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次の瞬間、クロタニさんは豪快に笑い出した。

「……全くリョウヤの奴も、とんでもないイロを持ったものよ。」

と言いながら更に笑い続けている。
私は何が何だかわからなくて、あっけに取られたまま、ただただ
クロタニさんを見詰めていた。


クロタニさんがひとしきり笑い終わるまで、この部屋にいる
誰もがそのまま黙っていた。
そしてようやく笑い終わったクロタニさんが口を開く。

「リョウヤが何故ここにお前を連れて来たがらなかったのかも、
 何故五人衆の奴らがお前に惚れ込んでいるのかも、ようやく
 わかったぞ、なぁ、トキ。」

突然話を振られたトキ君の方を振り返ると、一瞬目が合った後、
焦ったように少し赤くなりながら頭を下げてしまう。
私がもう一度クロタニさんに視線を戻すと、微笑みながらまた
私に話しかけて来た。

「ハルカ、お前はその柔らかい物腰に似合わず、本当に
 腹が据わった男なのだな。
 確かにお前のような者がここに出入りすれば、五人衆の
 様にお前に惚れ込む奴が後を絶たんだろう。
 それはリョウヤも気が気じゃなくて、ここに連れて来る
 気にはなれんだろうな。」

そう言ってまたクックと笑い、それに合わせてサイドウさんも
笑っている。
何だかよくわからないけれど、取り合えず先程までの異様な
緊張感が消えた事に少しホッとし、私は軽く頭を下げた。

「色々試すような事を言って悪かったな。
 だが、中坊の時にリョウヤを拾って以来、奴はわしの孫の
 様な存在でなぁ。
 その上うちの組にとっても無くてはならん存在だ。
 そのリョウヤと、更には五人衆までもがお前に取り込まれて
 しまった理由を、この機会に確認しておきたかったもんでな。
 いやいや、わしがもっと若ければ、お前をリョウヤと取り合って
 内紛でも起こしたかもしれん。」

そう言って笑ったクロタニさんに曖昧に笑い返すと、
うんうんと頷きながら微笑み、そして

「では続きを話そう。」

と言いながらサイドウさんを促した。


****************


サイドウさんが朱雀について調べる様に指示を出した後。
昨日の朝9時、この事務所に同極会の組員の手によって
一通の手紙が届けられた。
差出人は『朱雀』、宛先は『黒神の昇龍』。

昨日の朝9時と言えば、リョウが私にメールを送って来た後だ。
それにしても、得体の知れない『朱雀』から『黒神の昇龍』である
リョウへの手紙?

「黒神の昇龍に手打ち盃の仲裁人を頼みたいという内容だった。
 だから一度直接会って話したいと。」

私はサイドウさんの方を見ながら『手打ち盃?』と首を傾げる。
するとサイドウさんは一度苦笑した後に説明してくれた。

「死力を尽して徹底的に闘うと、お互いに損害が大きくなる上
 サツに大量検挙されて共倒れになる事もある。
 だからある程度やったやられたのバランスが取れた所で
 第三者が仲裁人になり、抗争を水に流す。
 その時に行うのが手打ち盃だ。」

ヤクザの世界は本当に儀式が多い。
もっとも最近では大分簡略化して来ているらしいけれど、それでも
五人衆の子達の話だと、準備やら何やらで手落ちがあって問題に
ならないよう、色々大変なのだと言っていた。

「……でも先程の話を聞く限り、浅井組と同極会のバランスが
 取れているとは思えないのですが?」

ふと思った疑問を口にすると、サイドウさんは大きく頷いた。

「朱雀が何をしたいのか、何を考えているのかは全くわからん。」