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相模良哉 視点

ハルカと一緒にいればいるほど俺の心は掻き乱される。
全てを明け渡してくれているのはわかっているのに、
それでも、もっともっと、と求めずにはいられない。
ハルカがいなければ狂ってしまう程、俺はハルカに
のめり込んでいた。


****************


ハルカは不思議な奴だと思う。
最初からヤクザだと知っている俺に、警戒する事は一度もなかった。
俺の肩書きを知るだけで近寄ってこない奴らが五万といるのに。

入院中何故なのか聞いた俺に
だってどんな背景があっても患者さんは患者さんですから、
と笑ってそう言っていた。

そのあっけらかんとした性格は、俺だけじゃなく周りにいる奴ら全てを
惹き付ける。
気さくに誰にでも話しかけ、辛い思いをしている患者達も
ハルカに話しかけられるだけで明るくなるのがわかった。
その上医者としての腕はピカ一で、
難しい手術というとこいつの所に舞い込んでくる。
そのおかげで一緒に過ごす時間が減る事もあったが
医者である以上それは当然の事だし、そういうハルカを誇りにも思う。


だがその反面、とても繊細で傷付きやすい一面も持っている。

元々ハルカは救命救急医ではなく、一般の外科を担当している。
人手が足りない時だけ助っ人として行くらしいが、
大学病院ではそれなりの救命救急医を用意しているので
よっぽどでなければ機会が無いそうだ。
なので俺の様な例は稀らしく、その上元々心臓血管外科を得意の
分野にしているハルカの患者は、やはりそのほとんどが
心臓を患っている。

だから必然的に亡くなってしまう患者の割合も高めで、
医者になって何年も経つというのに、その一々に傷付いて
夜眠れずに声を殺して泣いている。
自分の腕が足りないせいだと自分を責めて。

そういう時俺は黙って抱きしめて、気が済むまで泣かせてやるぐらい
しか出来ない。
そうしてやると、翌朝にはまたいつも通り元気なハルカに戻る事を
知っているから。

だが、そういう繊細さがあるからこそ、他人の心の機微を察する事に
長けているのだろう。


今みたいに突然俺が訳のわからない不安に駆られた時も、
いつの間にかそれに気が付いて、何も言わずに俺のなすがままに
任せ、その全てを受け入れる。

ハルカと一緒にいる事で、一度も味わった事がなかった安堵感や
満足感を得られるようになった。
が、その分、この存在がなくなった時自分はどうなるのだろう、という
抑えようのない恐怖心が常に俺を襲う。
今まで生きてきて、怖いと思ったモノなど何も無かったのに。


ガキの時に何度も殺されると思った事もある。
今だに俺の命を狙って来る奴は後を絶たないし、
実際斬られた事も撃たれそうになった事も数え切れない位だ。

だがそんなモノは一つも怖くはない。

それなのにハルカを失うのではないかと思うだけで
足元から湧き上がる恐怖心を止められず、
いっそ自分の手で何もかも壊してしまおうかとさえ思う事もある。
だが、そんな俺でさえハルカは受け入れるのだろう……


****************


「……あっ……」

繋がったまま、ハルカを膝の上に抱えなおした。
するとハルカは俺を抱き締める様にして、ゆっくりと俺の背中の龍を
なぞり、甘い息を吐く。

背中の龍に一目惚れしたと言ったハルカ。

その言葉通り、情事の後こいつは必ず俺の背中に口付け
舌を這わす。
何故そんな事を?と問う俺に、私の昇り龍にもキスをしてあげないと、
と言って微笑む。

……こいつは気付いているのだろうか。
俺が自分の背中の龍にでさえ嫉妬しているという事に……


俺はハルカを突き上げ始める。
すると俺の首にしがみ付いて喘ぎ声をあげながら、俺の耳元に
囁いた。

……誰でもない、リョウの背中にいる龍だから
愛しているのですよ……

と。


ハルカのたかがそんな一言に、
俺の中の弱い心も醜い心も全てが浄化されていくのを感じ
俺は夢中でハルカの首に舌を這わせた。
そうして更に勢いを増して突き上げ、俺達は高みに向かって
一気に駆け昇る。


……ああ、そうだな、ハルカ。
何も恐れる事はない。
俺達はこうやっていつまでもどこまでも共に昇って行こう。

この背中の昇り龍のように……

− 完 −

2005/06/17 by KAZUKI

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