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spring storm(春嵐)
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少しだけ落とした居間の照明の下、一糸纏わぬ二人の男が獣のように絡み合う。
一瞬たりとも相手が他に気を逸らさぬよう、まるで激しくせめぎ合うかのように……


「んっ……ああぁ……っ」

うなじに噛み付かれながら汗ばむ上半身をひんやりとした食卓に預けると、熱く猛々しい楔が双丘を割って入り込んで来た。
自然と逃げそうになる腰を力強い腕で強引に引き止められ、丁寧に解されて蕩けた内壁が圧倒的な質量のそれを奥へ奥へと呑み込んでいく。


私にとってセックスとは何の為の行為なのか、リョウと共にいるようになってから時々考えるようになった。
もちろん性行為自体は元々生殖の為に行なうもの。
けれど同性のみを相手に選んでいる私は、初めからその原理に反している。
ならば性欲の発散という答えもあり、確かにそれは大きいだろう。
だからこそ以前はハッテン場と呼ばれる場所に出入りしていた事もあったし、そこに愛があるのかないのかにこだわる必要もなく、その場限りの関係を楽しんだりもしていた。

そんな私がリョウと体を繋げるようになって、男同士の関係が決して不毛ではなかった事を知り、セックスという行為でお互いの本能をさらけ出す事により、お互いの本質を更に深く知る事が出来るのだと学んだ。

相手に自分の思いを全て伝えるのは難しい。
どんな言葉を用いようと、どんな手段を使おうと結局はどれも物足りなくて、自分に可能な表現方法の稚拙さに半ば呆れてしまう。
それでも伝えずにはいられなくて無我夢中で足掻きながら相手にしがみ付き、その時相手も自分にしがみ付いている事を知って安堵する。

リョウと私にとって、セックスというのはお互いの思いを深く感じ合う為にとても雄弁で有効な手段の一つだった。


「リョ…ウっ……っ」

激しく楔を抽挿されながらねっとりと背筋に舌を這わされ、堪らず食卓に両手を付いて仰け反る私の耳に、『遼』 と荒いだ息の合間で何度も囁くリョウ。
その度に正気と狂気の混沌とした狭間でリョウの名を呼び返す。


内面的な物よりも性欲の発散に支配されていた10代。
性欲の発散と共に内面の充実を探し始め、男同士はやはり不毛なのだと諦め始めた20代。
リョウと出会い、リョウとだけは不毛ではなく、その両方を得られるのだと学びながら30代になった今。

私はリョウと共に歳を重ねて行く事が嬉しくて楽しくて堪らない。
春嵐のようだった今回の葛藤を含め、ヤクザであるリョウといる限り、これからも平穏な日々など訪れないだろう。
それでも私はリョウと共に生き抜く道を選び続けていく。
リョウのいない人生など、無味乾燥の孤独な砂漠を永遠に彷徨い続ける以外の何物でもないのだから。


私を最奥まで貫いているリョウに後ろ手を伸ばすと、リョウは私の手をしっかりと掴んで指の1本1本にざらつく舌を這わせていく。

「リョ…ウ…っ……リョウっ…ああぁ……っ!」

後孔をギュッと締め付け、ドクンドクンと脈打ちながら放たれていく欲望の証に、リョウの雄も合わせるように熱い迸りを私の中に溢れ出させて行った。


これから先も私達はお互いがお互いを帰り場所として共に歩いて行くだろう。

これがリョウと私の、魂の尊厳を賭けた愛し合い方なのだから……


− 完 −

2006/06/06 by KAZUKI



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