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Milk train(鈍行列車)
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ガタンガタン……ガタンガタン……

……何だ……?
危うく本気で居眠りしてしまう一歩手前で、腰にまわされていた宋の左手がいつの間にか前ボタンの外されたスーツの合わせから中に入り込んでいる事に気が付いた。
その手はYシャツの上から柔々と脇腹の辺りを揉んでいて、その上壁に付いていた筈の右手で俺の太腿をゆっくりと撫で上げて来る。

「お前っ……!」

寄りかかっていた背を起こし、反射的に振り向いて抗議をしようとすると、一気に周囲の冷たい視線が俺に突き刺さった。
宋はあらぬ方を見ながら知らんフリをしている。
慌てて口を噤み、少しだけ頬を火照らせながら唇を噛んで下を向くと、また宋が咽喉の奥で笑う音が微かに聞こえ、そのまま宋の右手は先程よりも更に強い意志を持って脚の付け根の方まで進んで来る。

制服のスカートを短くたくし上げた女子高生じゃあるまいし、なんでいい歳したオヤジの俺がこんな目に合わなきゃならないんだよ〜……

必死に両手でその右手を阻止しようとするが、その時電車が一瞬左右に大きく揺れ、よろけないよう少し脚を開いて踏ん張った隙間に宋の片脚が割り込んで来て腰を密着させられる。
そしてそれと同時に脇腹を揉んでいた左手にそのまま脇の下まで撫で上げられた。

「っ……!」

思わず声が漏れそうになる自分に心の中で舌打ちしつつ、それでも何とか不埒な手を食い止めようとするが、いくら身長が同じでも食べても飲んでも太らないのをいい事に怠惰な生活を送る俺とは違い、宋は最低でも週2回はジムに通って体を鍛えているので力の差は歴然だ。
その上どういう触れ方をされると俺が感じるのかをこれ以上ない位に把握しているので、もがいている俺にはお構いなくYシャツの上から左手の指先で弄び始めた胸の飾りは、俺の意志とは関係なく勝手に硬く立ち上がっていく。
こんな場所だというのに宋の思うままに操られている自分が情けなくなりながらも、ピリピリと脳まで響くその快感に膝から力が抜け、ただひたすら声が漏れないように唇を噛み締めるしかなかった。

そんな事をしている内に電車が傾きながら大きなカーブを曲がり始め、力が入らない膝のせいで完全によろけてしまった俺は、転ばないよう思わず後ろに寄りかかりながら自分にまわされている両腕にしがみついた。

「……俺を煽っているのか……?」

一瞬耳元で微かに囁かれた言葉と同時に更に強く押し付けられた宋のモノが、確かな熱を持ち始めているというのが服越しでもわかり、ゾクッと背筋に甘い痺れが走る。

「そんな訳…ないだろ……っ」

慌ててしがみついていた両手を離して小声でそう返しながらも、ズボンの前を何度も撫で上げてくる宋の右手の感触に熱が集まり始め、震える息を吐き出している自分の言葉に説得力がないのは充分わかっていた。


電車は時々キィー!という金属音を立ててブレーキをかけながらカーブを曲がり続け、車輌内では近くの学生かなんかが聞いている今時の歌がヘッドフォン越しに漏れ聞こえている音や、女子高生達がコソコソとお喋りをしながら笑っている声が響いている。

電車自体はいつものスピードで走っていて決してノロノロ進んでいるわけではないのに、それでも俺には1分1秒が長く感じられ、まるで宗の宿に行く時の様な、ローカルな鈍行列車に乗っている気分だった。


もぅどうにでもなれ……と半ば自棄になりながら宋の腕から放して彷徨わせていた両手を所在無く壁に付くと、俺が抵抗する気力を無くした事に気付いたのだろう宋はまた咽喉の奥で笑う。
そして右手でズボンのファスナーを下げて既に反応している俺自身を取り出し、つぅ〜と指先でなぞった後いきなり勢い良く扱き始めた。

「……ぅぁッ……!」

他の乗客達には背を向けているし、宋はカシミヤのコートの中に俺を引き入れているので周りから見られる事はないとは思うが、それでもまさかこんな痴漢まがいな目に合う日が来るとは夢にも思っていなかった。
もちろん宋だって俺が本気で抵抗すれば止めるだろう。
だが、どうしてもその熱い手を拒めない、どこまでも宋を貪欲に求めている俺がいて、その上周りから見られるかもしれないという不安材料が逆に倒錯的な興奮を煽っていく。
長年かけて宋から与えられる快感に忠実にならされてきた俺は、いつの間にか自分から下半身を後ろの宋に擦り付けていた。

少し荒くなった宋の息がうなじにかかり、その事がゾクゾクと足元から湧き上がるような快感を呼び覚まし、壁に付いていた手をギュッと握り締めながら声が漏れないよう唇を噛み締めた。

……だがこの後一体どうすればいいんだ?
ここまで来て途中で止めるのはどう考えても……無理だ。
かと言って宋の手に溢れさせてしまえばスーツまで汚れるだろうし、ただでさえ会社に遅れ気味だというのに着替えなんかしている余裕はない。
全くどうすればいいんだよ〜……

浅く口で息を繰り返して何とか気を逸らそうと試みたものの、それは全て無駄に終わる。
すると宋は一度右手を放してゴソゴソと自分のスーツのポケットからハンカチを取り出すと、既に先走りを溢れさせている俺自身をそれで包みながら、更に勢いを増して扱き出す。

「ん……ッ」

布の擦れる感触に一瞬腰が引けたものの、捌け口を用意された事で残っていたなけなしの理性まで吹っ飛んでしまい、俺自身は更にズキズキするほど質量を増していった。
周囲にバレるかもしれないという倒錯的な快楽や、胸の飾りをいい様に弄ばれる脳まで響く感触、今にもはち切れんばかりに膨れ上がっている自分自身を激しく、尚且つリズミカルに扱き上げられる感覚に、眩暈を起こしそうな程の快感が競り上がっていく。
心臓は既に暴れ狂っていて後一秒も持ちそうにない。

「……紘一……」

「ぁっ…んッ……!」

耳元で名前を囁かれた途端体が硬直し、次に到着する駅の名を告げるアナウンスに掻き消されるように小さな喘ぎを漏らしながら、堰が崩壊したように弛緩を繰り返して宋のハンカチに白濁液を吐き出していく。

震えながら全てを吐き出し終わり、がっくりと崩れ落ちそうになる俺を宋は左腕で抱え、欲望の証を受け止めたそのハンカチをポケットに戻して手早く服を直した。
そして腰が抜けたようにぐらんぐらんになっている体をスパイシーな香りに包まれながらきつく抱き締められた所で、電車は大きな音や揺れと共に俺達の降りる駅に滑り込んだ。