5周走り終わった時には、既に帰りのHRも終わっている時間だった。
元々出されたのが授業の終わり頃だったし、一生懸命
走った訳でもない。
まぁどうせHRに出た所で、ヨドカワのムカつく顔を
見なきゃいけなかったからいいんだけど。
靴を履き替えに戻った時は、当然ずぶ濡れだった。
「大丈夫か?」
そう言って水を滴らせている俺にタオルを差し出してくれたのは
カナデ。
その横にはカナデの双子の弟兼恋人の高梨響(タカナシヒビキ)と、
タカナシの親友の橋元忍(ハシモトシノブ)もいる。
サンキュ、と言ってタオルを受け取った俺に、
「うわ〜、さすがにベチャベチャだね〜。」
とシノブが言い、
「自業自得だな。」
とタカナシが苦笑する。
それに俺も苦笑して返しながらざっと髪だけ拭いた。
「ヨドカワが英語準備室に来いって言ってたよ。」
というカナデの台詞に、俺ははぁ〜と溜息を吐いた。
嫌な事は早く終わらそうと、俺は靴下を脱いだだけの格好で
準備室に向かう。
途中色んな奴にからかわれたが、俺はただ笑って済まし、
準備室のドアを一度ノックしてから開けた。
中に入ると、正面に座っているヨドカワが俺を見た。
「……ここに座れ。」
と自分の後ろにあるソファを指差して言う。
やれやれ、と思いながらソファに座ると、
濡れた下着が尻に張り付いて気持ち悪かった。
まぁでもそんな事も言っていられないので、俺は何となく
準備室を見回す。
ドアの横にロッカーと本棚がいくつか並び、
真ん中にコの字型でつけられた教師用の机が3つある。
ヨドカワの机は奥のヤツだ。
その後ろに今俺が座っているソファがあるわけだが、
どこの学校にもありそうなこげ茶色のビニール製で、
所々穴が開いてスポンジがはみ出ている。
それでも一応俺が座っている二人掛け用と
テーブルを挟んで一人掛け用が2つ並んでおり、
それなりに応接セットの役目を果たしているらしい。
テーブルの上にはコーヒーセットもあるし、なかなか使い心地は
良さそうだ。
ここは現在ヨドカワしか使っていないらしい。
この準備室が教室から大分離れた場所にあるので、
他の英語教師は職員室を使っているという話を前に
カナデがしていた。
……結構綺麗に整頓してるじゃん……
そう思っていると、突然ヨドカワが立ち上がった。
何をするのかと黙って見ていたら、窓のカーテンを閉めた後
ロッカーからタオルを出してきて、座っている俺の頭を乱暴に
拭き始める。
「お、おい!」
まさかこいつにそんな事をされるとは夢にも思っていなかったので、
俺は焦って逃げようとする。
が、ヨドカワは一向に構う様子も無く、
「ソファが汚れる。」
と言って頭を拭き終わると、今度は着替えのジャージを俺に
突きつける。
一々嫌味な事にムッとするが、確かにこのままじゃ風邪を引く。
でも、俺の為にわざわざカーテンを閉めてくれたんだろうし、
着替えのジャージまで用意してくれていた事を思うと、
結構気が利く所もあるんだな、と思って無言でそれを受け取り、
その場で立ち上がって体に張り付いたシャツを脱ぎ捨てた。
ジャージの上を着た後、カチャカチャと音をさせながらベルトを外して
ふと見ると、ヨドカワが自分の椅子に座って真っ直ぐに俺を見ていた。
「……着替え辛いだろ?」
と俺が言うと、慌てた様に眼を逸らして机に向かった。
……何だか耳が少し赤いような……
ま、気のせいか。
そう思いながらヨドカワに背を向けて、ズボンとボクサーパンツを
脱ぎ捨てる。
さすがに下着の替えまでは無かったので、俺はそのままジャージを
穿いた。
そしてもう一度ソファに座ると、もういいぞ、とヨドカワに告げた。