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真っ青な空。
キンと冷えて澄み渡った空気。
熟練の庭師の手によって整えられたのだろう庭に、常に適温の湯が溢れ出し続けている屋根付きの露天風呂がある。
大人の男二人が入ってもまだ有り余る空間が残される、その贅沢な古代檜の浴槽の中で、私達は無心にお互いを貪り合っていた。


浴槽に浸かっているリョウを向かい合わせに跨ぎ、洗ったばかりの濡れた髪に両手を差し入れると、首筋を舌で丹念に舐め上げられる。
首を仰け反らせながらその感触に身震いすると、片手で背中を支えてくれながらもう片方の手で胸を弄り始めた。
けれどリョウは肝心な部分をわざと避けるように指を這わせるので、焦れったい気持ちを誤魔化すようにリョウの頭を抱き寄せる。


静まり返っているその空間に響くのは、私達の動きに合わせてチャポンチャポンと鳴る湯の音、既に荒くなりかけている私の呼吸の音、興奮を煽るようにリョウがわざと私の首筋で立てている唾液の音……


久し振りに触れるリョウの躰を堪能する為に、私は両手をリョウの肩や腕に這わせた。
過酷な生き様を物語る傷痕を、所々に残した浅黒い肌に覆われた躰。
決して鎧のようではなく、その皮一枚下にしなやかで伸びのある万能な筋肉が張り巡らされている。
リョウの躰に触れる度、私はいつもその事に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
スポーツ選手のように計算されて作られた躰ではない。
けれど厳しい実戦の中を潜り抜けてきた躰には余分な脂肪の一欠けらもなく、その壮絶なまでの生き様が、鞭のようにしなやかで強靭な身体や傷痕、そして背中の昇り龍に集約されていた。


耳に這わされる舌に、脇腹を撫で上げられる快感に、甘い吐息を漏らしながらリョウの背中に両手を這わせる。
元々刺青自体に興味を持った事などなかった私が、リョウの背中の龍に一目惚れをしたのはだからなのだと思う。
刺青に惚れたのではない。
昇り龍だけに惚れたのではない。
病院で血塗れの昇り龍を目にした瞬間に、それを背負うに値する生き様を感じさせてくれる相模良哉に惚れたのだ。


私の首筋にも鎖骨にも肩にも胸にも、ありとあらゆる場所にリョウは所有の証を残していく。
決してリョウのように浅黒くない私の肌には、たちどころに紅色の花が満開になっていった。
こうして証を残される事が私は嬉しくて堪らない。
それは裏を返せば私がリョウを所有している証でもあるから。
リョウが私を所有せずにはいられない証だから……


リョウの指がゆっくりと後ろに入り込んで来る。
私はそれを受け入れながら、冷たい空気にさらされて凍りつくほどに冷え切っていたリョウの髪にもう一度両手を差し入れる。
私の反応を確かめている鋭く熱い眼光を真っ直ぐに見つめ返し、自分から唇を合わせた。
いつものように強引なまでの激しさとは違う、私を焦らすだけ焦らすようなリョウの動きがもどかしく、自ら舌を絡ませながら腰を摺り寄せ、2本3本と増えていく指を飲み込んでいく。
そしてリョウが私の弱い部分を擦り上げた時、ようやく与えられた直接的な快感に思わず唇を離して仰け反った。
けれど声を漏らす寸前で唇を噛み締める。
今回は私達以外の宿泊客がいないと聞いてはいたけれど、それでも何かあった時の為に五人衆の子達がすぐ隣の部屋にいるのだから、さすがに漏らした声は露天風呂越しに聞こえてしまう。


「柱に手をつけ」

リョウが指を抜きながら言った言葉に従って立ち上がり、湯から上がって露天風呂を覆っている屋根の柱に両手を付いた。
散々湯に浸かり、既にリョウに高められている私の体は熱く火照っていて、外気との温度差で全身からは湯気が立ち上っている。
先程からチラチラと舞い始めた雪の冷たさが心地良い。
リョウも湯から上がって後ろから私の腰を両手で押さえながら 『挿れるぞ』 と囁いた。
私が頷くか頷かないかのうちに熱く猛ったリョウの雄が確実に入って来る。

リョウと共にいるようになってから、私は自分で自分を慰めた事が一度もなかった。
そうする必要がなかったのが理由だけど、それよりもリョウに与えられる快感に慣らされてしまった身体はそれだけでは物足りなくなっていたから。
だからリョウと過ごせなかったこの1ヶ月はいたってストイックな日々を送って来たので、久し振りに圧倒的なこの熱さと猛々しさに貫かれるだけで達してしまいそうになる。

それでも何とか気を逸らしながら踏みとどまり、最後まで受け入れてホッと息を吐いていると、体が慣れるか慣れないかのうちに、リョウが前に手を回していきなり私のモノを扱いてきた。

「ぁあっ……」

思わず声が漏れ、慌てて口を噤んだもののリョウはそのまま激しく抜き差しを始める。
先程まで焦らされ続けてきた上で一度に強い刺激を与えられると、どうしても目が回りそうな快感が押し寄せて声が漏れそうになり、それを押し止める為に自分の右手の甲を噛んだ。

リョウは一度動きを止めて前から手を離し、背中に覆い被さりながら私が噛んでいた右手をゆっくりと外させる。
そして歯形の付いた場所を舌で舐め上げながら 『声を出せ』 と囁いた。
けれどいくらなんでもそれは出来ない。
なのでそのまま首を横に振ると、『……俺に声を聞かせろ』 ともう一度囁いて上半身を起こし、今度は私の右手を後ろに引きながら動き始める。

左手で必死に柱にすがりつきながら耐えていたものの、何度も角度を変えながら弱い部分を執拗に攻め上げられ、背筋に沿って舌を這わされてしまったら、さすがに陥落するしかなかった。

「ぁ……っ…あぁ……っ」

一度陥落してしまえば、後は坂道を転がり落ちるように喘ぎが止まらなくなる。

「んん…は……ぁ……」

リョウは既に右手を離してくれてはいたけれど、露天風呂に響いている自分の漏らした声が余計に興奮を煽り、既に自分を抑える事が出来ない私は両手で柱にしがみつき、与えられる快感に鳥肌を立てながらただひたすら酔った。

「……リョ…ウ……っ!」

舞い落ちてくる雪が、私の熱い肌に触れると同時にジュッと音を立てて融けていくような気がした。
再度前を扱かれ、激しく抜き差しを繰り返され、うなじに舌を這わされ、背中を弓なりにさせながらリョウのモノを締め付ける。
そして耳元で名前を囁かれるのと同時に私は達し、後ろからきつく抱き締められるのを感じながら奥深くにリョウの熱い迸りを感じた。