花火をやるなんて一体何年ぶりだろう?
それにまさかこうやってまたソウと一緒に、それも
お互いを思い合うパートナーとして隣で花火が
出来るなんて……
月明かりで照らされたベランダに水を入れたバケツを
持ち込んで、小さなロウソクをセットする。
お互いに3本ずつ。
ソウによると、あの20年前にやった花火の数と同じらしい。
きっとあっという間に終わってしまうだろう。
だがそれでも、ソウが俺の隣にいたかったと言ってくれた、
その思いを叶える為の大切な大切な時間……
隣り合ってしゃがんだ俺達は顔を見合わせて微笑みあった後、
持っている線香花火にお互い同時にロウソクから火をうつした。
1本目。
俺よりソウの方が早く玉を落としてしまい、何だよ〜、と
笑いながら右隣のソウの肩を自分の肩で押した。
2本目。
今度は俺の方が早く玉を落としてしまい、コウイチも人のこと
言えないだろ?と、今度はソウの肩に押された。
3本目。
隣り合ったままジッとお互い身動き一つせずに自分の花火を
見詰める。
パチパチと小さくて可憐な花を咲かせる線香花火。
俺とソウの間に、こんなに穏やかな時間が流れる日が
来るとは夢にも思っていなかった。
ソウと出会って29年。
ソウへの思いに気付いて17年。
ソウに抱かれながらも辛く苦しい毎日を送った10年。
散々すれ違いながらも、お互いにその隣にいたいと
祈り続けた日々……
触れ合っている肩から隣にいるソウの体温が伝わってくる。
線香花火を見詰めながら、勝手に涙が零れ落ちていった。
それに気付いたソウは線香花火を持っていない左手の
人差し指で俺の顎を上げさせ、そして俺達は花火を
持ったまま口付けを交わす。
俺達が近寄り過ぎた為に線香花火は2つの玉がくっ付きあって
落ち、ベランダの床で一瞬大きな花を咲かせて消えて行く。
くっ付いたまま冷えて固まったその形は、まるでハートを
かたどっているかのようだった。
****************
花火の後片付けを終え、キッチンで手を洗っている時に
ソウが入って来た。
「ビール飲むか〜?」
顔だけソウに向けて尋ねると、微笑んだまま首を横に振り
俺が手を拭き終わるのを待って、俺に向かって腕を広げた。
それに微笑み返しながらソウの元に近寄り、首に抱きつく。
「コウイチ、時間と場所を取り戻させてくれてありがとう。」
耳元で囁きながら俺の背中を優しく抱き締め返してきた。
ソウの少しだけスパイシーな香りと、足元から湧き上がってくる
幸福感に包まれて、俺は震える体でギュッと抱き付きなおす。
「……ソウ、俺の隣にいてくれて……サンキュ……」
ソウが体を少し離して顔を覗き込んでくる。
またしても涙が零れてしまう自分が照れ臭く、強引に顔を
逸らしてソウの肩に顔を埋めた。
そんな俺をしっかりと抱き締めなおし、黙って優しく頭を
撫でてくれる。
ソウと思いが通じ合ってから、俺はすっかり涙もろくなって
しまった。
その事は少し照れ臭くて恥ずかしくもあるが、俺にも
泣ける場所が出来たという証明でもある。
頭を撫でてもらったり撫でてやったり。
抱き締めてもらったり抱き締めてやったり。
お互いの腕の中で泣いたり泣かれたり。
目まぐるしく入れ替わる俺達の関係。
だが、お互い持ちつ持たれつ、不器用な俺達には
これ位が丁度いい。
くっ付きあい、一つになって落ちたあの線香花火の
玉の様に、二人で一人前になれればそれでいい……