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マンションに着き、ドアを開けてくれたトキ君にもう一度
お礼を言った後、リョウと私は家に戻った。
パチンパチンと音を立てながら家中の電気をつけ、居間の
サイドボードの上に置いてある携帯の充電器に向かう。
そして上着から携帯を取り出し、手の中のストラップを見詰めた。

背中の昇り龍と共にリョウを守って欲しいと思い、
リョウにねだった昇龍のストラップ。
それが今回は私自身も守ってくれた。
私達を守ってくれてありがとう……

『良哉』と梵字で彫られたその文字にそっとキスをすると、
いきなり後から抱き締められた。
そして私を抱き締めたその手には、同じストラップの付いた
リョウの携帯が握られている。

「……俺のには口付けてくれないのか?」

耳元で囁かれたその台詞にふふっと笑う。

「自分の名前にキスをしてもしょうがないでしょう?」

するとリョウは腕の中で私の向きを変えさせ、
『それもそうだな』と言いながら、私に見せ付けるように
『遼』と梵字で彫られたその文字にゆっくりとキスをした。
そしてカチャンと音をさせて携帯を充電器に戻し

「だが刻まれた名前よりも、本人に口付けるほうが
 もっといいとは思わないか?」

と意地悪く笑いながら言う。
それに苦笑しながら私も携帯を充電器に戻し、
『それもそうですね』と言って『良哉』本人にそっと
キスをした。


****************


一度部屋に戻って部屋着に着替えた後、昨夜テーブルに
置きっ放しにしていた食事を片付けようと居間に戻ると、
上着だけを脱いで胡坐をかきながら、冷め切った食事を
摘んでいるリョウが見えた。

「そんな冷めたものを食べなくても、何か新しく
 作りますよ?」

驚きながら声をかけると、リョウは『ビールをくれ』と
言うので、取り合えず冷蔵庫からビールを2缶取り出し、
リョウに1缶手渡してから私もその横に座る。

「俺の好きなものばかりだ。
 ハルカが俺の為に作ったものだろう?
 当然全て食うに決まっている。」

プシュッと蓋を開けながら言うリョウに、『じゃあこの
二つは温め直しますね』と手羽先とあさりのお皿を持って
立ち上がると、

「ハルカも食っておかないと、この後身が持たないぞ?」

と笑いながら言うので、相変わらずのリョウらしい台詞に
クスクス笑った。


その後私もリョウの隣に座って一緒にビールを飲み、
おかずを摘まんだ。
そしてふとケント君から帰り際に言われた事を思い出す。

「リョウ、服を脱いでください」

私の台詞にリョウが驚いて箸を止めている。
それを見てハッと口に手を当てた。
……少し言い方が不味かったかもしれない。

「あの、変な意味ではなくて、怪我をしているのでしょう?
 だから傷口を見せてもらえますか?」

するとリョウは箸を置いて笑い、私の肩を抱き寄せながら

「……俺は変な意味でも構わんけどな?」

と更に笑い続ける。

「絶対言うと思いましたよ……」

肩を抱かれたままはぁ〜と小さく溜息を吐いた。


リョウがYシャツを脱ぎ捨てる間に自分の治療箱を持って来る。
リョウの仕事柄、色々な場面で使う事があるかもしれないと、
簡単な治療道具を家に常備していた。
まぁ実際はリョウが怪我をしてくる事はまず無いので、その
代わりに五人衆の子達の治療するほうが多いのだけど。

こちらを向きながらビールを飲んでいるリョウを見ると、
痛々しい胸の創傷が目に入った。
出血は止まっているけれど、この様子なら結構な力で
何度も噛まれたのだろう。
ケント君の話だと、脇腹にも怪我をしているはず。
両腕を上げてもらうように言い、脇腹に視線を移すと、
こちらにもかなりな傷が出来ている。
反対側にも傷はあるけれど、脇腹は取り合えず消毒を
欠かさなければこのままでいい。
問題は胸の傷。
そっと触れて状態を確認してみるとそれほど深くは
ないようだけれど、それでも2、3箇所は簡単な縫合が
必要だった。
でもさすがにここで麻酔をして縫合をする事は出来ない。
やはり後で病院に来て貰った方がいいだろう。

「ケント君から噛み痕と爪痕を治療して欲しいと聞いた時、
 もっと色っぽいものを想像していたんですけどね〜。」

傷口を消毒しながら言う私に、

「色っぽいほうが良かったのか?」

とリョウが苦笑する。

「ん〜、もしこれから先そんな事があれば、私が治療できる
 範囲でネチネチと相手の方を傷つけてしまうかも。」

私の答えにクックッとリョウが笑って 『それは怖すぎるぞ』
と言うので、『でも治療してあげるんですから問題無いでしょう?』
と笑い返した。