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事務所の入り口には以前のように警備の男性二人がいるだけ
ではなく、他にも数名、お世辞にも柄がいいとは言えない
男性達がいて、それぞれに会話をしていた。
そして車から降り立った私とトキ君に頭を下げてくる。

私も頭を下げた後、その男性達の間を通って中に入った。
トキ君に案内されるままエレベーターに乗って4階の会長室に着く。

ビルの中だというのに中庭がある、記憶通りの広い和室。
紫檀のテーブルを挟んで正面に会長であるクロタニさんが座り、
クロタニさんの斜め後ろに組長のサイドウさんが座っている。
トキ君は私の斜め後ろの部屋の隅に座った。
私は置かれた座布団の横に正座し、一度だけ軽く頭を下げる。
それを見てクロタニさんが口を開いた。

「前にハルカに会ったのは2年近く前か?
 何度も遊びに連れて来いと言うのに、リョウヤの奴は
 なかなか首を縦に振らなくてなぁ。」

そう言って笑うクロタニさんは、粋な濃緑の正絹着物をさらりと
着こなしている。
もう70歳を越している筈なのに全く威厳が衰えず、その上一見
優しそうなお爺さんの様に見えるのに、その深い色をした瞳の奥で
何を考えているのかわからない人だった。

「連絡も無しにリョウヤが帰って来なかったから、
 随分心配しただろう?」

その言葉に私は小さく頷いた。
別に二人を前にして緊張している訳ではないけれど、
正直、何と答えれば良いのかわからない。

「まずは取りあえずの状況を話そう。」

「はい。」

私はクロタニさんの目を見返しながら答えた。
するとその眼が一瞬和らぎ、サイドウさんの方を見て頷く。
そしてサイドウさんが今の状況について話を始めた。


****************


事の発端は地元の小さな組同士の、縄張り争いによる抗争。
『浅井組(あさいぐみ)』という組の縄張りに
『同極会(どうごくかい)』という組が突然進出して行った。
組同士の縄張り争いなどどこでも起こっている事で珍しくも
何ともないのだけど、ただ浅井組は同極会よりも断然規模が
大きい為、まさか自分の方に進出して来るとは思っても
みなかったらしい。
けれどその油断が一瞬の遅れとなって、いつの間にか根回しを
終わらせていた同極会に次々と取り込まれてしまったそうだ。
そして浅井組は報復の為に抗争を起こし、今に至っている。

けれど同極会はそんな抗争の最中にいながらも、次々と色々な
場所に進出を始めていた。
その反面急激に動きを潜めてしまったり、予測が付かない
場所でいきなり抗争を起こしたりと、全くその行動に一貫性がない。

同極会というのは元々武闘派ではあるのだけど、それでも以前は
そんなに無茶をするような感じではなかったのに、最近になり、
急激に様々な問題を引き起こすようになって来ているそうだ。


私は数ヶ月前からその二つの組の名を耳にしていた。
地元のニュースではやはり大きく取り上げられているし、
その上最近までに浅井組の方に結構な人数の死傷者が出て
いて、そのうちの何人かはうちの病院に運ばれていたから。
私は直接担当してはいないけれど、救命救急医である先輩が
『またヤクザが運ばれて来た』と溜息を吐いていた。
リョウの組ではないと一安心はしてはいるものの、やはり
病院に救急車が到着する度に、それがリョウではない事を
確認せずにはいられなかった。

その事をリョウに話した時
『ハルカを残しては死なない。何があろうとハルカの元に帰る』
とリョウは言い、『でもまた怪我でもしたら……』 と私が言うと
『その時はまたあの病室でハルカに治療してもらいながら、
 夜はハルカの私室に行く』
と言って私の心配を打ち消すように意地悪く笑い、苦笑する
私を引き寄せて強引なキスをした。


二つの組の抗争にリョウがどういう形で関係しているのかは
まだわからないけれど、それでもリョウは、必ず私の元に
帰ってくる。
リョウは今まで私に嘘を吐いた事など一度もないのだから。
だから私はリョウを信じていればいい。
私が自分の全てを賭けて、信じ、愛し抜こうと決めた、
【相模良哉】の言葉を信じよう……