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   不思議な事を聞いてくるサイクにウルは訝しげに答える。
  「誰って・・俺以外に誰に見えるんだ?」
  出る声は何故か高く、まるで子供のようだ。
  「ま・・まさか?」
  ウルは慌てて起きあがる。体が異様に軽い。
  その為かウルはバランスを崩してベットから床へと落ちてしまった。
  「君、だ、大丈夫かい?」
  慌てて近づくとウルの腕をサイクは掴み抱き起こそうとする。
  サイクの手の中に収まってしまいそうな細い腕。
  『こ、これは俺の腕?』
  ウルは不安そうな顔でとサイクを見上げた。サイクはそんなウルに優しく問う。
  「君はどこから来たんだ?ここの主のローガンは知っているのかい?坊やは・・」
  『ぼ、坊や?』
  嫌な感がする。まさか・・俺は・・。
  「か、鏡・・鏡だ!」
  サイクの手を振り切るように急に立ち上がった。
  「あ、危ないよ君!」
  サイクの言葉を無視し、よろけながらローガンは壁にかかっている鏡の前に辿り着いた。
  ローガンは鏡の前で前で唖然とし驚愕する。
  腕も足も首も身体の全てが華奢で小さい。
  ヒゲも体毛も生えてないつるんとした瑞々しい肌。
  鏡に映っている自分の姿は少年だったのだ。
  「な、なんだこれは?こ、これが俺・・なのか?」
  顔や身体を触ってみる。鏡の中の少年も同じ動きをする。やはり自分だ間違いない。
  『まさか、あの時・・』
  昨日の戦いの時、高圧電線に落ちたショックでこうなってしまった。
  ・・それしか考えられない。
  
   「き、君・・」
  再び問いかけるサイク。ウルはゆっくりと振り向くと今度は答えた。
  「そんなに誰かと知りたいのか?俺だよスコット。ローガンだ」
  その答にサイクは少し笑うと困ったような表情をしてみせる。
  「ふざけちゃいけないよ。ローガンというのはね、君みたいな可愛い少年じゃなく
  野獣のような毛むくじゃらのオヤジなんだよ」
  「オヤジじゃなくて悪かったな」
  言うと同時にサイクの喉元にウルの拳が届く。
  拳の先にはあの爪が伸びていた。
  「これで解っただろ、スットコ野郎」
  「あ、ああ・・確かに君はローガンだ。その爪といい生意気な態度といい」
  納得したサイクにウルは爪を戻す。
  「しかし可愛くなっちゃったもんだね・・」
  笑みを浮かべサイクはウルを頭から足先までジロジロと見る。
  「何ニヤニヤして見てんだよ」
  「可愛いのはいいんだけれど、このままじゃランチに連れていけないと思ってね」
  ウルはふと自分が裸だった事に気が付く。
  「い、いやらしいヤツだな思えは!」
  頬を紅くすると身体を隠すようにして座り込んだ。
  「僕の子供の時の服が確かあるはずだから持ってきてもいいんだが・・」
  「じゃあ、持ってこいよ早く」
  「それが人に頼む態度と言葉かい?」
  偉そうな態度のサイクに噛みつこうとするが腹の虫がグルルルとなった。
  空腹にはどうも勝てそうもない。しぶしぶとウルはサイクに頼む。
  「お願いします・・・くそったれ」
  「まあ、今回は多めに見て持ってきてあげよう。次回は無いけどな」
  ふふふふと笑いながらサイクは部屋を出て行った。
  「あの野郎〜っ!!」
  ウルは一人悔しがりながら部屋で大きな声を荒げていた。

  3へつづく

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