首10
「ぁっ……!」
リョウの動きに合わせてチリンチリンと鳴り続けていた首輪を後ろからグイっと引っ張られ、その勢いで上半身を起こして仰け反りながら支えどころを求めて手を彷徨わせる。
すると腰が逃げないように押さえつけていたリョウの両腕が、私を抱き締めるように回された。
その腕にしがみ付きながら素肌に感じるスーツの感触に肌を粟立てると、痛いほどに硬く膨れている二つの胸の突起を爪で弾くように刺激されていく。
「う、んっ……ッ!」
「……遼……」
欲望に濡れた声で名前を囁かれながら噛み千切られそうな勢いで耳朶を噛まれ、腰が砕けてしまいそうなほど激しく突き上げられて、もう何がなんだかわからなくなっていた。
そんな私をしっかりと繋ぎとめてくれているのは、『リョウ』 という単語一つだけ……
「リョ…ウっ……リョウっ…ああぁ……っ!」
火傷しそうなほどに熱い楔に貫かれ、仰け反らせた首を後ろにいるリョウの肩に預けてビクンビクンと痙攣しながら溜まりに溜まっていた欲望をラグマットの上に吐き出していく。
リョウも息が止まりそうなほどにきつく私の体を抱き締めながら最奥で果てていき、あまりにも強烈過ぎた快感にそのまま意識を手放した。
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ふと柔らかい感触の中で意識を取り戻し、目を閉じたまま辺りに漂う嗅ぎ慣れたタバコの香りを堪能していると、ふいに首の後ろでカチャリ、という音が聞こえ、それと共に何かが取り払われてふっと首が寒くなった。
のろのろと手を持ち上げて寒くなった首をそっと擦りながら目を開けると、いつの間にかベッドの中で寝かされている私の隣では、服を全て脱いだらしいリョウが腰まで掛け布団を被り、咥えタバコで私から外した首輪をサイドテーブルに置いているところだった。
「それのおかげでラグマットをクリーニングに出さなければ
ならなくなりましたよ」
ベッドまで運んでもらったお礼を言った後、苦笑をしながらそう漏らした私に視線を向けて来たリョウは、何も言わずにタバコを咥えたままニヤリと笑う。
「……ねぇリョウ。
リョウにとって恋とは何ですか?」
頭が置きやすい位置に枕を引き寄せながら、ふと思いついて尋ねてみた。
するとリョウは黙って私を見詰めたままゆっくりとタバコをふかし、フィルター寸前になったところで静かに上を向いて思い切り煙を吐き出す。
そしてサイドテーブルの灰皿でタバコを消し、おもむろに掛け布団を剥いで覆い被さって来た。
少し驚きながらもリョウの首に両腕をまわすと、突然激しいキスが降って来る。
タバコの香りを漂わせながら強引に唇を割って私の舌を力付くで引き出すと、痛みを感じる寸前まで噛み付いたり、そうかと思えば急激に優しく絡めたり。
いまだ快感の余韻が残る体で同じ様にキスを返していると、我を忘れてしまう直前でリョウは唇を離す。
そして首輪をしていた場所にゆっくりと熱い舌を這わせてから、射抜くような視線で真っ直ぐに見下ろして来た。
すぐ目の前まで近付けられたリョウの瞳には、紛れもなく私自身が映っている。
「……終わりのない狂気だ」
一滴の甘い毒に侵されていくように、細胞一つ一つにまでその言葉が染み渡っていく。
それが全身に行き渡るのとともに、不意に胸の奥から熱いものが込み上げた。
慌てていつも通りに微笑んで返そうとするものの、瞬きと同時に涙が頬を伝い落ち、我に似合わぬ反応に自分でも驚きながら思わず苦笑が漏れる。
すると僅かに視線を和ませたリョウは静かに唇で涙を拭い取り、そのまま甘く蕩けるようなキスを何度も落としていく。
……確かに恋とは狂気そのものなのかもしれない……
自らの震えを止めるかのようにリョウの背中を強く抱き締め、そのキスが次第に淫靡な口付けに変わっていく頃、ようやく少し力を抜いてそっと昇り龍に指を這わせた。
一気に天を駆け昇る、壮絶なまでのその美しさと、それ自体が命を持っているかのような力強い意志を湛えた瞳。
この龍と出会った瞬間から、既に私の狂気は始まっていた。
恋という名の、終わりのない狂気に取り憑かれている私達は、もう二度と元の自分達に戻る事などないのだろう。
けれどそれが私達に定められた宿命ならば、私はその甘美な宿命に酔い痴れながら喜び勇んで狂い死ぬ道を選ぶ。
まさにそれこそが、私の存在している理由なのだから。
リョウが私を所有している証だった首輪は既に外されているにも関わらず、私の耳にはいつまでもチリンという鈴の音が鳴り響いていた。
− 完 −
2006/03/23 by KAZUKI
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