リョウは今日と明日の夜、明後日行なわれる寄り合いの準備の為に事務所に泊まりだと言っていたので、冷蔵庫に入っているもので簡単に自分用の酒の肴を作ると、食卓の椅子に腰掛けながらそれを摘み、缶ビール片手に先日取り寄せておいた循環器疾患についての医学書を読み始めた。
ところがビールを缶の半分ほども飲み進めないうちに突然玄関を開ける音がした。
少し驚きながら本を食卓に置いて玄関に続く廊下に視線を向けると、リョウがいつになく厳しい瞳で私を視界に捉えながらつかつかと歩み寄って来る。
慌しくリョウの後に続いている右京君、峻君、土岐君の3人にはピリピリと肌を刺すような緊張感が漂っているし、どうやらリョウの機嫌が相当悪いようだ。
普段事務所にいる時がどうなのかはわからないけれど、リョウが私の前であからさまにそういう顔を見せる事は滅多にない。
……何があったのだろう?
取りあえず椅子から立ち上がり、手の届く位置まで近付いて来たリョウに、おかえりなさい、と言おうとした口をそのまま唇で塞がれた。
否応なく両手で頭を挟み込むように押さえられ、抵抗する余裕も何もないまま捻じ込むように差し入れられた舌に口中を弄られながら驚きに目を見開く。
リョウのすぐ後ろにいた為に目が合ってしまった右京君はもちろん、峻君も土岐君もその場で足を止めて息を呑んでいる。
けれどいつもよりも更に容赦がなく性急なキスからは、決して普段のように3人をからかう為ではない事がひしひしと伝わって来たので、リョウの背中越しに親指と人差し指をくるりとまわして見せ、こちらに背を向けるよう右京君に示した。
右京君は当然リョウの機嫌が悪い理由を知っているのだろう、神妙な顔で私に頷き返しながらすぐに後ろを向き、他の二人にも同じ様にするよう指示を出す。
……3人には気の毒だけど、少しの間待っていてもらおう。
他の二人も慌てて背を向けたのを確認してから静かに目を閉じ、息を吐く暇も無いほど立て続けに落とされているキスにリョウの心を探し始める。
リョウのキスが、決してセックスが目的なのではないのはすぐにわかった。
駆り立てられるような独占欲とどうにもならない苛立たしさの中にどこか不安を滲ませている。
これほどまでにリョウの感情を揺さぶるような、一体何が……
荒々しく絡ませて来る舌にゆっくりと舌を絡め、痛いほどに吸い上げられてもリョウのなすがままに任せ、そっとリョウの背中を擦りながら身を委ね続けた。
どれほどの時間が経ったのか、うねりをあげて襲い掛かって来る激しい嵐のような感情を受け入れ、数え切れないほどのキスを交わしている内に少しずつリョウから切迫感のようなものが抜けていき、それとともに張り詰めていた空気が幾分静まっていく。
いつの間にか右京君達3人はいなくなっていたけれど、多分気を利かせてどこか別の部屋にでも移動したのだろう。
ようやく少し落ち着いたらしいリョウは唾液の糸を舐め取りながら唇を離し、視線を合わせた私が微笑み返すと、そのまま私の頭を自分の肩に埋めさせて痕が残るほどにきつく抱き締めてくる。
「リョウ……」
肌触りのいいスーツの肩に頬を擦り付け、心の奥底から湧き上がって来る堪らない愛しさに、強く背中を抱き締め返した。
リョウは私の髪に唇を押し付けるようなキスを落とす。
……ハルカ……
溜息混じりに掠れた声で呟きながら。