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「桜雲(オウウン)、獅紅(シコウ)はまだ?」

部屋でオウウンとお喋りをしていた僕、如月光鬼(キサラギミツキ)が
そわそわしながらそう聞いた。
そろそろ暗くなってきたし、いつもならもう仕事場から戻ってきても
いい頃だ。

「ミツキ様、そのご質問、さっきから12回目ですよ?
 シコウ様のお帰りが待ち遠しいお気持ちはわかりますが、
 ミツキ様がこちらの世界にお戻りになられてそろそろ4ヶ月が
 経つのですし、もう少し落ち着かれたらいかがですか?」

苦笑しながら答えるオウウンに、少し赤くなりながら、だって〜、と
口を尖らせて言った時、ふとオウウンが耳を澄ますような仕草をした。
そして

「噂をしていれば……お戻りになられましたよ。」

と笑って部屋の入り口の横に平伏する。
それと同時に僕の部屋の襖が開いた。


「おかえり〜!!」

襖が開くと同時に僕はそちらに突進した。
そのままギュッと抱きついて、シコウっていい匂いが
するんだよな〜、と思って……

……思って?……シコウの匂いじゃない……?

僕は抱きついたままゆっくり顔をあげた。

すると真っ白の髪に真っ白の瞳をした髪の短い男の人が、
驚いたように僕を見下ろしている。
そしてその隣には腕組みをし、僕の大好きな赤い目を普段よりも
もっと攣り上げて、苦虫を噛み潰したような顔をしているシコウが
立っていた……


「ご、ごめんなさい……」

すっかり恐縮して真っ赤になりながら下を向いて謝る僕に

「いや〜、熱烈な歓迎で感動したよ。」

と、その白い人はシコウと僕の向かいに胡坐をかいて、さっきから
ずっとクスクス笑い続けている。
その人に抱きついたまま固まってしまった僕は、シコウに無理やり
引き剥がされ、その後こうやってシコウの隣に座らせられたんだけど、
シコウはずっと無言のまま胡坐をかいて目を閉じている。

でも肩が触れるか触れないかの距離で隣に座っている僕には、
ピリピリするシコウの怒りが痛い位感じられた。

……うっ、怖いよ〜……

シコウって普段は無愛想な中にも優しい所を見せてくれたり
するんだけど、その代わりこうやって怒らせてしまった時は
すごく怖い。
まぁ鬼神なんだから怖くて当たり前と言われれば
当たり前なんだけど。


僕がシコウの方をチラチラ見て気にしていると、その白い人が
シコウに

「ほらほら、シコウもそんなに怒らないで。
 ミツキ君は間違っただけだろう?
 許してやれよ。」

と苦笑しながら話しかける。
するとシコウはゆっくり目を開き、一瞬僕を不機嫌そうに見た。

「……まあいい。
 キハク、この者が以前から話していたミツキだ。
 ミツキ、こちらは麒白(キハク)と言って金属性の長(おさ)だ。
 暇さえあればここに遊びに飛んで来る変わり者だから、
 お前も知っておくと良い。」

……金属性の長?
あ、そうか。
この鬼界では唯一長のみがそれぞれの属性を行き来出来るん
だったっけ。

僕はペコッと頭を下げてから、もう一度その人を見た。

ここに戻って来た後、火族の鬼達とは毎日のように会ってるし、
あの祭祀の時に全員人型をしているのを見たけど、みんな赤とか
ピンク色とかで、このキハクさんみたいに白い人はいなかった。
キハクさんはシコウやオウウン達と同じ様な鶯色の着物を着ていて、
髪が膝まであるシコウとは違い、真っ白で短いツンツン頭をしている。
そして瞳も白いし眉毛や爪なんかも全部白い。

そっか、シコウよりも若く見えるけど、この人が長なんだ。
他の属性の人(鬼?)って初めて見たな〜。


僕がまじまじ見ていると

「ミツキ、あ、私の事もキハクで構わないよ?
 ねぇミツキ、私のカッコ良さに見惚れる気持ちはわかるけど、
 あまり私ばかり見ていると、隣の赤い目をした怖い鬼神が
 本気でやきもち焼いちゃうよ?」

と今度は目に涙を浮かべて、クックッと笑っている。
その声にハッとして隣を見ると……

……完璧にまずい。赤いオーラが見え始めている……
シコウはすっかりご機嫌斜めになって僕を睨んでいた。