Thanx!50000HIT!

The Star Festival

『rising dragon』の相模良哉と折原遼の場合
- 4 -






梅雨の晴れ日である今日は、夕方5時半になる今もまだ部屋に暑い日差しが
入り込んでいる。


その中、何も身に纏わずに居間の床にうつ伏せでタバコを吸うリョウと、
下着を穿いただけの姿でリョウの背中に頭を預け、荒い息を
落ち着かせている私。

寝室のベットに行く間ももどかしく、そのまま居間の床の上で抱き合った。
リョウと一緒にいると、ホントにペースを乱されっぱなしだ。
それに、いくら10日振りだとは言え、まるで10代の子供の様だと自らを苦笑する。

「……何故モモの願いを断った?」

リョウはそのままの体勢で窓際の笹を見ながら私に尋ねる。
あぁその事ですか、と答えながら上半身を起こして、私も同じく笹を見た。

「確かに幼い子のすぐに移り変わる願い事位、その場だけ聞いてあげれば
 いいのかもしれないと思います。
 でも、リョウと一緒に暮らすと決めた時から、自分の気持ちを偽る事も
 周囲にそれを故意に隠す事も止めようと決めていました。
 私にとって大切なのは、周りが私をどう思うかではなく
 私が私らしく生きていく事だと思いましたから。
 そして貴方は、私が私らしくある為に必要不可欠な存在です。
 だからたとえあんな小さな子供でも、いえ、
 小さくてまっすぐぶつかって来る存在だからこそ、
 正直に、嘘をつかずにその話をしたいと思ったんです。」

こちらを見上げているリョウにそう言って微笑みかけると、リョウはタバコを
持っていない方の手を私に伸ばし、私の腿を撫で始めた。
先程繋がれたばかりだというのに、その感触にまたしても甘い息が
漏れそうになる。

「ねぇリョウ。私の実家では七夕を8月7日にやるんです。
 旧暦7月7日である新暦8月7日に行うんですよ。」

「ハルカの実家は札幌だったな。」

「そうです。
 ……だから来月、私と一緒に私の実家で七夕を祝いませんか?」

リョウは私の足を撫でていた手をピタッと止め、驚いたように私を見上げてきた。
でもこれは私がずっと考えてきた事。

私の実家は開業医をしているのだが、両親は長男である私に当然病院を
継いでもらいたいと思っていた。
その件に関してはこちらでやりたい事があるからと以前に断っており、
代わりに同じく医者である姉が、婿養子を迎えて継いでくれている。
でも、それならせめて結婚ぐらいして親を安心させてくれと言われていた。
でも根っからの同性愛者である私には、当然女性と結婚する事など出来ない。

いい加減その事をカミングアウトしなければと思っていたので
丁度いい機会だからリョウも一緒に行ってもらって、両親に
紹介したいと思っていた。

当然最初は驚くだろうけど、無理解な親ではないし、小さい頃から常に
私の味方だった姉には、リョウと暮らし始める時に既に話してあって
応援もしてくれている。

リョウはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。

「……それは駄目だ。
 俺とハルカの生きている世界は違いすぎる。
 ハルカの親を悲しませるだけなのがわかっていて
 そうする事は俺には出来ない。」

リョウの答えは私が想像していた通りだった。
なので私は自分の足の上に置かれているリョウの手を強く握る。

「貴方のことですから、両親の気持ちを考えて下さるだろうとは
 思っていました。
 それはとても嬉しいです。
 でも、どちらにしろ私は両親に自分の性癖を話し
 これから先もリョウと生きていくつもりだと話をして来ます。
 貴方に何かを話してくれとは言いません。
 だから……私と共にいて、私を支えてくれませんか?」

これが私の七夕の願いだった。
牽牛と織姫は私の願いを叶えてくれるだろうか……


リョウは黙って下を向いていた。
我に似合わず緊張していた私は、固唾を飲んでリョウの反応を待つ。

しばらくそうした後、リョウは灰皿でタバコを揉み消してから私の手を
しっかりと握り返し、堅い決意のこもった目で私を見返した。

「ハルカにとって俺が支えだというのなら、たとえ何があっても支えてやる……」

そう言ってうつ伏せに寝転がっている自分の下に、私を引き摺り入れた。
短い言葉だったけど、私にはそれで充分だった。
何度も何度もその顔を引き寄せてキスをする私に、

「……札幌に行ったら、モモに土産を買ってやらなきゃな……」

と笑った。

「何が良いか、じっくり二人で選びましょうね。」

笑い返しながらその背中を抱きしめて、それが合図のように、
私達は再び床の上でお互いを求め合った。


****************


翌朝目覚めた時にはいつの間にかベットで寝かされていて
既にリョウの姿はなかった。
過酷な勤務明けの上にあれだけの情事を繰り返すと
さすがに体力が持たずに、リョウが出掛けた事にも気が付かなかった。


そんな自分に苦笑しながら居間に行き、窓際に飾ってあった笹を見る。

『ももとはるかせんせいとりょうおじさんが、みんなでなかよくなれますように もも』

というモモちゃんから貰った短冊。
それを見て微笑んだ後、自分が書いた短冊を手に取る。

『共にいてもらえる事を願って  遼』

と書いた私の願いは叶えられた。
願いを叶えてくれてありがとう、と心の中で牽牛と織姫にお礼を言った後
何気なく短冊を裏返してみる。
すると……

常に共にいる  Ryo 』

ボールペンで斜めに走り書きがされてあった。

……いつの間に……

そう思いながらも目の奥が熱くなる。


……リョウ、来月の七夕には何を願えばいいのでしょうね?
私の願いは牽牛と織姫ではなく、いつもいつも貴方が叶えてくれるから。
じゃあ今度はお互いの長生きでも一緒に願いましょうか……?


涙を零して微笑みながら、リョウが書いてくれた
その走り書きの文字に口付けた……

− 完 −



誤字脱字や感想等何でもOKです。
一言頂けるととっても励みになります♪(改行できます)
お気が向いたらで構いません。お返事はTHANXページで……