シリーズTOP



司が載っていたのは巻頭にある特集ページ。
どうやらデートの時に着る服や身につけるアクセサリーの特集らしく、どの写真も同じモデルの女の人と写っていた。

あの甘い匂いの人だ……

司に寄り添うようにして写っているとても綺麗なその人は、女の人にしては僕よりもずっと背が高いらしく、司とのバランスが丁度いい。
羨ましいな……とはどうしても思ってしまうけれど、でももう司の気持ちを疑ったりしない僕は、ちょっとだけ面白くない気持ちは横に置いておき、とにかく1ページ1ページ夢中で司だけを眺めて行く。


普段の司なら絶対選ばないような服を着ていたり帽子を被っていたりはするけれど、それでもやっぱりどれも似合っていて、想像以上にカッコ良かった。
だけど何度も繰り返しそれを見ているうちに、どうしても何かが腑に落ちなくなって来る。

なんでかな〜?
確かに司は司なんだし、何が違うのかはよくわかんないけど……
でもなんだかいつもの司と違和感がある。

そう思いながら雑誌と司本人を交互に眺めていた僕は、突然クシャッと髪を撫でられてハッと我に返った。
慌てて司本人を見ると小さく笑って僕を見ていたので、やっぱりいつもの司だ〜、とホッと安心しながら笑い返した。


「どうした〜忍?
 皆瀬のカッコ良さに声も出ないのか〜?」

暁のからかうような言葉は少しだけ癪に障ったんだけど、でもなんだか今はそれどころじゃなくて、僕はまた雑誌と本物の司を交互に見ながら首を傾げる。

「ん〜……
 確かに雑誌の中の司もすごくカッコいいんだけど……
 なんか違うんだよね〜……」

すると僕以外の4人が顔を見合わせ、『忍の場合、野生の勘、って感じだよね』 という奏の台詞で全員がクスクス笑い始めた。

「野生の勘ってなんの話?」

不思議に思いながら誰ともなく聞くと、響が笑いながら

「どこが違うかわかるか?」

と聞いて来た。
なのでもう一度最初から1ページずつめくりながら雑誌の中の司を眺める。

「普段司が着ないような服とか着てるけど、それは別に
 そんなに気にならないんだ。
 イヤーカフをつけてないのも、学園にいた時にいっぱい
 見てるし…………あっ!なんか目が違うっ!」

公園のベンチに座っている司が、腕を組んでいる女の人に向けている目を見て突然気が付いた。
すぐにパッと隣を見ると、司はいつもの透明な瞳で僕を見ながら、うん、と頷いてくれる。
正解だったのが嬉しくてエヘヘと笑ったものの、肝心の、何故目が違うのかの理由がわからない。

「なんで違うの?」

すぐに司に尋ねたんだけど、司は少し困ったように笑っているだけ。
すると奏が 『忍、俺の方を見てごらん』 と言ったので、言われた通りに奏の方を見る。

「その雑誌の皆瀬の目を見ても、俺達にはいつもとほとんど
 同じにしか見えない。
 だけど忍が違うと感じるなら、それだけ皆瀬がいつも忍を
 特別な目で見ているって事だ。
 自分にとって特別な人を意識する時は、誰でもその人を見る
 目が優しく変わったり、相手の動き一つ一つに耳をそばだ
 てるように変わったり、色々変わるものなんだよ。」

そういえば、双子達が付き合っていた事に司が気付いたのは、奏を見る時の響の目が変わるからって言っていた。
そっか、そういう事だったんだ。
じゃあそれだけ司が僕を特別だと思ってくれてるって事……


何だか照れ臭いけれどすごく嬉しくて、下を向きながらニヤニヤ笑いを隠していると、

「もう1回ちゃんと俺を見て」

と、また奏が声をかけて来た。
なのでもう一度しっかりと奏を見ると、優しく笑いながらうんと頷いてくれた。

「じゃあ皆瀬を見てごらん」

その言葉に従ってピッと隣の司を見る。
その途端響と暁が突然吹き出して笑い始めた。
司を見ろと言った奏までがクスクス笑っている。

「忍ぅ〜、目がハートに変わったぞ〜!」

……ボンッと顔に火が点いた。
司は暁の台詞に苦笑しているし、どうしたらいいんだかわからなくなって、咄嗟に手の届いた枕の1つを双子達に向かって投げつける。
だけど悔しい事に二人共笑いながらヒョイと避けてしまう。

「なんだよっ、みんなで僕をからかってっ!」

もう1個の枕を暁に向かって思いっきり投げる。
でも暁も笑いながらポフッと上手くそれを受け取ってしまった。

「司は誰よりも特別なんだから僕だって目ぐらい
 変わるもんっ!
 それのどこが悪いんだよっ!」

もう枕がないので、ふと目についた、まだ全然手をつけていない僕のリンゴジュースをガシッと掴む。
それを3人に向かって投げつけようとした時、突然ふわりと抱き込まれ、ペットボトルを握っている手の上から大きな手で包み込むように掴んで止められた。

「忍は全然悪くないが、さすがにこれは止めておけ」

ハスキーな低い声で耳元に囁かれ、途端にドキンと心臓が跳ね上がって勢いをそがれてしまう。
フッと脱力してしまった体で抱き寄せられるまま司の胸に寄りかかり、照れ臭さと嬉しさで赤くなっている顔は放っておいて、うん、と頷いた。
そして司の手に従って大人しくペットボトルを手渡す。


「悪りぃ悪りぃ、忍をからかうのって面白くてな〜」

暁に続いて響と奏も苦笑しながら謝ってくれたので、僕に回されている腕に両手でつかまりながら 『もういいよ』 と笑って返した。
司は僕を片腕で抱えたままペットボトルをテーブルに戻し、『気持ちはよくわかる』 と笑っている。

司の台詞に、ん?と首を傾げていると、『皆瀬はモデルより調教師の方が向いてるよ』 と奏が苦笑し、それに響がニヤッと笑いながら 『人畜無害に見えて実は獰猛な小動物、のな?』 と付け足した。
すると暁が 『俺達には噛み付かないよう調教してくれよ〜?』 と笑いながら持っていた枕を司に向かって投げ返し、それを片手で受け取った司も笑いながら頷いている。

会話の意味がさっぱりわからない僕は、何でいきなり調教師なんだろう?と更に首を傾げながら、司の腕につかまったまま頭の中でサーカスを思い浮かべていた。