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首2

夕食の支度がほぼ整った頃、リョウは健人君とミキ君と右京君を連れて帰って来た。
『おかえりなさい』 とキッチンから顔を出した私の頭を、いつものタバコと落ち着いた大人の香りがほのかに漂うスーツの片腕ですれ違いざまに引き寄せたリョウは、髪に軽く口付けてから腕を解き、ニヤリと笑いながら私の頬をさらっと撫でて居間に入って行く。
そのリョウの後に続いて少し頬を赤く染めながら口々に私に挨拶する3人に 『いらっしゃい』 と苦笑しながら声をかけた。

キッチンに戻って揚げたての牡蠣フライを盛り付けながらカウンター越しに居間の様子を眺めると、リョウは脱いだ上着をミキ君に渡してテーブルの前に胡坐をかいた。
そしてミキ君から受け取ったシガレットケースを開き、1本取り出したタバコを軽く口に咥えると、ネクタイを緩めながら健人君が差し出しているライターに顔を寄せ、深々と煙を吸い込む。
少し顔を上げ気味にして勢い良くその煙を吐き出すと、紫煙を燻らせながら斜め前に座らせた右京君と仕事関係の話を始めた。

「手伝います」

その声にハッと我に返ると、健人君とミキ君がいつの間にかキッチンに入って来ていた。
リョウの流れるような動作に思わず目を奪われ、いつの間にか手が止まっていた自分に苦笑しつつ、二人に手伝ってもらいながら手早くテーブルに料理を並べていった。
全ての支度が整った頃丁度リョウ達の話も終わったようで、3人は礼儀正しく挨拶してから相変わらずの会話を交わして料理を摘んでいく。
私もリョウの左隣に座ってビールを飲みつつ、その会話に時々笑いながらしばし和やかに過ごした。


「あ、そう言えば……」

ふと会話が途切れた時に帰り際の部長の話を思い出した。
3人の視線が私に集まるのを感じながら隣を見ると、黒神十人衆の一人から頂いた、リョウの好きな辛口の地酒が入ったクリスタルの猪口に口をつけながら、片眉を上げて視線を返して来る。

「里山部長から食事に誘われました。
 娘さんを改めて私に会わせたいというお話でした
 ので、土曜の夜、少し出てきます。」

リョウは私に視線を向けたまま猪口の残りを一気に煽る。
そのまま差し出された猪口にお酌をしていると、ミキ君が首を傾げながら口を開いた。

「里山部長って遼さんの直属の上司でしたっけ?」

『えぇそうですよ』 と返すと、今度は少し難しい顔をした健人君が私に尋ねてくる。

「直属の上司が娘に会わせたいって、それってエライ意味
 ありげに聞こえるんですが……やっぱり見合いとか、そう
 いう事なんスか?」

ミキ君が驚いたような顔をし、右京君が慌てたように健人君の頭を殴る様子を見て苦笑しながら、自分のビールを飲みつつ経緯を話した。

「以前絢菜さんというそのお嬢さんはうちの病院に入院
 していたのですが、その時に何度か他愛もない会話を
 交わしたんですよ。
 それで術後の不安が消えて元気になったと本人が思って
 下さっている様で、そのお礼をしたいと言われましてね。」

「……遼さんに声をかけて貰ったおかげで元気になった
 患者は他にも沢山いると思いますが、その患者達が
 食事に誘う度に付き合わなければいけないのですか?」

訝しげにしている右京君の疑問に 『いえ、普通は全て丁重にお断りしますよ』 と答えると、ミキ君が 『じゃあ何故今回は行くんですか?』 と言い、『やはり上司だから断れないのですか?』 と右京君も再度尋ねて来る。
すっかり質問攻めになってしまった、と苦笑しながらビールを一口飲み、黙って差し出された猪口にまたお酒を注ぐ。
リョウはつまみを食べながらいつも通り黙々と盃を空けていた。

「別に断れない訳ではないですよ。
 ただ娘さんは少し男性が苦手らしいんです。
 その彼女が私なら大丈夫だというので、この機会に
 男性が怖い存在ではないと教えて欲しいというお話
 だったものですから。
 私にそんな大役が務まるかどうかは別として、部長
 にはいつもお世話になっていますので、少しでも
 お手伝いしようと思いましてね。」

「手伝いって……
 まさか遼さんがその女を抱くんですかっ?!」

ミキ君が健人君の台詞に呆然としている横で、リョウの反応を恐れたのだろう右京君が右手で健人君の口を強引に塞ぎ、『申し訳ありません!』 と頭を下げる。
その反応を受けて一気に血の気が引いた健人君も、右京君に口を塞がれたままモゴモゴ言いながら床に頭を擦り付けるようにし、それに続いてミキ君も慌てて頭を下げた。
思わずクスッと小さく笑いを漏らして隣を見ると、リョウも口端を片方だけ上げてクッと笑い、私を横目で見ながら3人の方に軽く顎をしゃくった。
ここはリョウが口を出すより私が収めた方がいいのだろう。


「普通に食事をして会話をして帰って来るだけです。
 私は女性を抱けませんからご心配なく。
 それに……」

3人とも恐る恐る顔を上げた。
それを見ながら隣に膝を一歩進めて右手を伸ばし、リョウの首を少し引き寄せると、私のするがままに任せているその首筋にそっとキスをする。
そして静かに唇を離しながら、3人の方に視線を向けて微笑んだ。

「私はリョウに抱かれる為に生きていますから。」

今度は3人全員が頬を赤く染めながら口をあけて私を見ている。
相変わらず予想通りに返してくれる反応が可笑しくて、クスクス笑いながらリョウの肩に顔を埋めると、リョウもクックと笑って肩を震わせながらまた猪口に口をつけた。


※次は18禁※苦手な方はご注意を