足5
何が何だかわからないままソファで抱き上げられた僕は、無言の宗さんに寝室まで連れて来られてベッドに横たえられ、さっさとパジャマのズボンも下着も取り払われた。
けれどバスローブの紐を解きながら覆い被さって来た宗さんの胸を、縛られた両手で必死に押し返して抵抗する。
「こ、こんなのは、嫌ですっ……!」
宗さんの力に敵わない事ぐらいわかってはいるけれど、それでもどうしても嫌で懸命に暴れていると、予想に反してふわりと優しく抱き込まれ、羽根の様なキスが次々と顔中に降って来た。
「ユヅキ……」
潜めた艶っぽい声で囁きながら、そっと合わせた唇の隙間から舌を挿し入れられる。
途端に僕の思考回路は急停止した。
宗さんの長い髪がさらさらと体をかすめ、何も考えられなくなった僕は固く目蓋を閉ざしてただただ本能のまま宗さんの舌を追う。
すると宗さんの髪ではないふわふわの柔らかい感触が顔に触れ、何だろうと思って目を開けようとした瞬間そのふわふわしたものにキュッと目蓋を押さえられる。
……バスローブの紐で目隠しされたのだと気付くまで、数秒はかかっただろうか。
「ちょ、な、何する……」
慌てて唇を離しながら抗議の声を上げかけたものの、宗さんはフッと僕から離れていってしまい、ギシッとスプリングの音を立てながらベッドからおりて行く気配がした。
「シュ、宗さん?!」
手首を縛られて目隠しをされた覚束ない姿のままやっとの思いで起き上がり、宗さんがいるだろう方向に向かって呼びかけるけれど、宗さんは全く答えてくれない。
「宗さんっ!」
その時フローリングの床を裸足で歩く、スッスッという足音が聞こえた。
必死でそちらの方に意識を集中して顔を向けると、その足音がピタリと止まる。
「……どうやらユヅキには少しお仕置きが必要なようです。
私から離れて他の男に会いに行こうなんて、露ほども
考えられなくなるようにしてあげますよ……」
****************
この家に引っ越して来る時、ついでだからと宗さんが買ったクィーンサイズのベッド。
深い色をした木目のフレームに最高の寝心地を与えてくれるマットレスで、いつもはこのベッドで宗さんと一緒に眠る時間が、僕にとって至福の時だった。
なのに……
「僕が悪い事をしたのなら謝りますから!
だからこれを解いてください……!」
何度目かも忘れてしまうほど声をかけているけれど、宗さんは全く何も答えてはくれない。
不自由な両手で必死に目隠しだけでも外そうと試みたけれど、宗さんの縛り方が上手いのか、痛いほどキツクされている訳ではないのに何故かビクともしてくれなかった。
仕方がないので取りあえずは裸の体を隠そうと、両手首を縛られ、目隠しをされた姿のまま、懸命に掛け布団がある筈のベッドの足元を探る。
けれど布の擦れる音と共に掛け布団を離されてしまったらしく、いくら手を這わせてもそれを探し当てる事が出来なかった。
「何でもいいからせめて掛ける物を下さいっ」
何の音もしなくなってしまった、静寂に満ちた空間に向かってダメ元で頼んでみる。
けれどやはり宗さんは何も答えてくれず、体を隠す物もくれない。
それでも僕は何度も何度も頼んでみた。
やっぱり宗さんは答えてくれない。
どうしよう……
宗さんが何を考えているのかはわからなくても、どうやら怒っているらしい事だけはわかった。
でも僕の何が宗さんを怒らせてしまったのかがわからない。
僕に万一の事が、とさっき宗さんは言っていたけれど、僕も徳田さんも男同士なんだから何も起こるはずはないのに……
……あれ?
僕と宗さんも男同士だ。
中山さんと宋さんも。
それに宗さんは、徳田さんからの手紙はラブレターだって言っていた……
いや、だけど渋くてカッコいい宗さんと宋さんや、いつでも優しくて明るい大人な中山さんとは違って、僕はいまだに女の子に間違われるような情けない見た目で、決して雑誌の小さな写真を見たぐらいでラブレターをもらえるような人間じゃない。
だからそれは宗さんの勘違いだ。
そんな勘違いでこんな事をされたら堪った物じゃない。
それに僕は宗さんと離れようなんて思ってないし、ただちょっとだけ徳田さんと会って写真を見せてもらおうと思っていただけだ。
……もう宗さんなんか知らない!
一人で考えているうちにすっかり頭に来てしまった僕は、両手を縛られたパジャマで下だけ必死に隠しながら、絶対許してやるもんか、とベッドの上にペッタリと座り込んだ。
※次は18禁※苦手な方はご注意を
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