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「……ふ……ん…ん……っ」

両手の指を黒髪に挿し入れてリョウの頭を強く引き寄せ、何度も何度も角度を変えながら全てのキスを余すところなく堪能していく。
リョウも首を掴んでいた手を離し、その手で私の後ろ髪を掴み上げながら、両足の間に私の体を抱き入れて腰を擦り付けさせる。

何もかも全てを奪いつくそうとしているかのような、いつにも増して激しい口付け。
淫らに絡みつき卑猥に這い回る舌。
その舌から舌へと滴り落ちて行く唾液の雫。

もう、何も考える余裕などなかった。
今はただ、惜しみなく与えてくれるリョウを堪能するだけ。

心拍は刻一刻と跳ね上がっていき、全身の肌が粟立ち、リョウに支えてもらっていなければ立っていられないほど膝から力が抜け落ちて行く。

「…ぁ…ん…」

一瞬の合間で吐き出す吐息に声が混じり、その私の声をリョウの口が飲み込んでいく。
私も荒いでいくリョウの吐息を逃すまいと、薄目を開けてリョウの表情を確認しながら更に強く躰を摺り寄せ、何度も何度も次のキスを強請った。


どれ程の時間、そんなキスを繰り返していただろう。
リョウは私を強く抱き寄せたまま突然体を反転させると、そのままボンネットの上に私を押し倒した。
その勢いでリョウの髪に挿し入れていた手が外れてしまい、いきなりの事に驚いて合わせた視線で真意を探ろうとする。
するとリョウは返す瞳で意地悪く笑い、私の口端から伝った唾液を追って、見せ付けるようにゆっくりと頬を舐め下ろす。
そして後ろ髪を掴んだままだった手にいきなりグイッと力を込めて首を仰け反らせ、痛いほど強く首を吸い上げた。

「あ…っ!」

「覚悟の上で煽ったんだろう?」

仰け反らされた首をねっとりと舐め上げられ、熱く濡れた舌の感触にブルッと身震いしながら、やはりリョウは私の思惑に気付いていたのだと、内心苦笑が漏れた。

「……覚悟は出来ていましたが、さすがにこれは想定外
 でしたね。」

笑いを噛み殺しながら、日の光に照らされてほのかに温かくなっていた背中のボンネットを、後ろ手にコンコンと軽く叩く。
すると可笑しそうに瞳を揺らしたリョウが、首に舌を這わせながらいきなり反応しかけているズボンの前を撫で上げた。

「ん、ぁっ……」

「遼の想定ではどこだった?」

焦らすような舌の動きに、形をなぞるように何度も擦り上げて来る手の感触に、屋外であるにもかかわらず、その先を強請りたくなる欲深い自分が顔を覗かせ始める。
けれどさすがにそれは出来ないと思い、気を逸らすように合間合間に息を吐き出しながら、リョウの髪を両手でゆっくりと梳いた。

「どこと言うより……キスまで、の予定でしたけど。」

そう答えると、リョウは一旦動きを止めてクッと笑う。

「……俺で散々遊んでおいて、そんなに都合良くいくとでも
 思っているのか?」

リョウの台詞に 『遊んだつもりはなかったんですが』 と答えながら私もクスっと笑った。

「都合良くいくとはあまり期待していませんでしたが、
 取り合えずダメ元で言うだけ言ってみようかと。」

私達はまた視線を合わせ、それからお互い同時に笑った。

「あぁっ…!」

リョウは間違いなく痕が残る程強く私の首筋を吸い上げる。
そして思わず声を上げて背を仰け反らせた私の反応を楽しそうに見下ろしてから、そのまま体を起こして片腕で力強く引き起こしてくれた。

私がボンネットの上に座りなおすのと同時にリョウは胸ポケットからシガレットケースを取り出し、また車に寄りかかりながら口に咥えたタバコに火を点ける。
私も昂った体を鎮めるように何度か深呼吸をし、しばらくの間遠くで鳴いているカモメの声を聞きながら、キラキラと輝いている水面を眺めた。


先程までの張り詰めていた空気とは全く違う、リョウと共に過ごす、穏やかでゆるやかな時の流れが私の気を大きくさせる。

「ねぇ、リョウ。
 リョウは私と出会わなければ良かったと思う事が
 ありますか?」

出来るだけ何気ない風を装いながら尋ねてみるけれど、実はこれは私がずっと抱いていた疑問。
以前黒谷さんに指摘された通り、私の存在がリョウにとって足枷であり重荷なのか。
何度も聞いてみようとは思っていたのだけど、様々な流れがあってリョウの答えが予測出来る今、本心では絶対に聞きたくないと怯えている疑問だった。
けれどこの先もリョウと共に生きていきたいと望んでいる私にとっては、嫌でも聞いておかなければならない事だとも思っている。

『黒神の昇龍』 というアザナを背負う、ヤクザのオンナである人生を自分で選んだ以上、リョウの生き様を示すその名にせめて恥じぬよう、私自身が妥協する事無く生き抜いていきたいから。


リョウは私と同じ様にしばらく黙って海を眺め、それから溜息を吐くように煙を吐き出した。

「……遼と出会わなければ良かった、か……
 そうだな、いつでもそう思っている。」