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Milk train(鈍行列車)
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人の波に押し出されるように電車から降りると、全く力の入らない膝に鞭打ちつつ腰を支えられながら改札の外まで来た。
そのまま少し人混みから離れた所で壁に寄りかからせられたものの、あんな場所でいいだけ乱れてしまった俺は何となくバツが悪くて下を向き、赤くなりながらいまだ熱の覚めやらない自分の体を深呼吸しながら鎮める。

何度か深呼吸をしているうちにようやく少し落ち着き、ふぅ〜と小さく息を吐いて壁に寄りかかったまま顔を上げる。
すると目の前で腕を組みながら立っていた宋は、目を細めながら俺を見ていた。

まったく何でそんなに嬉しそうなんだよ〜……

危うくその顔にほだされてしまいそうにはなるが、さすがに一言文句を言わなければ気が済まない、と口を開こうとした時だった。


「中山社長!どうされましたか?!」

一瞬にして宋の顔が不機嫌そうに強張ったものの、すぐにいつもの冷静な葛城副社長の顔に変わる。
その様子を横目で見ながら声のした方に顔を向けると、驚いたような顔をしながら俺の方にバタバタと走り寄って来たのは永倉だった。
何故……?

「あ、これは葛城副社長!
 おはようございます!」

永倉は近くまで来てからようやく宋に気付いたらしく、焦ったように俺達より一歩手前で立ち止まり、礼儀正しく宋に頭を下げて挨拶をする。
この駅はK&Sグループ関連の人間が大量に出入りするので、永倉の声で周りも俺達の存在に気付いたらしく、慌てて俺や宋に頭を下げて挨拶をしていく。
宋はチッと小さく舌打ちをした後、おはよう、と機械的に繰り返しながら腕を組んで突っ立っていた。

永倉は昨夜急遽迎えを断り、その上少し遅れると連絡を入れた俺を心配して会社から徒歩で迎えに来たらしい。
気持ちは嬉しかったが、さすがに本当の事情を説明する訳にはいかない。
それにいつまでもこんな場所に宋と二人でいて、周囲に俺達の関係を気付かれるわけにはいかなかった。

ありがとう、と永倉に礼を言って壁から背を起こしたものの、まだ力の入りきらない脚のせいで一瞬よろめいてしまう。
宋はすぐに両手を伸ばして支えてくれようとするが、さすがにこの状況ではまずいのでそれを目で制しながら体を引いて何とか足を踏ん張った。

「永倉、副社長は人混みに酔った俺を偶然見掛けて
 ここまで連れて来てくれたんだ。
 葛城副社長、ありがとうございました。
 私はもう大丈夫ですからどうぞ社の方に。」

俺より少し背の高い隣の永倉を見上げて言い訳をし、宋に頭を下げて礼を言ったものの、俺は情けない事にまたバランスを崩して少しふら付く。
すると覚えがない大きな胸に急激に抱き寄せられ、嗅ぎ慣れたスパイシーな香りではない、爽やかなシトラスの香りに包まれる。
慌ててその香りがする方を見上げると、永倉が俺の肩をしっかりと抱き寄せて支えながら、大丈夫ですか、と心配そうに顔を覗き込んでいた。
そのままチラッと視線を正面に移すと、宋は腕を組んだまま睨み殺す勢いで永倉を見据えている。

……元はと言えばお前のせいだろ〜……

内心溜息を吐きながら永倉に礼を言って手を放させていると、宋の秘書室の人間が数名焦ったように小走りで近付いて来た。
そして俺達におざなりな挨拶をした後、宋を取り囲んで小声で何事か話しかけながら頭を下げている。
奔放な宗や会長は時々電車出勤をするので部下達も対応に慣れているが、宋が社用車や私用車以外で出勤するなど今までなかった事だ。
だから副社長が電車で出勤してきたと耳にした宋の部下達が、慌てて迎えに来たのだろう。

俺も大事な会議を控えている事だし、気を引き締めて一刻も早く会社に顔を出さなければ……


下腹に力を入れてしゃんと立ち直し、秘書室の連中の頭越しにいまだ永倉を睨み続けている宋にもう一度頭を下げた。
そしてその視線には気付かず、心配そうに俺を覗き込みながら宋に頭だけ下げた永倉の腕を引いて促しながら、社に向かう為に踵を返す。

独占欲の強い宋が永倉に向けている視線を見れば、はらわたが煮えくり返る思いをしているんだろうとはわかってはいた。
だが元々は宋の自業自得なんだし、俺に散々な思いをさせた分少し位懲りさせてやったほうがいい……

……と思った俺はやっぱりバカだった。


「……中山。
 自社の会議が終わり次第昨日の書類を持って私の部屋へ。
 今後の流れについて打ち合わせをしておきたい事がある。」

書類?昨日の書類って何の事だ?
それに今後の流れ……?

背中にかけられた冷たく低い声にピタッと歩みを止め、いや〜な予感がして背中に冷や汗が流れるのを感じながら、永倉の腕を引いたままノロノロと振り返る。
そして怒りに満ちた宋の目と視線が合い、一瞬で凍り付きそうなほどの寒さに包まれた俺は、内心がっくりと肩を落として 『はい』 と返事をした。

必要以上に独占欲が強く、猛烈に嫉妬深いパートナーと、一生を共にしていく苦労をひしひしと実感しながら……


− 完 −

2006/01/29 by KAZUKI



よりこ様、この度はキリ番GETしていただいて誠にありがとうございました!
『満員電車の中でイチャイチャvv』CPはお任せ
とのリク内容で、宋×紘一にイチャイチャしてもらいましたがいかがなもんでしたでしょうか?
相変わらずおバカな二人ですいません……
でも頑張って書きましたので、何卒何卒これからもよろしくお願い申し上げます!

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