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胸1

金曜日。
気持ちのいい晴れの日があったかと思えば冷たい雨が降ったりと、行きつ戻りつを繰り返しながらも着実に春に向かっている事を感じさせる、そんな暖かい陽射しが降り注いでいる2年A組の教室で。


以前はそれほど天気や気温を気にしていたわけじゃないのに、今は少しでも暖かい日があると心からありがたいと思う。
それは鉄筋屋さんの司が外で働いているから。
風邪を引かないかといつも心配する僕に、体を動かしているからそれほど寒くはないし、現場に置いてあるジェットヒーターで時々暖を取っているから大丈夫、と司は小さく笑って言うけれど、それでもやっぱり早く暖かい春になってほしい。
そういえば司も今頃お昼休みに入ったかな?
ちゃんとジェットヒーターで温まってるかな?
怪我なんかしてないかな?
あ〜早く司の元気な顔を見たいな〜……

太陽の光を透かせている、窓際に引かれた白いカーテンを眺めながら司の顔を思い浮かべ、ほぉ〜と小さく息を吐いた。


「ま〜た皆瀬の事考えてんのかぁ〜?」

暁のからかうような声でハッと我に返ると、購買で買ったおにぎりを食べながらニヤニヤしている暁だけじゃなく、響も奏もお弁当を食べる箸を止めて笑いながら僕を見ていた。
そう言えば今は昼休みなので、いつものメンバーでお昼ご飯を食べている最中だったんだ。

「ど、ど、どうして司の事考えてたってわかるの?!」

「そりゃあ忍を見ていれば誰だってわかるって。
 まさに恋をしている乙女そのまんまだもんな〜。」

「ちょっと暁っ!!
 僕はおおお乙女じゃないって何回言えばわかるのっ?!」

「そうか〜?
 でもパッチリおメメをキラキラウルウルさせちゃって、
 学ランの上から携帯を握り締めながら
 『司は今頃何してるのかな〜?』
 とか考えてたんだろ?
 それのどこが乙女じゃないんだよ〜?」

すぐに何か言い返そうとは思ったんだけど、響は可笑しそうにクククと笑っているし、奏は暁の台詞にうんうんと頷きながら苦笑していた。
なのでふと自分を見下ろすと、右手には今食べているカツサンドを持ち、左手はいつの間にか学ランの胸ポケットの上から携帯を握り締めている。
それに気付いた途端急に恥ずかしくなり、

「だだだだって、こ、これは……!」

カァ〜っと赤くなりながら言い訳をしようと思ったその時。


ブルルルル……

「来たっ!!」

握り締めていた胸ポケットが振動するのと同時に、今の会話もすっかり忘れて胸がキュンとなった。
ガタンと椅子の音をさせながら立ち上がり、『ちょっと待っててね!』 と言いながらカツサンドの残りを一度に口に頬張ると、胸ポケットを押さえたまま一目散でトイレに向かう。
響も奏も暁もいつもの事なので、『はいはい』 と苦笑しながら見送ってくれていた。