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Declaration of war(宣戦布告)
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シンが見舞いの話を持ち出してきた時、一発で嘘をついていると
わかった。
元々シンは表情に全て表れてしまうのだから、嘘をつくなんて
無理な奴だ。それに見舞いに持ってくる花束を作っている奴と
会った事で手術をする覚悟を決めるなんて、まず考えられないだろう。
それが、何故俺にそんな嘘をついたのか。
きっと自発的なものではなく、そうせざるを得ない状況だったの
だろうと予想がついた。
だからここでシンを問い詰めても仕方が無い。
ならば何故そんな事になったのか、見極めてみるしかないと思った。


初めてシンが見舞いに行った日、シンのバイトが終わる時間にこっそり
店をのぞきに行った。そしてサカキという男の車に乗り込むシンを陰から
見送る。

あの男がシンに向ける目は……

そしてその後家に帰った俺は心配でいても立ってもいられず、
マンションの下まで降りてシンを待ち続けた。
我ながら情けないなと苦笑しつつシンが来るだろう方向を見ていると、
俺に気付いたシンが必死で自転車をこいで来る。
そして俺の前に自転車を停めるなり、いきなり首に抱きついてきた。
家にいる時はよく俺に抱きついてくるシンだが、外でこんな風にされた
事はない。
その背中を抱き締め返してやりながら、何かあったのだろうかと、珍しく
嫌な予感が胸をよぎった。

だが家に帰った後も俺はシンに何も聞かなかった。
シンは変な所で頑固だから、きっと今の状況では言わないだろうと
思ったから。
だが必ず理由を突き止めてやる。
もしアイツがシンに何かをすれば、絶対に許さないと思っていた。


****************


あれから2ヶ月。
僕は毎週金曜日にマサヤのお母さんに会いに行っている。
手術は3日前の火曜日に終わり、無事成功したと水曜日に来た
マサヤが言っていた。
その言葉にホッと胸を撫で下ろした。

お母さんとはなんだかんだと話が合い、クローゼットの収納術や
電気代の節約の仕方など、色々教えてもらっていた。
主婦並みの会話に、マサヤはいつも隣で苦笑しながら見てたけど
僕はお母さんと話をするのが今ではとても楽しみになっている。
それに、母親という存在が本当に温かいモノなんだと、生まれて
初めて思った。
僕の母親がそういう人だったら良かったな、と思った事は
ないんだけど。
だって僕は今の母親の元に生まれなければ男娼なんてしてなかった
だろうし、そうじゃなければトモノリと会えなかったんだから。
正直言えば、ちょっとだけ羨ましいな、とは思ったけど、それより
トモノリと出会える事の方が僕にとってはずっと大事だ。

手術も無事終わった事だし、今日病院に行ったらマサヤとの
ニセ恋人生活も終わり。
だから、ちゃんと嘘をついていた事を謝ってから、また顔を出せれば
いいなと思っていた。


いつも通り、バイトが終わる時間にマサヤが来た。
そして今日持っていくつもりの花束を二人で選ぶ。
手術が成功した事だし、いつもと違ってちょっと豪華なアレンジメントに
しようかな〜と思って店の中を見回していると、マサヤが僕の隣に来て

「今日はこれなんかどうかな?」

と僕の顔を覗き込みながら薄紫色のデンファレを差し出して来た。

「うん、いいんじゃないかな。
 じゃあ僕、今日はアレンジメントを作るからちょっと待っててね。」

花を受け取り、自分でも見繕った数本を持ってカウンターに戻ろうと
した時、マサヤが僕の肩に手を回し

「シン、今日は今までのお礼に食事でも一緒にどうかと思うんだけど。」

と話しかけて来る。最初に病院に行った時以来、マサヤは何かの度に
僕に触れて来る事があった。
マサヤの事は嫌いじゃないし、触れ方もマサヤの性格を現すかのように
すごく優しいんだけど、でもやっぱり僕はトモノリ以外に触れられるのは
嫌だった。
だからマサヤの手からさりげなく逃れようとしていた時、

「……それは無理だな。」

と、突然後ろから聞こえたトモノリの声と共に、僕の肩に回されていた
マサヤの手が離れていく。
慌てて後ろを振り向くと、トモノリがマサヤの腕を掴んでいた。

……なんで……?

吃驚してトモノリを見たんだけど、トモノリは僕の方を全く見ずに
静かにマサヤを見ている。

……僕が初めて見る、トモノリが本気で怒っている目だった。

「……誰?」

トモノリに掴まれている腕が痛いのか、眉間に皺を寄せながら口を
開いたマサヤにトモノリが答える。

「シンの本物の恋人だ。
 シンがお前の恋人役を引き受けたのを、今まで黙って見逃して
 やっただけありがたいと思え。」