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仕草

矢追森 視点

僕はキッチンの入り口に突っ立って、 夕食の支度をしているトモノリをボーっと眺めていた。
眺めていると言うよりは見惚れているというのが正解か?
するとそれに気がついたトモノリが、どうした?と声をかけて来た。

「トモノリってカッコいいよな〜。」

と思わず言った僕に、一瞬驚いた後苦笑する。

「何言ってんだ……
 シンが好きな見た目なんだったらそれはそれで良いけど、
 別に男は見た目じゃないだろ?」

とサラダ用のトマトを洗いながら、 自分の顔に跳ねた水滴を、捲り上げたYシャツの袖で拭った。

僕はドキッとしながらその様子を見る。
なんだかすごく色っぽい感じと男っぽい感じが混じってて、 トモノリのその仕草が大好きだった。
それを見ながら、僕もこういう大人の仕草を自然に出来る様に なりたいと思った。


今日の夕食は、僕が好きなカルボナーラとコンソメスープに 生野菜のサラダ。
仕事から帰って来た後、とても手早く作ってくれる。
本当は疲れて帰ってくるトモノリの為に僕が作ってあげられれば いいんだけど、料理だけは何度挑戦しても食べられる物を 作れなかった。
申し訳なさそうにしている僕に、料理は俺の趣味なんだから 俺の楽しみを奪うな、と笑いながら言ってくれた。
こういう所ってホント、優しいと思う。


いただきま〜す、と言って僕はパスタを食べ始める。
トモノリも、いただきます、とキチンと手を合わせてから食べる。
僕は慌てて食べるのを一旦止め、 トモノリのように手を合わせて、いただきます、をし直した。


僕がいただきますを言ってご飯を食べるようになったのは トモノリの家に来てからだった。
今までは一人でご飯を食べた事しかなかったから そんな事考えた事もなかったし。
でもトモノリの、こういうちゃんとした所を学んでいきたいと思ってる。


トモノリはそんな僕を見てフッと笑うと、くし型に切ったトマトを 一口で食べ、口の端に付いたトマトの汁を左手の親指で拭った。

……その仕草も好きなんだよな……

と思いつつ、結局僕はトモノリなら何でもいいんだ、と思って 一人で照れ笑いをした。


佐倉智紀 視点

なんだか今日はやけにシンの視線を感じる。
夕食の準備をしていれば訳のわからない事を突然言うし、 今も自分の食べる手を止めて俺を見た後、何故か一人で 照れ笑いしている。


カッコいいと言ってもらえれば確かにそれはそれで嬉しいけど、 俺にしてみればよっぽどシンの方が人を惹き付けると思う。
それはその白人のような見た目だけではなく、 あんな仕事をしていたと想像がつかないほど 内面から溢れ出る純粋さもあるだろう。


俺は向かいに座るシンをジッと見る。
相変わらずツルツルの白い肌に栗色の巻き毛。
そしてどことなくあどけなさが残るその顔で 一生懸命に食べている姿は本当に可愛いと思う。
するとそれに気がついたシンは

「な、何?僕の顔に何か付いてる?」

とフォークを置いて自分の顔を探った。なので

「さっきまでずっと俺を見てただろ?だからお返しだ。」

と言って笑うと、なんだよぉ〜、と言って赤くなる。
そして膨れたように下唇を突き出した。

そんな仕草も可愛いんだけどな。

俺はそう思いながら、今度はどうやってからかってやろうかと考えた。

口癖    表情