| 翌日から1週間、俺は自宅謹慎になった。 別に俺が悪い事をしたからではなく、まずは怪我を負った俺を
 休ませる目的と、事が事なだけに噂の的になって嫌な思いを
 しないように、という学校側の配慮らしい。
 母親には最低限の事情しか話はしなかったが、サトルを信じて
 いるから、と言った後『バイト先にも連絡入れておくから、この際
 ゆっくり休みなさい?』と笑って許してくれた。
 カナデから連絡を貰った所によると、ヨドカワも同じく1週間の謹慎と
 いう事だった。
 ヨコオがこれからどうなるのか難しい事は俺にはわからないけれど、
 警察の事情聴取に行った時に聞いた話だと、懲戒免職という処分が
 下され、しばらく精神病院に入院する事になったようだ。
 
ヨドカワがあの後学校側と警察にどう説明したかは知らないが、ヨコオを告訴するつもりはないらしいし、俺もヨコオが二度と
 ヨドカワの前に顔を出さないならそれでいいと思っている。
 
俺はあの日以来一度もヨドカワに会ってもいないし、電話で話をする事も出来なかった。
 一言でもいいから話がしたいと、携帯の番号は知らないので
 何度も自宅に電話をかけてみたのだが、空しく留守電の
 応答メッセージが流れるのみだった。
 怪我の痛みも腫れもほぼひいてきた謹慎の最終日、母親が
 いつも通り仕事に行った後、俺の携帯に電話がかかってきた。
 番号を見ても『非通知』
 一体誰だろうと思ってピッと受話ボタンを押す。
 
「はい?」 
無言だ。周りからは雨が降る音しか聞こえない。 
「もしもし?誰?」 
それでも何も言わない。俺は、もしや、と思った。
 
「もしもし?ヨドカワか?なぁ、先生なんだろ?何か言えよ」 
するとしばらくして、 
『……なんで俺だと思うんだよ?』 
と以前のような憎まれ口が返ってきた。その事に不思議な安堵感と嬉しさが込み上げて、
 思わずクスッと笑ってしまう。
 
「今どこにいるんだよ?どうしても先生と会って話がしたいんだけど?」
 
『……このまま電話で話せばいいだろ?』 
「ま〜たそういう言い方するし。なぁ俺今すぐ家を出られるから、どこにいるのか教えろよ。」
 
『……』 
無言のままヨドカワが歩き出したらしい音がした。 
ピンポーン 
俺んちの玄関のチャイムが鳴る。受話器を耳にあてたまま急いで階段を駆け下りて玄関を開けると、
 そこには俺と同じ様に受話器を耳にあて
 
「『ここにいる……』」 
と子供の様に少し口を尖らせて言うヨドカワの姿があった。 
 
 
 
       
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