足8
ドクン、と大きく跳ね上がる心拍。
急激に耳元で感じる自分の鼓動。
このままでは月の魔力に呑み込まれてしまいそうで、そこから逃れる為に顔を逸らしながらギュッと目を瞑った。
「答えなくていいんですか?」
宗さんはそう言って、スルッと繋いでいる両手を離してしまう。
「ダッ…ダメっ!」
その途端押し潰されそうな心許なさに襲われ、目を開けて宗さんの手を引っ手繰るように自分の許に手繰り寄せて繋ぎ直す。
すると驚くほど優しい、蕩けるほどに甘いキスが降りて来た。
キュゥッと胸が締め付けられ、やっぱり宗さんだけが僕の全てを満たしてくれるのだと改めて実感する。
「可愛いユヅキ……誰が欲しい……?」
「……シュウ、さん……っ」
気付いた時には口が勝手に動いていた。
宗さんはもう一度僕にキスを落とす。
「……私も…今すぐユヅキが欲しい……」
耳元で囁く声と同時に、ゆっくりと、確実に宗さん自身が僕の中に入り込んで来た。
ドクンドクンと脈打っているのは、僕の方なのか宗さんの方なのか……
「全部入りましたよ……ユヅキの中に……」
自分の中が宗さんでいっぱいに満たされている、燃える様に熱い感覚と、それに反して、体が慣れるまで何度も繰り返される優しく触れるだけのうっとりする様なキスに、身も心も全てが溶け出していく。
宗さんが好き……
溢れるほどの気持ちが、絡め合っている指の1本1本から伝わっていく気がした。
だけどそれだけでは足りなくて、もっと気持ちを伝えたくて、もっともっと宗さんの傍に行きたくて、朧な月明かりが支配する薄闇の中、その魔力にとりつかれたように自分の両足を宗さんの腰に絡める。
途端に優しいキスが深く激しいキスに変わり、ゆるゆると抽挿が始められた。
「ん…ん……」
「……こんな可愛いことをされたら止められなく
なっちゃいますよ……?」
妖しい輝きを増した宗さんの瞳にすぐ目の前で見詰められ、ハッと我に帰った僕は慌てて足を解きかける。
すると宗さんが動きを止めてしまった。
「またお仕置きがいいんですか?」
それだけは何があっても嫌だったので、焦りながらもう一度しっかり手を繋ぎ直し、足も外れないよう絡め直す。
「……そんなに私と離れたくないの……?」
掠れ気味の声で囁かれ、思わずふるりと身震いして顔を火照らせる僕に、クスッと笑いながらまたゆっくりと動き出した。
けれど浅い所でゆるゆると円を描いているようなその動きは、淫靡な水音を大きく響かせているだけで、与えられる快感はほんの僅かずつだった。
今まで宗さんには数え切れないほど抱かれて来た。
だからこの後に待っている快感の大きさを知っているだけに、余計どうにもならないもどかしさが募っていき、堪らず強請るようにキュッと力を入れてしまう。
「こんなに締め付けて……」
「や、や…だ……」
「いや?嫌ならやめましょうか?」
「違っ……!」
片方の口端を上げて意地悪く笑っている宗さんと目が合い、慌てて口を噤んで視線を逸らす。
そのまま耳まで真っ赤になっていると、クスクスという笑い声が聞こえた。
今日の宗さんは、いつにも増してすごく意地悪だ……
「……どうしてほしいの……?」
囁かれる声に、ふるふると首を横に振る。
「そう…でも体は正直に答えていますよ?
ほら、また私を奥へ誘っている……」
その言葉に、今度は勝手に体が反応して宗さん自身を締め付け、宗さんはさらに意地悪くクスクスと笑った。
恥ずかしくて悔しくて堪らないのに、一々癪に障るはずの宗さんの言葉は、いつの間にか僕の興奮を煽り立てる役目に摩り替わってしまっていた。
入り口付近を焦らすように何度も擦られ、体の奥底がズキンズキンと疼きながら宗さんを求めている。
いい加減限界を示すように、硬く勃ち上がっている僕自身からは透明な液がダラダラと止め処なく零れ続けていた。
もう、ダメ……これ以上、もたない……
朦朧としている頭で最後の理性をかなぐり捨て、本能のおもむくまま、宗さんの腰を引き寄せるように絡めている足に力を込める。
「……もっと……」
「もっと…何?」
「もっとっ…宗さんが欲しいっ……!」
間髪をいれず、宗さんは僕の首筋を強く吸い上げながら一気に熱い塊を押し込んで来る。
「ああぁっ!」
脳まで突き抜けるような快感に、限界まで背中が仰け反った。
繋いだ両手をシーツに縫い付けられながら、その後は何が何だかわからないままひたすら宗さんの存在にしがみ付いていた。
卑猥な音を立てながら何度も奥まで激しく突き上げられ、それをより深く受け入れようと自らの体が勝手にうごめく。
『ユヅキ』 と名前を呼ばれる度に言葉にならない喘ぎを漏らし、その度毎に足を強く絡ませて、宗さんから絶対離れない、と心の中で誓う。
「…あっ…あっ…!んっ…も……イく……っ」
弱い部分を擦り上げるように最奥まで貫かれ、ビクビクと痙攣を起こしたように身体中が震えて、自分が後ろだけでイってしまった事を知る。
それに合わせるように宗さんも僕の中で果てていき、荒い息を静めながら繋いでいる手に何度も何度も優しく口付けてきた。
「……愛していますよ……私のユヅキ……」
先程まであんなに意地悪だったのが嘘のように、あまりにも大事そうに愛しそうに囁かれたので、かえって胸がズキンと痛くなってしまった。
僕も宗さんを愛していると、込み上げてくる思いが止まらず、熱くなった目頭から次々と涙が溢れ出していく。
宗さんが優しく微笑みながら唇で涙を拭ってくれるけれど、口を開いたら嗚咽が漏れてしまいそうで一言も返すことが出来ず、繋いでいる手に縋りつきながらただただ何度も頷き返していた。
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