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「元々同極会の連中は命知らずで腕っぷしだけは強いが、
 ここが弱くてな。」

と、サイドウさんが自分の頭を指差す。

「だから取り合えず放って置いて様子を見てたんだが、最近に
 なって勝手な事を引き起こすようになった陰に、同極会の
 組長である楠木(クスノキ)を、裏で操っている奴がいる事が
 わかった。
 それが『朱雀(すざく)』と呼ばれるクスノキのイロだ。
 だが、この朱雀は得体の知れない奴でな。
 同極会の連中でさえ顔を見た事がないらしいし、それこそ
 男か女かもわからん。」

「朱雀……ですか?」

サイドウさんは頷いた。
そういえばリョウが家で電話をしていた時、その名前を口にして
いるのを聞いた事がある。

「自分のイロのいいなりになっているクスノキはただのバカだ。
 だが、朱雀のやる事は筋が通っていない上に無茶が多いが、
 それでも急速に同極会の勢力と名を広げているのは確かだ。
 うちの寄り合い(定例会議)でもそれが話題になったんだが、
 『目障りな同極会などさっさと潰せば良い』と言った他の舎弟に
 対して、リョウヤは『それに異存はないが、朱雀の動きには
 注意が必要だ』と言った。」

……リョウが気にする『朱雀』とは一体何者なのだろう?

「まぁリョウヤの勘は外れた事がないし、どちらにしろこのまま
 同極会を放って置けばうちの系列にも火の粉が飛んで来るだろう。
 たかだかそんな小さな組位、潰そうと思えばすぐにでも
 出来るんだが、リョウヤが言うように朱雀というのがどんな奴
 なのかは気になる。
 だからケントに調べさせるようにリョウヤには指示を出したん
 だが……」

サイドウさんは一旦そこで話を区切った。
……取り合えず私に話せるのはここまでという事だろうか?
でも、今現在リョウがどうしているのかの話には全く触れていない。
私はそれが知りたいのだけど……と困惑していると、突然今まで
黙っていたクロタニさんが口を開く。

「……ハルカ、リョウヤと別れたらどうだ?」

「え……?」

突然話が変わった事と言われた言葉の意味がわからず、
私はただクロタニさんに視線を移す事しか出来なかった。

「お前がリョウヤと別れる気が多少でもあるのなら、
 これ以上深く関わる必要はない。
 リョウヤの話によると、お前は腕のいい医者なのだろう?
 ならばこれから先いくらでもカタギの奴と出会えるだろう。
 極道もんと共にいる事が周りに知られてしまえば、お前が
 職場を追われる事もあるかもしれん。
 リョウヤはお前の足手纏いなのではないか?」

……リョウが私の足手纏い?
そんな風には一度も考えた事が無かった。
なので『そんな事はありません』と答えようとした時、
クロタニさんが『それに』と、更に言葉を続ける。

「極道の世界で生きる者にとって、自分のイロは様々な
 意味で重要な位置を占める。
 クスノキは愚の骨頂だが、それでもイロを取り合って
 切った貼ったの争いが後を絶たんほどな。
 『黒神の昇龍』として名を馳せ、常に危険と隣り合わせの
 上に様々な責務を背負っているリョウヤにとってみれば、
 少しでも疲れを癒す場であるイロの存在が特に重要だろう。
 だがこの約2年黙ってリョウヤを見て来たが、疲れを癒す
 どころか極道である自分の存在がお前に負担をかけない様、
 リョウヤが更に重圧を背負っているのはわしらから見ていて
 もわかる。
 そんなお前の存在は、リョウヤにとってただの足枷(あしかせ)
 であり重荷だろう。
 今ここでリョウヤと別れる方がリョウヤの為にもなると思うが?」

そこまで言って口を閉じたクロタニさんは、何を考えているのか
わからない老獪な瞳で真っ直ぐに私を見ていた。

……リョウにとって私の存在が……ただの足枷?……重荷?
これ以上話を聞かず、この場でリョウに別れを告げた方が
リョウの為……?

何か言葉を発さなければと思うのに、私に気を使ってくれていた
リョウを思い出して咄嗟に何も言い返せず、目を見開いたまま
グッと息を飲んでしまう。


同時に中庭を照らす明かり取りの窓が、瞬間的に目が眩む
程の光に包まれた。
そしてその直後、『ドドーンッ』という耳を劈(つんざ)くような
大音響と、内臓まで轟きわたる揺れが私の体を捉える。

……落雷……

ここに向かう車中で遠くに聞こえていた雷鳴が、今では激しく
吹き荒れる風と雨を連れて、縦横無尽に稲光を走らせていた。
その衝撃に思わず震えそうになる両手を膝の上でギュッと握る。

……雷が落ちたのは窓の外ではなく、
私の心の中だったのかもしれない……