シリーズTOP



アシ

矢追森 視点

一緒に住み始めて約2週間。
今日は日曜日でトモノリの会社は休み。
先週は仕事が忙しくて休日出勤だったので、ゆっくり一緒に いられなかった。
だから今日はすごく長い時間一緒にいられる。
それだけでも嬉しかったのに、夕方トモノリが一緒に買い物に 行こうって言ってくれた。


何にも出来なくてトモノリに甘えてばっかりの僕は、 せめてもと、買い物だけは自分の仕事にしている。

このマンションの近くにはコンビニしかなくて、一番近い 大型スーパーまでは片道30分。
歩くのには結構遠い距離だ。
だけどコンビニは高いし、どうせ昼間やる事ないんだから、と 散歩がてらに行っている。
雨の日は大変だし、お米とか重い物を持って帰ってくるのは 確かにキツイ。
だけど、少しでもトモノリの役に立てる事が嬉しかった。


ポカポカと暖かい陽気の中、僕達は並んで歩く。
よく使い込まれたジーンズに、白いTシャツ、その上に アスファルトグレーのシングルのジャケットを羽織っているトモノリは やっぱりすごくカッコよくて、すれ違うオネエサン達が 時々振り返っている。

……ダメだよ、トモノリは僕の恋人なんだから。

キッとそのオネエサン達を睨みつけ、トモノリの傍につつっと寄った。
するとそれに気付いたのか、トモノリがクスッと笑って 僕の頭をポンポンと叩いた。
嬉しくて嬉しくて、思わず顔がニヤけてしまう。


その後スーパーに着いたんだけど、トモノリは食品売り場には 行かず、スーパーと繋がっているホームセンターに入って行った。
何か必要な物でもあるのだろうか?と、その後に続いたら 自転車売り場に来た。

「26インチ位で、前かごが付いてる軽いのがいいかな。」

と店員さんに告げ、その店員さんはトモノリに言われるまま 数台の自転車を出した。
そのまま二人であれはどうだとかこっちのはこうだとか話した後、 やっと1台に決めたらしく、

「シン、ちょっと乗ってみろ。」

と呆然と見ていた僕に言う。

「は?え?」

何だかわからず戸惑っていたら、全く、と言いながらヒョイと僕の体を 持ち上げ、その自転車に跨がせた。
店員さんは大口を開けてポカーンと僕達を見ている。

……恥ずかし〜〜い!

僕が真っ赤になって下を向いている事も、店員さんが話を聞いて いない事にも一切トモノリは構う事無く、サドルをもうちょっと 上げた方がいいな、とかなんとか一人で言っている。


やっと正気に戻った店員さんに、 これにするから準備して表に出しておいて、とカードを渡す。
そして赤くなっている僕に、これで少しは買い物が楽になるだろ?と 笑いながら言った。
その時になってようやく理解できた。
トモノリは毎日買い物に来る僕の為に自転車を買ってくれたんだ。


佐倉智紀 視点

シンに、何かアシになるものを買ってやろうとは以前から思っていた。
元々華奢なつくりのシンが、 片道30分もかけて重い荷物を運んでいるのは可哀想だった。
別に金に困ってる訳じゃないから、近所のコンビニにすれば いいだろ?と何度も言ったのだが、だってスーパーの方が味噌が 18円も安いんだよ、とか言って結構しっかりした一面を 見せてくれたりする。
まぁそれはそれで良い事なので、ならばアシになる物を、と思った。
でも、バイクは本人があまり好きそうではなかったし、 ましてや17歳のシンには車の免許が無い。
だから自転車を買ってやろうと思った。


食品売り場に来て、今日の食材を考える。
シンは買い物かごを載せたカートを押しながら黙って俺についてくる。
でもその顔がニコニコと微笑んでいるので、喜んでくれたのは 間違いないだろう。
その顔に少しホッとしながら、今日はシンの好きな肉じゃがでも 作ろうと考えた。


買い物を終えて表に出ると、先程の店員が自転車を用意して くれていた。
シンはそこに駆け寄り、嬉しそうに笑いながらそれを撫でる。

「トモノリ、ホントにありがとう!
 生まれて初めて僕のアシが出来たよ!」

シンの家庭環境は聞いていたので、 自分の自転車を持つ事自体が初めてなのだとすぐに気が付いた。

「……乗れるのか?」

ちょっと心配してそう言うと

「友達のに乗せて貰ってたから大丈夫!」

とその茶色い大きな目で笑う。
そして買った荷物を前かごに載せ、嬉しそうに駐車場内を 走って見せた。


その後、俺を後ろに乗せて走る、と息巻くシンを宥め、 俺の後ろにシンを乗せた。
買い物袋を前に載せ、自分より重い俺を乗せて走るのは いくらなんでも無理だ。

「せっかくこれでトモノリを電車の駅まで送り迎えして
 やれると思ったのに。」

とちょっと不満そうなシンに、 気持ちだけありがたく貰っておく、と言って俺は自転車を漕ぎ続ける。
そんな俺の腰にギュッとしがみついて、ありがとう、ともう一度呟いた。

    趣味