居間に入ると既に残り4人が揃っていて、高梨が設置されたカメラの調整をしていた。
俺も高梨も皆瀬もトナカイはまだ被ってはいないが、忍と奏は居間の壁際にいたので、雅史はそちらに近付いて何事か話しながら3人で恥ずかしそうに立っていた。
皆瀬が座っているソファの隣に腰掛けながらその3人を見て少なからず驚き、思わず皆瀬に声をかけた。
「やっぱ女の人の見る目って違うのか?
予想では目も当てられない図だったのに、奏まで
違和感がないのはどうしてだ?」
すると皆瀬が苦笑しながら返事をした。
「忍と淀川は最初から間違いなく似合うだろうと思っていたが、
さすがに兄は意外だっただろう?」
するとカメラの調整を終えたらしい高梨が近付いて来て、その会話を耳に挟んだらしい。
「お袋は以前から奏にあの格好をさせたかったらしい。
当然奏は断り続けていたから、今回は嬉しくて堪らない
だろうな。」
忍はミニのフレアスカートでフード付きのケープを羽織っている。
ケープの前は白いボンボリの付いた赤い紐の蝶々結びで閉じられていて、ミニスカサンタというよりは赤ずきんちゃんといったイメージなのがモロ想像通り。
だが奏は俺が想像していたのとは違ってデカい男の気持ち悪い女装図ではなく、どちらかと言えばトップモデルという感じだった。
雅史や忍と同様ワンピースなんだが、ホルダーネックで白いフワフワの付いた二の腕までの赤い手袋をはめ、胸には雅史と同じ様な大きな白いボンボリが付けられている。
スカートの丈自体は二人より少し長めだが、足の付け根までスリットが入っていて、普段親友と称する俺が驚くほど別人のように迫力があって綺麗に見える。
雅史は……普段服を着ている時はそんなに柔に見える方じゃないのに、他の二人に比べて露出度が多いせいか、匂い立つ様な色気が漂っているように見えるのは俺の贔屓目か?
「暁、淀川を着替えさせるのは大変だっただろう?
俺のベッドを汚してないだろうな?」
高梨が先程雅史に付けられたキスマークを指差して、ニヤッと笑いながらからかってきたので
「生憎俺は淡白じゃないから時間が足りなくてな。
そういうお前も奏に痕を残しているし、皆瀬は
どうせ見えない所に付けてるんだろ?」
と返した。
奏の鎖骨の辺りには新しいキスマークが見えるし、皆瀬の性格を考えると見えない所に痕を付けているのだろうと予想が付いた。
皆瀬が、次回は替えのシーツも用意してもらわないとな、と言ったので、そのまま3人で苦笑する。
俺達3人はきっとお互いの恋人を着替えさせる為に、それぞれが色々苦労をしたのだろう。
まぁそれでも真澄さんのおかげで可愛い恋人の姿を見れたから、今年はいいクリスマスなのかもしれない。(トナカイの被り物は間違いなく俺が一番似合う自信があるし)
誰がどこに座るだの何だのとごちゃごちゃ揉めながらようやくソファとソファの周りに6人が集まった。
そして、トナカイの被り物を被って赤い鼻を付けるとまるで別の生き物のように見える高梨がカメラのリモコンを持って合図を出し、6人で1枚の写真に納まった。
けれどせっかくだからと少しずつポーズや場所を変え、何だかんだ言って爆笑しながらえらく盛り上がり、結局はフィルムを丸々使い切るほどに写真を撮りまくった。
その後、トナカイのイメージにはかすりもせず、赤い鼻をした何かの怪物に見える皆瀬が被り物を脱ぎ、それをゴソゴソといじりながら小さく畳んだメモの様なものを取り出した。
「なんだ、それ?」
「わからない。
さっきから頭に何かあたるなと思っていたんだ。」
皆瀬がそのメモをガサガサと開くのを、全員で何だろうと覗き込む。
『Merry Christmas 皆瀬くん。
若いうちの苦労は買ってでもしろと言いますが、
今の努力は必ず君の為になりますよ。
いつも頑張っている愛しい君に、ハッピーなクリスマスが
訪れますように。 高梨真澄』
皆瀬は少し驚いた表情をした後、珍しく照れ臭そうに笑った。
……だからわざわざ名前を付けて、誰の衣装かを指定していたんだ。
皆それぞれに自分の衣装をゴソゴソと探り出し、俺も自分で被っていたトナカイの角のつなぎ目に同じメモ用紙を見つけた。
『Merry Christmas 暁くん。
いつでも周りに気を配ってくれる君のおかげで、どれだけ
周囲の人達が助けられているかわかりません。
心の優しい愛しい君に、ハッピーなクリスマスが訪れます
ように。 高梨真澄』
……やっぱり何だか照れ臭いな〜。
頭をポリポリと掻きながら、隣の雅史がポケットから取り出したメモを覗き込む。
『Merry Christmas 淀川先生。
社会に出て初めての年ですから色んな不安や苦労もあるで
しょうが、保護者としてとてもいい先生だと感謝しています。
禁断の恋に踏み切った勇気ある愛しい君に、ハッピーな
クリスマスが訪れますように。 高梨真澄』
雅史は少し赤くなりながら目を潤ませている。
微妙な立場の雅史にすれば、このメモは全ての不安を拭い去ってくれる素晴らしいクリスマスプレゼントになっただろう。
このメンバーだから見られてもいいか、と思いつつ片腕で雅史の頭を抱き寄せ、柔らかい髪に一度唇を落とした。
雅史も抵抗する事無く、おとなしく俺の肩に顔を埋めている。
俺と同じ様に奏の頭を抱き寄せている高梨や、号泣している忍を膝に乗せて抱き締めてやっている皆瀬と苦笑を交わしながら、お互いにメモを交換し合ってそれぞれの内容を見せ合った。
『Merry Christmas 響。
空手も勉強も頑張り続け、その上兄を守ろうと必死に
戦い続ける君を、親として誇りに思います。
いつでも強くあろうと努力を続ける愛しい息子に、
ハッピーなクリスマスが訪れますように。 母』
『Merry Christmas 奏。
いつでも弟と家族を一番に考え、その為には努力を惜しま
ない一生懸命な君を、親として誇りに思います。
努力家で勉強家な愛しい息子に、ハッピーなクリスマスが
訪れますように。 母』
『Merry Christmas 忍ちゃん。
寂しい思いをする事も多いでしょうが、双子達の弟として
いつでも母親代わりのように君を大切に思っています。
いつまでも少年の心を忘れない愛しい君に、ハッピーな
クリスマスが訪れますように。 高梨真澄』
普段は元気いっぱいだが、母親のいない寂しさはやはり辛い時もあるだろう忍には、さすがにこのメモは堪らないだろう。
……なかなかやるじゃん、双子の母ちゃん……
貴重な青春の1ページ。
きっとこの先それぞれ選ぶ道が別れるだろうが、それでも毎年クリスマスぐらいはこのメンバーで過ごせるといいな、と思った。
まぁ6人全員集まるのが難しくても、俺は間違いなく毎年雅史とクリスマスを過ごしていくだろうし、たとえ過ごす場所は違ったとしても、いつでも全員の心は一緒にいられるだろう。
温かい愛情に満ちた今日という日を、俺達6人は決して忘れないだろうから。
とんだクリスマスになったものの、終わり良ければ全て良しって事で、今年は本物のサンタクロースだった真澄さんに心から感謝だな。
俺達のように、温かくてハッピーなクリスマスが世界中の人達に訪れますように……
Merry Christmas with you!