英語準備室まで来てドアをノックしようとした時、中から何やら
話し声が聞こえた。
さすがに誰かがいる場所で出来る話でもないから、
中にいる奴が出てきてからにしようとドアの横に座り込んだ。
教室と離れているおかげで、付近には誰もいない。
持っていたジャージを横に置き、廊下の窓に目を向けて外を眺める。
黒雲に覆われた空。
ザーザーと相変わらず降り続く雨。
別に雨自体好きでも嫌いでもないが、バイトに行く事を考えると
気が滅入る。
母親は自分が頑張るからバイトなんてしなくていいと言ってくれるん
だが、高校の学費だけでも結構かかってるだろうし、
やはり将来の事を考えれば大学にも行っておきたいと思う。
その為には少しでも貯めれる物は貯めて、
出来るだけ母親の負担を軽くしてやりたかった。
何か部活動をやりたいと思った事もあったが、そんな贅沢も
言っていられない。
だから高校に入ると同時に近所の酒屋でバイトを始めたんだが、
これが結構正解だった。
当然配達もあるわけだから、今まで自分が入った事の無い店とかにも
沢山出入りするようになったんだが、自分の知らなかった世界の
舞台裏が見えたりして、これがなかなか楽しい。
その上重い物を沢山持たされるおかげで、わざわざ筋トレなんか
しなくても、なかなかいい風に筋肉も付いて、体も引き締まってきたと
自画自賛している。
大変と言えば大変だけど、思ってたよりもずっと楽しんでバイトを
やっていた。
ガチャン!ドン!
準備室の中から突然派手な音が響いた。
誰かが怒鳴る声も。
どうしたんだろう?何かあったのか?
俺は少し迷ったものの、立ち上がってドアのすぐ前まで行き、
コンコンとノックした。
……返事は無い。
中の音もピタッと止まった。
そのまま開けようとしてみたが、中からは鍵がかけられている。
「お〜い。大丈夫ですか〜。何か大きい音が聞こえましたけど〜。」
もう一度ドンドンとドアを叩きながら、呼びかけてみた。
だが相変わらずシーンと静まり返っている。
どうしようか?と思った時、中から、オオトモっ!と呼ばれた気がした。
この声は……
「先生か?!ちょっと!ここ開けろよ!どうしたんだよっ?!」
俺がガタガタとドアを揺す振っていると、また中から何やら音がして、
突然ドアが開いた。
それと同時にヨドカワが走り出てきて、驚いている俺の学ランの
左肘あたりを掴み、近くにあった階段を駆け上る。
俺は何が何だかわからず、取りあえずは学ランを掴まれたまま
ヨドカワに付いて行った。