その後、いい加減着替えをさせないとまずいだろうと思い、
準備室に戻るか?と聞くと少し悩みながらも頷いたので、
俺達は用具室を出て1階に下りた。


ドアの前に来ると、いまだに放してくれない俺の学ランを
更にギュッと強く掴んでくる。
襲われた後なんだろうから、不安になって当たり前だ。
何だか守ってやらなきゃいけない気分になって、斜め後ろの
ヨドカワを振り返り、『俺がいるから大丈夫』と思わず口走っていた。
すると縋りつくような眼で俺を見返してくる。
その視線にドキッとしながら、大丈夫、ともう一度言い聞かせて
俺がドアを開けた。


中に入っては見たものの、誰もいる気配は無い。
ただ昨日は結構整頓されているな、と思った部屋の中は散乱して
おり、俺がドアの外で聞いていた音が、
ヨドカワが抵抗した音だったのだろうと容易に想像できた。

ようやくホッとしたのか、ふ〜、と息を吐いている。

「着替えた方がいいだろ?」

俺がそういうと、そうだな、と言ってロッカーに向かおうとして、
初めて自分が俺の学ランを掴んでいた事に気が付いたらしい。
慌てて俺から手を放すと、悪かったな、と言って赤くなりながら
少し口を尖らせてロッカーに向かう。

その顔がまたしても子供っぽく、
やっぱり可愛いと思ってしまった自分に本気で戸惑った。


ヨドカワが着替えている間、散乱した机の上を整頓したり、
さっき廊下に置きっ放しにしていたジャージを取りに行ったりした。
またヨドカワを襲った奴が戻って来たら困るのでドアの鍵もしめ、
ある程度片付け終わってヨドカワを見ると、いまだに着替え終わって
いない。

どうしたのだろうと覗き込むと、さっきまでの極度の緊張が取れた
反動だろうか、手がブルブルと震えている。
何とかトレーナーだけは頭から被れたようだが、
まともにジーンズのボタンを留められないようだった。

「貸してみ。」

そう言って手を退けさせ、ヨドカワの前にしゃがんでから
ボタンを留めてファスナーを上げ、
ずれていたリストバンドも痕が見えないように直してやる。
その間ヨドカワは息を飲んで突っ立っていた。
襲われた直後に誰かに触られるのは嫌だろうと思って、
出来るだけ触れないようにしたんだが大丈夫だっただろうか。

そう思って顔を見上げてみたが、
気まずそうに赤くなりながら顔を逸らしただけで
怯えの色がない事に少しホッとした。


ヨドカワにソファに座るように言って、俺も向かいの一人掛けの
ソファに座る。
置いてあったポットからコーヒーを二人分注ぎ、
いまだに震えている手にゆっくり渡した。
ヨドカワはそれを一口飲んで、ホッと息を吐く。

「……色々……悪かったな……」

俺から少し視線を逸らしてそう呟いた。

「俺は別に平気だけど。先生こそ大丈夫か?
 こういう事はちゃんとして置かないと、また同じ事が起きたら
 困るだろ?
 相手は知ってる奴?」

と聞くと、うん、と頷く。

「その手首の痕は?それもそいつに付けられたのか?」

また頷く。

「……じゃあ、もしかして何度も無理やり襲われた?」

すると少し迷った後、首を横に振った。

……合意の上、って事か。

でもどういう事だ?
今まで縛られたり鞭で打たれたりしたのは合意で、今日は合意じゃ
ない。
じゃあヨドカワが今日はその気じゃなくて、
それなのに相手が無理やりやろうとしたってことか……?
何だかゲイの痴話喧嘩みたいだ。
もしそうだとしたら、そういう趣味を持った奴の喧嘩って、
結構怖い物があるな。

「そいつは恋人?」

俺がそう聞くと、顔をあげてキッと俺を睨みつけてくる。
そして、恋人なんかいない、と言った後、
その口が何かを続けて言いたそうに少し動いたが、
結局そのまま言葉を発する事は無く、また下を向いてしまった。