ザー……

梅雨に入ってからというもの、毎日の雨にウンザリする。
窓際の席に座る俺は、雨にさらされるグラウンドをぼんやり眺めながら
小さく溜息を吐いた。
今日もバイトだっていうのに、この雨じゃ自転車にも
乗っていけない……


ボコッ

「……って〜……」

突然頭をグーで殴られ、その場所を手で抑えながら俺を殴った
手の方を見上げた。
そこに立っていたのは、今俺が6時間目の授業を受けている
英語の教師、淀川雅史(ヨドカワマサシ)。
又の名を担任とも言う。

「大友(オオトモ)、雨を見るのはそんなに楽しいか?」

その嫌味にムカついて、あぁ、と答える。

「俺の授業よりもか?」

また、あぁ、と答えた。

「そうか。そんなに好きなら直接見て来い。グラウンド5周だ。」

「はっ?!雨降ってるんだぞ?!」

「もちろんわかってる。でも、俺の授業より雨が好きなんだろ?」

そう言って俺を無理やり立たせ、背中を押す。
隣の席に座る高梨奏(タカナシカナデ)が俺の方を苦笑しながら
見ていた。

「ほら早く行け。」

……やれやれ。
ヨドカワの声に渋々従って、俺はグラウンドに向かった。


外靴に履き替えてグラウンドに出る。
当然雨。その上暴風雨と言っても良い位だ。
かと言ってヨドカワの事だから窓からチェックを入れてるだろうし、
サボるわけにもいかない。
しょうがなく学ランの上だけ脱いで、走り出た。

走りながら校舎の方を見ると、やっぱり教室の窓からヨドカワが
俺の方を見ている。

……あいつ、チェック厳しいんだよな

そう思いながらトロトロと走り続けた。


ヨドカワは俺達が2年に上がると同時にうちの高校に来た。
身長は175pの俺より少し低いから170ぐらいか?
どっちかと言えば痩せ型だが、まぁ華奢と言うほどでもない。
服のセンスもまぁまぁ良く、
両手首につけているリストバンドがトレードマークになっている。
今日は黒のパラシュートパンツにグレーのトレーナー、
そしてゴツイ黒のレザーブレスレットを両手首につけていた。

顔が綺麗で一見取っ付き辛そうに見えるが、
気取った話し方もしないし、愛想もいい。
その上大学を卒業したばかりだから若いという事もあってか、
男ばかりのこの学園では結構人気が集まっている。

別に男同士が悪いとはちっとも思わないし、
現に親友のカナデだって男同士&双子という
これ以上無いってぐらいの禁断の道をまっしぐらに突き進んでいる。
でも俺は男なんか全く興味は無い。
ごつごつしたデカイ体を抱くよりも、
ちっちゃくて柔らかいオンナを抱いた方がよっぽどいい。

それに何故かヨドカワは一々俺に口出しをしてくる。
それもイイ事なんか一つも無く、
余所見をするなだの制服がだらしないだの目付きが悪いだの、
なんだかんだとうるさい。
他の奴には愛想が良いクセに、それを見ていると何で俺だけ?と
腹が立つ。

カナデは、ヨドカワは暁(サトル)の事を気に入っているんだよ、と
笑いながら言うがそれはないだろう。
子供じゃあるまいし、
気に入っている奴にイジワルするなんて有り得ないと思うんだが。