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Declaration of war(宣戦布告)
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金曜日、約束通りサカキさんは僕のバイトが終わる時間に迎えに来た。
車の助手席で今日お見舞いに持って行くバラの花束を抱えていた僕に
サカキさんが話しかける。

「シン君、これからしばらくよろしくね。
 で、迷惑ついでに、疑われたくないから呼び方を変えたいんだけど
 いいかな?
 それに話し方もいつも通りで、丁寧にしなくていいよ。
 嫌だったら母親の前だけでいいんだけど。」

僕が『わかった』と答えると、サカキさんは運転の時だけかけるらしい
フレームレスの眼鏡を右手の人差し指でクイッと上げ、一瞬僕の方に
視線を向けて微笑みながら言った。

「じゃあシン。僕の事はマサヤと呼んでもらおうかな?」

「マサヤ……」

するとサカキさん、じゃない、マサヤがすごく嬉しそうに笑う。
ただ名前を呼んだだけなのに、なんで嬉しいんだろ?
そりゃあ僕だってトモノリに名前を呼ばれたら嬉しいけど、でも
それは僕がトモノリを好きだからだ。
あ、でもマサヤとはこれから恋人のフリをするんだから、やっぱり僕も
嬉しそうにしなきゃいけないのかな?
ん〜、だけど僕そんなに器用じゃないし……
まぁ取り合えず普通でいればいいのかな?

そんな事を考えながら窓の外を眺めている僕を、マサヤは運転しながら
ずっと微笑んで見ていた。


その後病院の個室に入っているマサヤのお母さんに会ったんだけど、
マサヤに良く似たとても優しそうな人で、少し涙ぐみながら『マサヤを
よろしくね』と僕の手を握った。
なんだか罪悪感がどんどん湧いて来てしまった。
でも手術を受けて元気になってもらう為だし……

病室にいたのは30分位。
じゃあそろそろ帰ろうかとマサヤが言いながら、ベッド脇の椅子に
隣り合って座っていた僕の肩を抱きながら立たせる。
思わずドキッとしながらも、恋人のフリ・恋人のフリ、と言い聞かせ
ながらジッと黙っていた。
するとお母さんが笑いながら、また会いに来てね、と僕に言う。
それに『はい』と頷き、手を振るお母さんに頭を下げて病室を出ると、
僕は思いっきり息を吐いた。

……何だかすごく疲れた……

するとマサヤが『ごめんね?』と言いながら僕の顔を覗き込む。
その顔が本当に申し訳なさそうだったので、首を横に振って
『大丈夫だよ』と笑い返した。
それにホッとしたような顔をしたマサヤと一緒に、バイト先の
花屋さんに戻る。
家まで送ると言ってくれたのだけど、自転車があるから、と断った。

来週また店に行くね、というマサヤに手を振って別れてから腕時計を
確認する。
時間はもう既に8時近いから、きっとトモノリが心配しているだろう。
急いで帰らなくちゃ。

ニセモノの恋人の元から本物の恋人の元へ、僕は懸命に自転車を
こぎながら帰った。


マンションに近付くと、トモノリが腕組みしながらわざわざ1階の
入り口に立っているのが見えた。

……すごく心配させちゃったのかも……

そう思いながらトモノリの目の前まで行って、自転車を停める間も
もどかしく思いながら、周りの目なんて気にせずに首に抱きついた。
トモノリはそのまま僕の背中を優しく抱き締めてくれる。
マサヤに肩を抱かれた時から、早くトモノリの腕の中に戻りたくて
堪らなかった。
マサヤは優しくてイイ奴だし、決して嫌いではないんだけど、
でもやっぱりこの腕の中が最高……

トモノリ、トモノリ、早くニセモノの恋人なんか辞めて、また
トモノリだけの恋人に戻りたい……
だけどマサヤの気持ちもわかるから、もう少しだけ待ってて?
嘘ついてて……ごめん……