ヨドカワは思っていたよりも足が速く、
学ランを掴まれている不自然な格好で付いて行くのは
結構大変だった。
どこまで行くんだろうと思った時、
屋上の手前にある用具室の戸を開けて中に入って
ヨドカワはそのまま鍵をしめ、俺達はハァハァ言いながら
床に座り込む。
だが、ヨドカワはまだ俺の学ランを右手で掴んだまま放さなかった。


ようやく呼吸が落ち着いてきて、隣で下を向いているヨドカワを見た。
走っている最中は余裕がなくて気が付かなかったが、
よく見ると穿いていたホワイトジーンズは床で擦った様に
あちこち汚れているし、左手で前を押さえているシャツの前ボタンは、
いくつか引きちぎられた様に無くなっていた。
その上俺の学ランを掴んでいる手は震え、殴られたのか口端が
切れて血が滲んでいる。

……これはどう考えても襲われたっていう感じじゃないか?

でも誰に?
この状況じゃ、さすがにオンナに襲われたとは思えない。
いくら細身だとは言っても曲がりなりにも男だし、
本気で抵抗すればオンナなんか敵わないだろう。

じゃあ男?
今時部外者が勝手に学校内に入る事は出来ないし、
それならうちの学校の奴か?
ヨドカワは確かに人気がある方だから、狙っている奴も
少なくないのだろう。
でもそれはあくまでも憧れのような物で、
あの双子達のように本当に肉体関係を結ぶまでとなれば、
よっぽどの事だと思っていた。

昨日見た手首の痕は、やっぱりプレイではなく、無理やり男に
ヤラれたっていう事だったのだろうか?
それも何回も……?

……ヨドカワに何が起きているのか聞いてみたい気にはなるが、
さすがに今それは出来ない。
なので俺は掴まれていない右手でゴソゴソとポケットを探り、
ハンカチを差し出した。


「大丈夫か?」

そう聞くと、ヨドカワはゆっくり顔をあげた。
そして怯えた様な、悲しそうな目で俺を見た後、シャツを押さえていた
手を放してハンカチを受け取り、悪い、と小さく言って口端の血を拭く。

押さえていた手を放したせいでシャツの前がはだけ、
中に着ていたTシャツが何か鋭い物で切り裂かれたのだとわかる。
そしてその間から覗く適度に日焼けした胸に、
今出来たのではない、治りかけの赤い斜めの線が
いく筋も走っているのが見えた。

……鞭で打たれた……?

裸の胸に一瞬ドキッとしながらそう思う。
男の胸なんか全く興味などないのに。
でも、触ると滑らかそうなその肌に、
そんな痛々しい痕をつけるヤツの気がしれない。


ヨドカワの血がようやく止まったと思った時、5時間目の始業の鐘が
鳴った。
お互いにハッとして顔を見合わせる。

「授業があるのか?」

俺が聞くと首を横に振った。
行かないのか?と聞かれたが、俺も首を横に振る。


さすがにこの状態でヨドカワを置いてはいけない。
本当はこんな時、ヨドカワの恋人かなんかが傍にいてやるのが
一番いいんだろうが、恋人がいるのかどうかなんて知らないし、
この状況じゃ贅沢も言っていられない。
だから取りあえずは俺で我慢してもらって、
せめてもう少し落ち着くまで傍にいてやらなくちゃな。

それにしても、『行かないのか』と聞いてくる割には俺の学ランを
しっかり掴んだまま放そうとしない。
きっと一人になるのが不安で無意識にやっている事なんだろうが、
初めて見たそんな様子が妙に子供っぽい。

何だか可愛いな、と思って、一瞬後自分自身に驚く。

……いい加減俺も双子に影響されまくってるな……

そう思いながらこれからどうしようと考えた。