胸2
この学園では携帯の使用が禁止されてはいないけれど、その代わり授業中の使用と音を鳴らすのはもちろん厳禁なので、みんな必ずマナーモードにしている。
僕もその一人なんだけど、万が一司が送ってくれるメールに気が付かなかったら困るので、その為にいつも携帯を入れている胸ポケットを押さえるクセがついていた。
ドキドキワクワクしながらトイレの個室に駆け込んで便器の蓋に座り、念願通り司と色違いにした携帯を胸ポケットから取り出してメールをチェックする。
【今昼に入った。何も問題ないか?】
司は僕の昼休みの時間と自分の昼休みの時間が重なると、合間を見て必ずメールをくれるんだ。
そんなに長いメールを交わす訳ではないけど、場所は離れていても司が僕の事を思い出してくれているんだとわかるから、それだけでドキドキが止まらなくなる。
【いつも通りだよ!司は怪我とかしてない?】
すぐに返信をすると、司もそれ程しない内にメールを返してくれる。
【俺は大丈夫。
でも残業の上に明日も一日仕事だから、
悪いけど今日は会えそうにない。
帰ったら電話する。ごめんな】
……そっかぁ〜……
ここ一ヶ月ぐらいは毎週土曜日丸一日仕事だったんだけど、金曜の夜に会えないのは今日が初めて。
とっても残念で司の顔が見れないのはすごく寂しい。
……だけど仕事なんだから仕方がない。
司は僕と同じ歳なのにもう社会に出て頑張っているんだから、我が侭を言うんじゃなくて僕がそれをちゃんと支えてあげなくちゃ。
すぐに気持ちを入れ替えた僕は再度メールを打つ。
【ううん、僕の事は気にしないで仕事頑張ってね♪
じゃあ電話待ってる。
司、大好きだよ〜】
ハートマークをいっぱい付けたメールをピッと送信してパタンと携帯を閉じる。
今日は無理でも明後日は休みだから明日の夜には会える筈。
だから明日の夜、今日会えない分まで沢山沢山お喋りしよう。
ブルルルル……
胸ポケットにしまおうとしていた携帯がまた振動した。
慌てて携帯を開くと司用のメールボックスに受信を示すマークがついている。
いつもならさっきので終わりなのに……
何か言い忘れた事でもあったのかな?と思いながらピッピと操作をしてメールを開いた。
すると……
【俺も忍が大好きだよ】
……ボンッと一瞬で顔に火が点いた。
こんな風に返って来たの初めて……
トイレの個室だから誰もいる筈はないのに、真っ赤になったまま思わずキョロキョロと周りを見回し、頭からシューシュー煙を噴き出しながら何度も何度もその言葉を読み返す。
……今すぐ司のところに飛んで行きたい……
好きで好きで好きでどうしようもないぐらい好きな気持ちを込めて、そっと閉じた携帯ごと、司がくれた言葉をギュウゥと胸に抱き締めた。
− 完? −
2006/03/28 by KAZUKI
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