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首6

洗練された調度品と落ち着いたインテリアに囲まれたバー。
まだそれほど人も多くはなく、程よく落ち着いた空気に包まれ、絢菜さんを促して奥のカウンター席に隣り合って座ると、甘いカクテルが好きだという彼女には桃の香りがするベリーニを、自分にはワイルドターキーのオンザロックを注文する。
元々私はビール党でリョウは日本酒党なのだけど、リチャードさんが贈ってくれるおかげで最近ではアメリカ産のお酒も飲む機会が多い。
なかでもリチャードさんおススメのワイルドターキーは二人共とてもお気に入りで、リョウはストレートで、私はオンザロックで楽しんでいる。

慣れた手つきでカクテルを仕上げていく初老のバーテンダーを眺めながら、緊張気味の彼女に何気ない話をしているうちに、薄いピンク色をした液体に満たされたシャンパングラスが彼女の前に差し出され、次いで深い琥珀色をした私のグラスも置かれる。
二人で再度乾杯をし、おいしい、と喜ぶ彼女に微笑みながら自分のグラスを傾け、豊かな香りとしっかりとしたコクを楽しんだ。


程なくして絢菜さんが化粧室に行く為に席を外したので、私はその隙にバーテンダーを呼び、小声である事を頼んだ。
黙って頷いたバーテンダーは、私の注文通りに作ったカクテルをカウンターの一番端の空いた席に置くと、一度店を出ていく。
そして店に戻って来た時には、その後にバツが悪そうな顔をした男の子を連れて来た。
バーテンダーはカクテルが置かれた席にその子を案内し、また何事もなかったかのように仕事に戻る。
私は頼み通りに動いてくれた初老の男性に目礼すると、居心地悪そうにスツールに腰掛け、チラチラと私の方を気にしているミキ君に、自分のグラスを軽くかかげて見せながら微笑んだ。


ミキ君が私の様子を見に来ているという事には、このホテルに足を踏み入れた時から気付いていた。
リョウがこういう指示を出す筈はないし、ましてやミキ君一人でこんな事を思いついた訳ではないだろう。
だからきっと五人衆の子達が私を心配してくれた結果なのだろうし、多分本人達はリョウにも私にも内緒のつもりだったのだと予測がついた。
まぁリョウも気付かない筈はないので、五人の気持ちを理解した上で見てみぬフリをしているのだろうけど。
どちらにしろ彼らの気持ちは心の底から嬉しかったし、こんなに大切にしてもらって私は本当に幸せ者なのだと実感していた。

ミキ君が尾行に向いていないのは間違いないけれど……


ミキ君は申し訳なさそうに頭を下げ、私が頷くとようやくおずおずと自分の前に置かれたカクテルに視線を向ける。
そして予想通り飛び上がらんばかりに驚いている様子を見て、思わずバーテンダーと目を見合わせながらクスリと笑った。
普段のきかない性格は充分一端のヤクザを感じさせるのだけど、こういう時に見せる反応はとても可愛いくて憎めない。

私が彼に頼んだのは 『ニコラシカ』 というカクテル。
ブランデーの入ったリキュールグラスの口をレモンスライスで塞ぎ、そのレモンの上に山盛りになった砂糖が乗せられている。
このカクテルには少し特殊な飲み方があり、多分それを知らないミキ君がどうやって飲むのだろうと想像をめぐらすだけで、悪戯を思いついた子供のようにワクワクした。

尾行の件を咎めない分、それぐらいは楽しませてもらわないとね。

そう思いながらふと自分の首にまかれている首輪を思い出し、私も少し意地悪なリョウに似て来たのかもしれない、と自分自身に苦笑した。