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落雷の音が鳴り止んだ後、一瞬静寂が満ちたこの部屋に
カコーンという鹿威しの音が響く。
その音でハッと我に返った。

……自分を失っている場合ではない。
今まで私とリョウが二人で築いて来た関係を、焦らず
一つずつ考えていこう……

いまだにビリビリと体に残る落雷の痕に身を震わせながらも、
そう思い返した。


まずは、私にとってリョウは足手纏いでもなんでもない。
確かに一緒に暮らし始める前や後も、ヤクザであるリョウと共に
いる事によるメリット・デメリットについて、散々考えて来た。
正直な話、先程クロタニさんが言ったように、病院側に私が
ヤクザと一緒に暮らしている同性愛者だと知られてしまえば
やはり職場を追われる可能性は高いと思う。
けれどそれに関しては自分なりに考えて既に手を打って
あるので、特にリョウとの関係を隠そうとした事はない。

現段階で予想が付く、リョウと共にいる事による私の
デメリットはそれ位なもの。
そんな事は『リョウが私の足手纏いになる』という話には
全くならない。
だから、私の中に『リョウと別れる』という言葉など一瞬
たりともよぎった事すら無い。
かえってリョウと一緒にいる中で、こんなに幸福でいいの
だろうかと心配になる程だった。

けれど、それはリョウが私の為に努力をしてくれていたから。
やはり私はリョウにとって足枷であり、重荷なのだろうか……


私は無言のまま思い出し続けていた。
私とリョウが過ごしてきた、この2年余りの時を。

初めてリョウの背中で息づく血塗れの昇り龍を目にした時。
意識を失っていたリョウが目を開けて、初めて私を見た時。
病院の私室で、あの昇り龍とリョウ自身を私にくれると言った時。
そして何度も何度も私を求めてくれた、全ての時……

それを思い出している内にいつでも私を真っ直ぐに見詰めて
くれた、あの甘美な鋭い視線に貫かれている感覚に襲われ、
まるでリョウに抱かれている時の様に全身に鳥肌が立った。


リョウが私を足枷だとか重荷だとか、そんな風に思って
いたのかどうかなど、そんなのは全くわからない。
それにリョウ自身がそう思っていなくても、実際私は
重荷なのかもしれない。
けれど、それは私とリョウの二人の問題。
リョウが私を重荷に思っていると感じた時に、どうするのか
考えればいい。
こんな風に、周りの人から言われた事で混乱して別離を
決めるような、そんな愚かな真似だけはしたくはなかった。
確かに私といる為にリョウに負担をかける事はあるのかも
しれないけれど。

……でも、リョウ。
それでも貴方は私が人生を賭けて貴方を求めるのと
同じ様に、私を求め返してくれていましたよね……?


それならば、と私は一度深呼吸して姿勢を正し、上着の
ポケットに入っている昇龍のストラップを握りしめた。

「私達の事をご心配頂きありがとうございます。
 そのお気持ちには心から感謝申し上げますが、私は
 リョウと別れるつもりは全くありません。
 私にとってリョウが足手纏いになる事はないですし、
 リョウにとって私の存在がどうなのか、それはリョウが
 帰って来てから二人で話したいと思います。
 ですからこの場でリョウと別れる事など有り得ません。」

クロタニさんの目を真っ直ぐ見返しながら答えた。
その瞳が一瞬光る。
多分普通であれば、それだけで竦み上がってしまう様な瞳。

「……わしに余計な口出しをするなという事か?」

静かだがドスの利いた声。
失礼な物言いなのは自分でも充分わかっている。
そのせいで、もしかしたら命を絶たれたりするのかもしれない。
でもそれをわかった上で私は自分の思いを正直に答えた。

さすがに今のクロタニさんの目を見て、緊張しないと
言えば嘘になる。
だから少しでも勇気をもらえるように、リョウと繋がっている
昇龍のストラップを握り締めていた。

けれど私はこの世界の人間ではないのだし、いくら数千人の
組員を抱える組の会長に言われようが、自分の決意や信念を
曲げるつもりはない。
私とリョウが二人で築いて来た関係を、何があろうと
今この場で、私の手で崩す事など出来ない。
そして何より、リョウがいつでも私を真っ直ぐに見詰めて
くれていたあの瞳に、恥じる様な行為はしたくは無い。
その為なら命など惜しくはなかった。
それ位の覚悟は決めて、ヤクザである相模良哉と共に
生きる道を選んで来ている。

「そう受け取って頂いても構いません。」

私はクロタニさんにはっきりと返す。

目の端に入るサイドウさんに、一瞬にして緊張が走るのが
わかった。きっと私の斜め後ろにいるトキ君も同じだろう。
私も次に起こる事を予想して、ストラップを更に強い力で
ギュッと握り締めた。