俺は一度大きく溜息を吐いた。
いつまでもこんな事をしていたって始まらない。

「撮るなら今すぐ撮っちまおうぜ。
 さっさと終わらせて、せっかく奏と真澄さんが作って
 くれた料理をゆっくり食った方がいいだろ?
 奏は侘びを込めて作ってくれたんだろうし、真澄さんは
 ……まぁお礼ってところか。」

俺がそう言うとみんな溜息を吐きながら頷き、相変わらず申し訳なさそうに頭を下げている奏の肩を、皆瀬がポンポンと軽く叩いた。


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2階の奏の部屋で奏と高梨が、俺と雅史は高梨の部屋、忍と皆瀬は1階の真澄さん夫婦の部屋で着替え、居間に集まって全員で一枚の写真を撮る事にした。
俺と高梨と皆瀬の場合はただ被って赤い鼻を付けるだけなんだが、サンタの衣装は後にファスナーが付いていたりするので手伝いの為。

胡坐を組んで座っていた絨毯張りの床から立ち上がり、先程高梨が落とした衣装に近付くと、それぞれに 『響』『奏』『暁くん』『先生』『皆瀬くん』『忍ちゃん』 と書かれた黄色いポストイットが貼られていた。
サンタの衣装はサイズが違うし小物も色々あるから当然かもしれないが、トナカイの被り物や赤くて丸い鼻は全部同じサイズなんだし、わざわざ指定する必要がないのに。
きっちりしていて普段は明るく優しい、とても良い母親だと思うのに、何故趣味だけがおかしいんだか……


衣装を持ち、それぞれが自分の場所に散っていく。
高梨と奏に続いて2階に上がった俺と雅史は、二人が奏の部屋に入っていくのを見ながら高梨の部屋に入った。

扉を閉めると、先に入った雅史が胸にサンタの衣装を抱えたまま部屋の中央で立ち尽くしている。
そりゃそうだろう。
まさか自分の人生で、ミニスカサンタになる日が来るなんて夢にも思っていなかっただろうから。

勉強机の椅子をまたいで逆向きに座り、背もたれに両腕を置いてその上に顎を乗せながら黙って雅史を眺めていたものの、赤くなって立ち尽くしたままいつまでも身動き一つしない。
既に割り切ってしまった俺は、トナカイの被り物だろうが赤い鼻だろうがどうでもいいが、雅史は恥ずかしいだろうし嫌だろう。
だがそれはわかるけれど、いい加減覚悟を決めてもらわない事には時間ばかりが過ぎていく。

「ほら、早く着替えろよ」

「……余計なお世話だ」

「早くしないとあいつらを待たせる事になるぞ?」

「じゃあお前が着ればいいだろ?」

やれやれ……

キィ〜というキャスターの音を立てながら椅子から立ち上がり、『貸してみ』 と言いながら雅史の手から衣装を取り上げ、サンタ帽子と黒いビニールのベルトと手首に白いフワフワのついた赤い手袋はベッドの上に置き、服だけを両手にとってよく眺めてみる。
多分ベロアか何かの伸び縮みする柔らかい肌触りで、背中にファスナーのついた真っ赤な肩無しのミニタイトワンピース。
胸の所にぐるりと白いフワフワが付けられていて、腰の所に同じ白いフワフワが付いた小さなポケットがあり、細身のつくりだから体にピッタリとフィットするようになっているらしい。
雅史は男だから胸はないが、胸の所に付けられている一個の大きな白いボンボリが誤魔化しになるのかもしれない。

ふむふむほうほう、とひとしきり眺めた後ファスナーを開けてからそれを椅子の背にかけ、赤くなりながら 『何してるんだよ?』 と上目遣いに見上げてくる雅史を抱き寄せて、そのままキスをした。
一瞬驚いた様に暴れるが、少し強引に唇を割り、舌で歯列をなぞりながら軽く空いたそこに舌を捻じ込むと、そのままおとなしくなって俺のシャツにしがみついてくる。
こういうギャップがまた可愛いんだよな……とバカな事を思いつつ、あまり続けているとこちらまでヤバくなるので、唇を合わせたまま手早く雅史が着ているシャツを脱がせ、ゴツいベルトも外し、ブラックジーンズのボタンも外してそのまま脱がそうとする。
雅史は慌てたように俺の手を止めようとするが、後頭に片手を回してキスを深めると手から力が抜けたので、それを見計らってジーンズだけを脱がせた。

雅史のモノは下着越しにも反応しかけているのがわかるし、その上雅史の後ろにはベッドがある。
このまま押し倒したくて堪らなくなるが、どう考えてもそれは無理だ。
己に鞭打つという表現がまさに正しいな、と思いつつ椅子の背にかけていた衣装を手に取り、唇を離した。

「着せてやるから」

サンタの衣装を両手で持ってしゃがみながらそう言葉をかけて見上げると、今のキスのせいで目が潤んで全身を桜色に染めた雅史が、唇を噛み締めながら俺の肩に両手を置き、従順に片足ずつ衣装に足を踏み入れる。

……やっべぇ〜……

雅史より俺の方がどうにかなってしまいそうだ。
こんなに可愛いくて色っぽい雅史を前にして、これ以上手を出せないなんてマジで拷問だぜ……


そのまま服を引き上げて抱き締めながら背中のファスナーも閉めてやると、雅史はいきなり首に吸い付いて来た。
『お、おい!』 と焦って体を離そうとすると、『バカヤロ〜……』 と小声で言いながら震える息を吐いてポフッと俺の肩に顔を埋めてくる。

まったく……

間違いなく痕が付いているだろうが、まぁ気持ちがわからないでもないので、取り合えず雅史からのクリスマスプレゼントという事にでもしておくか。
苦笑しながら 『はいはい俺が悪かったよ』 と返し、愛しい恋人をそっと抱き締めながらお互いの体の火照りが治まるのを待ち続けた。