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耳3

あの後奏から聞いた話だと、雅史に告白をしたのは大人しそうな3年生だったらしい。
まぁ卒業が目前だから焦ってでもいたんだろう。
そいつが出てくるのと入れ違いで中に入った奏に雅史は当然のごとく驚き、俺と一緒に扉の外で話を聞いてしまったと謝った奏に、溜息を吐いて苦笑したという。

あれから俺は、水飲み場の凍りそうなほど冷たい水で顔を洗ってから教室に戻った。
俺の前ではいつも憎まれ口だらけの雅史は、直接言葉で気持ちを伝えてくる事なんかほとんどない。
もちろんあの分かりやす過ぎる態度や反応を見れば、何を考えているのかぐらい大抵わかる。
以前の俺は何でこんなに分かりやすい雅史の気持ちに気付かなかったのかと、自分の鈍感さに改めて呆れるぐらいだ。
それでもやはりあんな風に思ってくれていたんだと改めて言葉で聞けたのは、気恥ずかしくもあるが心底嬉しかった。

だがあれだけ雅史がはっきり答えてくれたにもかかわらず、それでもどこか、ガキ臭い嫉妬から抜けられない俺がいる。
『人間である前に教師だ』 とかクサい台詞を吐いた雅史が、『俺の雅史』 ではなく 『みんなの淀川先生』 であると改めて突きつけられたようで、初めからわかりきっているそんな当たり前のことに、歯軋りするほどの嫉妬に駆られている青臭い自分が情けなく、どうしても雅史と視線を合わせることが出来なかった。


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流暢な発音で英文を読んでいる雅史の声を聞いている内に、いつの間にかこみ上げてくるあくびをグッと奥歯を噛み締めてこらえる。

俺は雅史にあまり視線を向けない分、最近ではその一挙手一投足に耳をそばだてるようになった。
高梨には散々鈍いとバカにされて来たが、そのおかげで大分鈍さが解消されたと自分では思っている。
俺が特に意識するのは何といってもやはり声だろう。
取り立てて高くも低くもなく、決して女っぽくもないが、優しく漂うような、という表現が一番近いかもしれない。
今では機嫌の良し悪しから体調の如何まで大抵聞き分けられるようになったのが、雅史本人にも言えない密かな自慢だったりする。
ただ困った事に何とも心地よく耳に響く雅史の声は、容赦なく俺の眠気を誘う。
以前俺が英語の授業でよく居眠りしていたのは、だからなのだと最近気が付いた。
もちろん今は雅史が色々悩みながら毎回授業の進め方を考えているのを知っているので、そんな失礼な事は出来ないが。

雅史の声を好きな奴が多いらしいとは噂にも聞いているし、先日、淀川の声は独特の艶っぽさがあるのだと、雅史フリークだと豪語している奴らが言っているのを耳にした。
それは確かにそうだと認めてやらない事もない。
だがそうやって知ったかぶりをしながら雅史について語られる言葉を耳にする度に、『何も知らないクセに勝手な事ばかり言いやがって……』 と内心イラついていた。


今現在、あの声がどれだけ悩ましい喘ぎを上げるのかを知っているのは俺だけだ。
普段俺を苗字でしか呼ばない雅史が、『暁』 と俺の名を呼ぶ時の声がどれだけ甘えに満ちていて可愛いのかも、途切れ途切れに漏らす喘ぎ声がどれだけゾクゾクするほど俺の興奮を煽るのかも、切羽詰りながら俺の名を繰り返し呼ぶ時の声がどれだけなまめかしくて色っぽいのかも、全て全て知っているのは俺だけだ……

……いかん。この辺で止めよう。
健康なコーコーセーである俺がこれ以上ヤバイ想像を繰り広げたら、まともに雅史の授業なんか受けていられない。


……それにしてもそんな事で密かな優越感に浸っている俺って…やっぱガキくせぇ〜……