る腕の中。

「ホントにツカサだ……」

4日振りの感触をしばらく堪能した後、司の腰に抱き付いたまま透明な瞳を見上げた。
司も僕を腕の中に囲い入れたまま、優しく見下ろしてくれる。

「土曜まで会えないんじゃなかったの?」

「朝で引継ぎが終わったから、午前中の内に次の
 現場に移ったんだ。
 だから昼飯を買うついでにここに寄った。」

「ついでって……次の現場はどこ?」

「俺の家の裏。
 しばらくはそこが仕事先になる。」

「えっ?!ホントっ?!
 じゃ、じゃあもしかしてまたこうやって会える?!」

「時間が合えばな」

「やった〜っ!!」

嬉しさのあまり司の胸にぐりぐり顔を擦り付けた。

司は仕事なんだから、もちろん毎日会えるなんて贅沢な事は思ってない。
でも、僕が学校にいる間も司が近くにいて、会える可能性があると思えるだけですっごくすっごく幸せ……


「お〜い、そこのバカップルぅ〜。
 いつまでやってるつもりだ〜?」

突然すぐ近くで聞こえた暁の声にハッとしてそちらを見ると、呆れたように大げさな溜息を吐いている暁の隣で、奏と響も苦笑しながら僕達を見ている。

……ここが学校だって、すっかり忘れてた……

慌てて司から離れながら 『あ、あの、えと、ご、ごめんね?』 と真っ赤になってしどろもどろに謝ると、司はまた小さく笑いながらポンポンと優しく肩を叩いてくれたので、それにホッとしながら照れ笑いを返した。