礼儀正しく挨拶をして帰って行く五人を玄関まで見送って居間に戻ると、リョウはぐい呑みを片手に和室の飾り扇に視線を向けながら紫煙を燻らせていた。
Yシャツの広い背中を眺めながら吸い寄せられるように一歩ずつ近付き、そのまま膝をついて後ろから抱き締める。
リョウはうなじに鼻先を擦り付ける私を咎める事無く静かに煙を吐き出した。
嗅ぎ慣れたタバコの香りに包まれながら首筋にそっと舌を這わせ、前にまわした手でネクタイとYシャツのボタンを外していく。
いつものリョウの香りを堪能しながら時々首筋を吸い上げ、ぐい呑みとタバコを一旦テーブルと灰皿に置いて僅かに協力してくれるリョウに鼓動を早めながらYシャツの袖を抜いた。
パサッと音をさせてYシャツとネクタイを脇に置くと、またタバコを手に持ち、深々と煙を吸い込むリョウの背で、自由に乱舞飛翔し続ける昇り龍に指を這わせていく。
以前、何故刺青を昇り龍にしようと思ったのかと聞いた私に、リョウが龍についていくつかの逸話を教えてくれた。
そして、人間よりもはるかに悠久の寿命や霊力を持ちながらも、人間と同じ様に常に悩みや苦しみを持ち得る存在である龍が、自分の背に一刺し一刺し墨を入れる毎に昇華していく様を感じたかったとリョウは言った。
リョウの背で魂を吹き込まれ、風を呼んで雨を降らせながら今まさに天に昇らんとする昇り龍。
私に与えられたこの龍には、数え切れないほどの口付けを落として愛しんで来た。
それなのに、いまだにこの龍に触れる度に震えが来るほどの感動を覚える。
それはこれがただの刺青ではなく、リョウの生き様そのものなのだとわかるから……
龍に唇を落としたいと逸る自分を抑え、何度も首や肩に口付けてしなやかな筋肉の感触を堪能しながら肩口の縫合痕に指を這わせる。
「ディックの話は聞かされたんだろう?」
フゥ〜と煙を吐き出しながら声を発したリョウに、首筋を軽く吸い上げてから 『えぇ』 と答える。
「思わぬところでノビレ・アニマの名が出て来たので
驚きました。
でも、おかげでリチャードさんとお会いするのが更に
楽しみになりましたよ。」
お正月にリョウとアメリカ行きの話をした後、スケジュール的には行くのが無理ではなかったのだけど、詳しくはわからないもののリチャードさんの方で些細なトラブルが起きたらしい。
リチャードさんは大丈夫なんですか、と聞いた私にリョウは 『奴が問題を引き起こすのはいつもの事だ』 と笑っていたのでホッと胸を撫で下ろしつつ、せっかく行くならそれが落ち着いてからいい時期を選んで、という話になっていた。
「リチャードさんにお会いしたら、10代の頃のリョウの
話を聞かせてもらいたいな〜と思いまして。
きっと可愛かったんでしょうね〜」
私がそう言うとリョウは肩を揺らしてクックと笑う。
「狸オヤジ共には可愛げがないとしか言われた事が
ないがな」
その台詞に肩に口付けていた唇を離してクスクスと笑う。
「リョウの可愛さは私にしかわからなくていいんですよ。
他の方に教えてしまうのはもったいないでしょう?
それにこれ以上リョウにのぼせ上がる人達が増えたら、
私は嫉妬でおかしくなる自分を止められなくなります
からね」
すると灰皿でタバコを揉み消したリョウが、僅かに振り返りながら私のネクタイを掴み、自分の方にグイッと引き寄せる。
バランスを崩した私が慌ててリョウの首にしがみ付くと、すぐ目の前まで顔を近付けて意地悪くニヤリと笑った。
「……もっと俺だけに狂って見せろ」
……壮絶な飢えと欲望を湛える瞳。
私を果て無き奈落へ誘い込み、圧倒的な狂気で強引に正気を奪い去っていくリョウの深い闇。
ドクン……
痺れるような熱が一気に体の芯を駆け抜け、それに触発されるようにまるで嵐の様な欲望が止めようも無く暴れ出していく。
欲望のままぶつかるような勢いでリョウの顔を引き寄せると、口腔に舌を挿し入れて唾液を奪い取るようにうごめかせる。
淫靡な音を立てながらリョウの舌を絡め取り、吸い上げ、息を乱しながら夢中で貪った。
私の出方を見ているのだろう、キスはそれなりに返してくれるもののノロノロとしかネクタイを外してくれないリョウに少し苛立ち、黒髪を弄りながら更にリョウを引き寄せる。
唇を離して銀色に光る唾液の糸を舐め取ると、リョウの頭を抱え込むようにしながら体を摺り寄せ、少し強めに耳朶に齧り付いた。
「……こんなにリョウだけに狂っているのに……
まだ足りませんか……?」
声を潜めて耳元に囁きながら齧り付いた場所に甘噛みを繰り返していると、リョウは強引に私を引き剥がして床の上に組み敷く。
リョウの片手で痛いほどに両手首を掴まれ、もう片方の手で反応しかけていたモノをズボンの上からギュッと握り込まれた。
「……っ!」
突然の事に一瞬瞑ってしまった目蓋を上げると、爛々と輝く鋭い瞳が真上から見下ろしている。
「足りんな、遼……
まだまだ全然足りんぞ……」
獰猛な笑いを見せるリョウに心臓が早鐘を打ち、握り込まれた部分はドクンドクンと悲鳴を上げ、思わずゴクリと喉を鳴らした。
けれど私を取り巻いていくその言葉を噛み締めるように、一度ゆっくりと瞬きをした後に微笑んで見せる。
「……嬉しいですね……
これで満足されては私が物足りないですから……」
リョウはニヤリと笑い、そして喰らい付くような激しい口付けを落として来た。