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  サイクの持ってきた服を渋々とウルは着ながら悪態をつく。
 「もっといいセンスの服は無いのかよ・・」
 「文句を言うなら今すぐ脱がすぞ」
 「脱がすって・・変態かよ」
 いつものサイクならばこんないつものオヤジなウルの悪態も
 なんとも無いのだが今は子供の姿。
 その姿で悪態をつかれると何故か腹が立つ。
 「本当に脱がすぞ!」
 サイクはウルの細い腕を強く掴むと自分の方に引っ張った。
 「や、やめろ」
 抵抗するウルだが今の自分はひ弱でサイクには勝てそうもない。
 掴まれてねじられる腕が痛い。
 いつもだったらこんな腕、振り切って爪の引っ掻き傷でもつけてやるのに・・。
 今は少年の姿。いくら若造のサイク相手だって叶う訳ない。
 悔しい事だが。
 爪ぐらい出して抵抗しようと思うが爪がなかなか出てこない。
 あの時・・子供の姿になった時・・ミュータント能力が失ってしまったのか?
 ウルは不安に駆られる。
 
  「い、痛い・・。離せ・・」
 瞳には自然と涙が浮かぶ。嫌だこんな自分は。
 『まるで本当にガキになっちまったようじゃねぇか』
 葛藤をしているウルを知らずサイクは腕をねじったままそんなウルを見ている。
 涙顔のウルも可愛いじゃないかとサイクは思う。
 サイクにちょっとした悪戯心が沸いた。
 「悪い子にはお仕置きしないとな」
 「お仕置きって。調子に乗るな!」
 さらに強く腕をねじりあげた。
 「ああっー、あーっ!」
 痛みで声を上げるウル。
 いつもしてやられているサイクにとってはいい気味だ。
 だが、涙を流して止めてと哀願している姿には心が痛みはじめた。
 中身がウルでも見た目は少年なのだ。少年を痛めつける趣味は無い。
 サイク掴んでいた腕を放す。
 「わ、悪かった。ごめん」
 自分が痛めつけたウルの腕は掴んだ部分が赤くなっている。
 「悪かったな、本当に」
 サイクは辛そうな顔をするとそっと優しく撫でた。
 ウルはじっとサイクの顔を見た。
 「こんなに腫れてしまって。今、冷やすモノを持ってくる」
 サイクはそうウルに言うとすくっと立ち上がり出ていってしまった。

  「まったく慌ただしいヤツだな」
 ウルは赤く腫れた腕をそっと見つめる。
 すると慌ただしくサイクが戻ってきた。
 持ってきた湿布薬を腫れた腕に貼り付ける。
 熱を帯びた腕にヒンヤリとした冷たい感触が気持ちいい。
 サイクは湿布を貼るとその上から包帯を巻いていく。
 治療を受けウルはつぶやく。
 「こんなのいつもだったらすぐに治るのにな」
 「え?どういう事だ?」
 サイクは包帯の手を止めてウルの顔を見た。
 ウルは答えずじっと巻かれた腕を見つめているだけだった。
 その姿は少年なのにいつものウルと同じで不思議だ。
 「そうだ、朝食も持ってきたんだ」
 サイクは思い出したようにウルに話す。
 机を指さす。その方向にはパンとコーヒーと目玉焼きとウインナーが。
 「ああ、どうりでいい匂いがすると思ったぜ」
 ウルは見つめながらうっとりと目を細めた。
 「遅くなって済まなかったな」
 そう言うとサイクは立ち上がりドアに向かおうとした。
 そのサイクの服の裾を掴むとウルは引っ張る。
 「一緒に食べてくれないのか?」
 上目使いに言うウル。サイクの胸がドキドキする。
 「それぐらいしてもいいだろ」
 心細いのか少し瞳が不安そうだ。
 まるで捨てられた小犬・・。そんな瞳で見られたら断り切れない。
 「ああ、いいよ」
 サイクはそう答えた。
 「ああ、良かった」
 そう言うとウルはにこりと笑う。
 『や、やべっ。か・・可愛い』
 どきまぎするサイク。だが悟られないよう平然を装うとする。
 「腕が痛いから食べさせてくれよ」
 こんな我が儘、いつもだったらお断りなのだが・・。
 今は違う・・今は。
 「い、いいよ」
 ウルは答を貰うと椅子に座りすぐに行動に起こした。
 「あーん」
 口を開けるウル。サイクは倒れそうになる。
 すぐに抱きしめて押し倒してしまいそうだ。
 そしてこんな時にジーンや教授が来ない事を祈る。
 今の自分の心を読まれたくない。
 サイクは葛藤しながらひな鳥が親鳥から
 餌を貰うのを待つようなウルに朝食を食べさせる。
 

 4へつづく


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