唇を貪り合いながら、お互い身に着けている物を奪い取ってはその辺に投げ捨て、暗い廊下を寝室に向かって進む。
けれど荒いだ息音の合間に、パサリ、と黒神桜が廊下に落ちた音が混じり、その事にハッと我に返った。
預かり物の大切な着物なのだから、きちんと畳んでおかなければ……
このまま流されてしまいたい自分を無理やり抑えつけ、Yシャツを剥ぎ取った素肌の胸に軽く腕を突っ張る。
そしてそれを拾う為にしゃがみ込もうとするのに、リョウは腕の力を全く緩めてはくれず、代わりに耳朶に舌を這わせながらわざと唾液の音を立てた。
「ぁ…ッ…」
「……後にしろ……」
耳に息を吹き込むように囁く低い声が更に中心に熱をもたらし、腰に響いてカクンと足から力が抜けそうになった。
するとリョウはいきなり私を抱き上げ、迷わずに真っ直ぐ寝室に向かって歩き始める。
落ちない様慌てて首に腕を巻き付けたものの、やはりそれは不味いだろうと思い、『でも』 と言いかけた口をそのまま唇で塞がれ、一旦足を止めたリョウに口中を激しく蹂躙された。
一気に戻って来た先程までの熱に全身が小刻みに震えると、ゆっくりと唇を離して腕に抱えた私を見下ろしながらニヤリと笑う。
「塞ぐと言っただろう?」
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ベッドに投げ出されるように置かれた勢いで、乱れた裾が膝上まで捲くれ上がる。
けれどそれには構わず、何度情事を重ねて来たかわからないスプリングの上に膝を付き、ベッドの脇に立って下に穿いていたものを脱ぎ捨てているリョウの顔を両手で引き寄せると、腰を屈めさせてその唇に舌を這わせる。
三日月の細い月灯りが室内を照らす薄闇の中、自分が纏っている長襦袢の純白だけがほの白く浮かび上がっているようだった。
そのままその場に押し倒され、覆い被さって来たリョウは引き千切るような勢いで胸元を肌蹴けさせると、あらわになった鎖骨にキツク吸い付いて自らの刻印を残した。
そして肩口から首筋に向かって時々吸い痕を残し、胸元で固く膨らんでいる突起を口に含んで舌先で転がす。
「ん…ぁ……ぁ……っ」
唇と舌で弄びながら、捲くれ上がっていた長襦袢の裾を更に割ってするりと手が入り込んで来る。
長くしなやかな指がゆっくりと内股を這い、思わせぶりな動きにゾクゾクと甘い痺れが走った。
行きつ戻りつを繰り返しながら愛撫され、太腿の脇を腰骨まで撫で上げられた時、リョウが少しだけ顔を上げて意地悪く笑いながら見上げて来る。
「随分と準備が良いようだな?」
下着を穿いていなかった事を言っているのだろう。
女性の歩き方など出来ない私が無理にでもお淑やかに歩けるようにというのが主な理由らしいけれど、下着の線が響かない為という一般的な理由ぐらいリョウもわかっているだろうに……
「……着付けてくださった方がどうしても、と……」
意地悪なパートナーに何とか苦笑しながら返したものの、さすがにそれ以上喋る余裕は無く、先を催促するように両手の指でリョウの黒髪を梳いていく。
それにニヤリと笑ったリョウは、既に脈打っていた中心をいきなり握り込み、ゆっくりと上下に扱き始めた。
「んん…っ……!」
ビクッと腰が引け、リョウの手の中であっという間に張り詰めたその先端からは、透明な先走りが次々と溢れ出して来る。
けれどもどかしい手はいつまでも緩々と動かされるだけで、熱の解放を望むには後一歩足りない。
「…は…っ……リョ…ゥ……」
焦らされているのが堪らなくなり、思わずリョウの腕をきつく掴んで震える息を吐き出す。
リョウは手を放して体を起こすと、サイドテーブルから潤滑剤を取り出し、それを右手に取りながら膝で脚を割って間に体を滑り込ませた。
そして私の顔の脇に左腕を付いて上半身を支え、刺し貫くように真上から見下ろして来る。
その瞳に捕らえられたように、視線を逸らす事は出来なかった。
「ん、あぁっ……ッぁ、……」
潤滑剤で滑らかになった右手の指がリョウを受け入れる場所を丁寧に這い回り、一本二本と指を挿し入れられ、その度に両手でシーツを握り締めながら短い喘ぎを漏らした。
全てを見られていると意識する事が更に興奮を煽り、体の芯が疼いて勝手に揺れ始める腰を自分でも止める事が出来ず、心臓は不規則に暴れ狂っていく。
野生の獣のように爛々と輝く二つの瞳が、まるで獲物を狙っているかのように息を潜めて見下ろしている。
その瞳の奥に潜む闇からは、単なる繋がりだけを求めている訳ではないと息苦しくなるほどに伝わって来た。
求めているのは……絶対への渇望……
不意に手の動きが止まる。
「……俺が欲しいか、遼……」
薄闇に響く、耐え難い何かを押し殺したような掠れた声に、ゾワリと鳥肌が立った。