翌日からしばらく俺は黙って様子を見る事にした。
ヨドカワは他の奴らとは何事もなかったように普通に振舞っていた
が、前みたいに俺に憎まれ口をきいたりする事が一切なくなった。

だけどその分、どこか辛そうな目をして俺を見てくる事がある。
また何かあったんだろうか、と心配にはなるが、
恋人ではないものの合意の上でそういう行為をしているわけだし、
ヨドカワから何も言って来ない以上俺からそこに踏み込む事は
出来なかった。


蒸し暑い梅雨の中、俺達の制服は夏服に変わった。
だがヨドカワは長袖の服を着込んだまま、袖を捲ろうともしない。
リストバンドも相変わらずしているようだ。

最近生徒同士の間で、
この暑さなのに何故いつまでもヨドカワは長袖なのか、と話題に
なる事がある。
エアコンの効きが悪い校舎で、いつまで経ってもこのままじゃ、
更に不審がられるようになるだろう。
そろそろヨドカワに注意してやらないと、と思っていた矢先だった。


いつも通りA組の教室で昼飯を4人で食っている時、
隣に座っていた奴等がその話題を始めた。
カナデとシノブが別の話をしていたが、
俺はすっかりそっちに気を取られてしまった。

「ヨドカワって何でいつまで経っても長袖なんだろう?
 暑くないのか?」

一人がそう言うと、

「確かになぁ〜。
 いくら寒がりでも、教室の中なんて25℃以上あるのに
 おかしいよな。
 でもこの前なんて額に汗かきながら授業していたぞ。
 だから何か半袖になれない理由でもあるんじゃねえか?」

ともう一人が答えた。
半袖になれない理由なんて、体の傷痕を見せない為に
決まっている。

「でも理由なんて何がある?刺青とか?」

「おいおい。いくらなんでも教師が刺青なんてしてないだろ〜。
 それを言うなら何か傷痕があるとかじゃないか?
 そう言えば小学校で同じクラスだったヤツが、
 小さい時の火傷の痕を見られない為にずっと長袖だった事が
 あったぞ。
 なんだか可哀想だったけどな。」

「そうそう傷痕で思い出したけど、この前日直だったから職員室に
 行ったんだよ。
 そしたら横尾(ヨコオ)が日誌を取る為に引き出しを開けた時、
 怪しい写真が何枚も入ってたんだ。
 慌てて閉めたから顔までは見えなかったけどな。
 男が縛られたりしてるヤツだったよ。」

「SMの写真か〜?それもホモ?何だかあまりにもヨコオらしぃ〜。
 もしかしてヨドカワも、縛られた痕を隠す為にあのリストバンドを
 してたりして。」

「あ、それありがちありがち〜」

そう言って笑うのを聞きながら、俺はドキッとする。

ヨコオはシノブ達の担任で、俺達のクラスの数学も担当しているが、
正直俺が大嫌いな奴だった。
不潔っぽくて、いつも生徒をバカにするような口しか利かない。
その上40代前半位なのだろうが、薄くなった髪が脂ぎっていて
腹も出ているし、俺は生理的に受け付けられなかった。


まさかヨドカワの相手はヨコオなんだろうか。
もしかして隣の奴等が見た写真って、ヨドカワなんじゃ……

カナデ達が俺に話しかけている事にも気付かず、一人で考え込む。
そしてその俺をタカナシが黙って見ていた。