治療を終えたリョウを見送り、売店で買ったパンを軽く食べて
からその後の勤務も終えると、時間は既に午後の6時。
今日はリョウが家で待っているので、出来るだけ早く仕事を
切り上げて帰路についた。
鍵をあけて玄関の扉を開けると同時に、とても良い匂いが
鼻腔を刺激する。
私とリョウでは作る料理の種類が違う。
私はあくまでもその辺のスーパーで買い物をして一般的な物を
作ったり、余り物を利用して、色々工夫したりするのが得意。
リョウはいわゆる 『男の料理』 と呼ばれるような物や鍋料理が
得意で、その上自分が作るとあらかじめわかっている時には材料も
市場で買って来たり、地方からわざわざ取り寄せたりする事も多く、
本当にどれを食べてもおいしかった。
今日はこの匂いからして……もつ鍋だろうか。
予想を巡らせながらワクワクしてキッチンに行くと、ビールの缶を
横に置き、咥えタバコでニラを切っているリョウがいた。
普段からはあまり想像がつかないリョウのこういう姿を見るのも、
私の密かな楽しみでもある。
「ただいま。
やっぱりもつ鍋でしたか。
すごく良い匂いですね〜。
いきなりお腹が鳴っちゃいましたよ〜。」
笑いながら近付くと、包丁を置いてタバコを左手で持ちながら
右手で私の後頭部を引き寄せる。
そしてふわりとタバコの香りがする唇で、髪の生え際に軽く
キスをした。
「昨日の今日だから、スタミナをつけないとまずいだろう?」
ニヤリと笑うリョウに、どうしても苦笑が漏れてしまう。
「予想を裏切らない台詞で嬉しいですよ」
****************
「……ん…ぅん……」
いつの間にこんな事になったのだろう……
煌々と明かりの点いている居間の床の上で、横たわるリョウの
顔を跨ぎ、自分のモノを咥えられながらリョウの雄を舐め上げて
いる私がいる。
二人共既に一糸纏わぬ姿だった。
リョウに付き合って日本酒を何杯か飲んだおかげで、今日は少し
酔いが過ぎているのかもしれない。
卑猥な水音が鼓膜に響き、リョウから与えられる刺激に背筋が
ゾクゾクする。
私が反応する度にリョウの雄もピクリと反応を示し、それに
舌を這わせ、口で咥え、堪能しているうちに後孔に受け入れて
いた指を抜かれ、尖らせた舌を突き入れられた。
「あぁ…っ」
思わず口を離して仰け反ると、両腕で腰を引き寄せられ、更に
奥まで入り込んでくる。
指とは違う滑った感触にすっかり口も手も疎かになってしまい、
その快感を追う事しか出来なかった。
勝手に腰が揺れ始め、その行為だけではどんどん物足りなくなり、
思わず懇願するようにリョウの雄に指を這わせた。
「……上に乗れ」
その言葉に上半身を起こし、向きを変えながらリョウの体を跨いで
後孔にリョウのモノを宛がう。
そして前を扱かれながら、ズルッと熱い猛りを呑み込んでいった。
体が馴染んだところで両手をリョウの胸に置き、ゆっくり動き
出すと、リョウも感じてくれているのだろう、眉間に皺を寄せて
いる。
こうしてお互いに感じ合える事が何より嬉しく、そしてその事が
更に体中を敏感にさせ、快感を増していく。
汗が伝い、顔が上気していくのが自分でもわかった。
繊細な動きで私の興奮を高めるリョウの手が体中を這い回り、
その感触に内股が震え始めると同時にリョウが体を起こし、
そのまま私を床に押し倒した。
容赦なく腰を突き入れられ、唇を塞がれ、きつく舌を絡め取ら
れてしまうと、あっという間に上り詰めていく。
「んっ…ふっ……」
逃げそうになる腰を力強い腕で押さえ付けられ、一番敏感な
部分を執拗に擦り上げられると、思わず後孔を締め付け、
喘ぎ声が止まらなくなってしまう。
「……遼……」
「ああぁっ…っ」
耳朶に舌を這わされながら名前を呼ばれ、リョウの手で自分の
モノを擦り上げられて、私はそのまま達してしまった。
そして更に締め付けた私に追い立てられたかのように、リョウも
数度腰を打ちつけた後に私の中で熱い白濁液を吐き出した。
しばらくそのまま抱き合いながら、お互いの荒い息を静める。
汗ばんだリョウの背中に指を這わせると、そこから昇り龍の
息吹を感じた。
今では目を閉じていても二本の角やひげや一枚一枚の鱗の
位置がわかる。
この龍に一目惚れをしたおかげで、私の人生は180度と言って
いいほど変わった。
ヤクザという、到底私には縁が無いと思っていた世界に触れ、
相模良哉という、かけがえのない存在を手に入れた。
私に貴方と相模良哉を与えてくれてありがとう……
「……遼と共にいる為には、俺は次から次へと現われる
ライバルを蹴落として行かねばならんらしい。
だが、さすがにコイツだけは俺の手には負えんからな。」
ゆっくり背中の龍を指でなぞっていると、リョウが小さく溜息を
吐きながら苦笑した。
その台詞にクスクス笑いながらリョウの頬に口付ける。
「私にとってはこの昇り龍込みで 【相模良哉】 という
存在ですからね。」
リョウがクッと笑った。
「コイツなしの俺は要らんという事か?」
「さぁ?どうでしょう?」
笑いながら答えると、リョウが少し体を起こしてニヤリと笑い
ながら私を見下ろし、再び腰を動かし始めた。
思わずビクッと逃げようとする私の腰をリョウが強引に押さえ
つける。
「遼は相変わらず減らず口だな」
「リョウは相変わらず意地悪ですね」
「減らず口はどうやって塞がれるか知っているだろう?」
「えぇ、ですからそれを楽しみに待っているんですけど」
いつも通りのそんな会話を交わし、お互いに視線を合わせて
リョウはクックと、私はクスクスと笑う。
そして私の減らず口をリョウの唇が優しく塞いだ。
どれだけ一緒に過ごしても、私とリョウはお互いに飽きるという
事を知らない。
こんな存在に出会える人間が、世の中には一体どれ程いるだろう。
神など元々信じているわけではないけれど、それでも偶然とも呼べる
リョウとの奇跡的な出会いを振り返る時、やはり何かに感謝せず
にはいられない。
それが天の神であろうと地獄の神であろうと。
私達を引き合わせてくれた全ての事柄に感謝しながら、私は
これから先も可能な限り生きていく。
ヤクザという肩書きを持ち、その背に見事なまでの昇り龍を
背負う、私の愛しいオトコと共に……