NOVEL

週末は命懸け9「血」 -11-

 ぴちゃぴちゃ、ちゅくちゅくと、音を立てて、舐め上げ、吸い上げる。音を立てるのは、たぶんその方が中原が喜ぶんじゃないかと思ったからだ。……案の定喜んでるし。少し照れたような笑みを浮かべて、俺を見下ろしている中原は、いつもより少し幼く見えた。元々が老け顔だから、幼くとは言え、限度はある。だけど、その顔はいかにも『嬉しそう』だったから、つられて俺の顔もゆるんでしまう。
「上から見てると、すごく扇情的な光景ですよ?」
 頬を紅潮させ、目をきらきらさせて、中原は言った。
「なんか、本当、夢みたいですよ。こういう場所で、あなたがそういうことしてくれるなんて、俺の妄想でしか有り得ませんでしたから」
 本当に嬉しそうだ。相変わらず無駄口が多いのは、どうかと思うが。
「記念写真撮っても良いですか? 携帯カメラで」
 それはさすがに勘弁して欲しかったので、一度口を離して顔を上げる。
「やめてくれ。……思い出すのは良いけど、記録に残すようなことだけはするな」
「誰にも知られたくない?」
「それもあるけど、やって欲しかったら、またやってやるから」
「……本当に?」
「時と場合にもよるぞ。少なくとも、うちの高校でこういうことやれって言われたら絶対拒否するから、そのつもりで」
「だ、駄目なんですか?」
 ……こ、この男……。
「駄目に決まってるだろ!? やめろよ!! この変態!! ……あっと、つい……くそ、中原。明らかに俺が怒ると思うようなことは言うのやめてくれよ。俺だってむやみやたら、怒りたくないからさ。……甘やかせてやれるなら、なるべくお前のこと、甘やかせてやりたいって思ってるし」
「……本当、ですか?」
「いつもいつもじゃ、こっちの身が保たないけどな。でもまあ、たまになら、こういうのも良いだろ?」
「あなたも……楽しんでます?」
「……俺はマゾじゃないからな。本気で厭だったら、やらねーよ。これくらいでお前が喜ぶんなら、やってもいいと思うくらいには、お前のこと好きなんだぜ? あんまり見くびるなよ」
「どうしよう。鼻血が出そうなくらい興奮してますよ」
「……バカ」
 なんでこいつ、こういうやつかな?
「なあ、中原」
「なんです?」
「俺、いつもお前がこの程度のことで感激するほど、お前を冷遇してる?」
「…………」
 中原は一瞬、絶句した。
「……えっと」
 何故か目線を反らされた。
「中原?」
「……まあ、そんなことは別に良いです。今が幸せなら」
「…………」
 それ、何か含みがないか?
「その……最後までしてくださるんですよね?」
 こちらの顔色をうかがうような表情で、中原が尋ねる。つくづく、高圧的になったり卑屈になったり、忙しいやつだ、と思う。
「俺にわざわざ伺い立てるな。やって欲しいなら、そう素直に言えよ?」
「言って良いんですか?」
「俺とお前は恋人同士なんだろ? それともそれって、俺の勘違いなのか?」
「えっ……それって……俺も、そう思って良いんですか!?」
 妙にきらきらした目で、中原は嬉しそうな声で叫んだ。
「あ? なんだよ。お前、これまで俺たちの関係なんだと思ってたんだ?」
「……いや、その、俺の一方的な片思いかと……」
「俺がお前を好きだって言ったのに?」
「だってそんな……急にそんなこと言われたって……ずっと俺の片思いだったわけで、もう絶対報われないと思ってたし、最初の頃は、全然好きとか言ってくれなかったし……」
「待てよ。……お前、俺がお前のこと好きだって言ったのに、それを告白だとか、そういう意味の『好き』だと思ってなかったのかよ!?」
「えっ……? だって……その……っ!!」
 呆れた。なんかすごく呆れた。って言うか、俺が悪いのか? 確かに、恋人として付き合おうだなんて、俺の口からも、中原の口からも出たことなかったけど。
「俺は、お前のこと、恋人だって思いたいんだけど。……迷惑か?」
「まさか! すごく……嬉しいです。感激しすぎで、泣いてしまいそうなくらい。俺もずっと……あなたのこと好きで、あなたを恋人にしたいって思ってたから」
「じゃあ、問題ないな」
「えっと……じゃあ、俺が恋人だから、こういうことしてくれるんですか?」
「それじゃあ、逆だろ? 好きだからに決まってる。お前のこと、好きだから恋人でいたいと思うし、お前を甘やかせてやりたいと思うし、欲情もするんだろ? お前は違うのかよ?」
「……郁也様……っ!!」
 中原は目を潤ませた。
「俺、今、幸せすぎてなんだか死にそうです」
「バカ。これくらいで死ぬな。……俺が困るだろ?」
「……なんだか本当夢みたいだ……」
 うっとりと呟く中原に苦笑しながら、続きを始める。唾液がしたたり、床を濡らすくらいに、丹念に舌先で舐め上げる。中原は俺の髪に指を絡め、弄びながら、少しずつ息を荒くしていく。溜息をつくような吐息をついて、中原は口を開いた。
「……どうしよう。死ぬほど気持ち良いですよ。視覚的にも感覚的にも、心理・感情的にも。ヤバイくらい気持ち良いです。……油断すると気持ちだけでイッちゃいそうです」
 俺は苦笑した。先端をぺろぺろと舐めながら、中原の顔を見上げると、中原は紅潮した潤んだ瞳で俺を見下ろしていた。その瞬間、ぶるり、と中原が揺れて、震えた。次の瞬間、俺は中原に抱きしめられていた。
「……なっ……!?」
 呼吸困難に陥りそうなほど、強く。肩が、背中が、軋んで音を立てそうなくらい、強く。苦しくて、熱くて、でも、厭じゃなかった。中原の雄の匂いが、俺を包む。それを知覚しただけで、俺はぞくりと感じた。俺の硬度を増したそれに気付いて、中原が苦笑するように微笑み、頬に、目蓋に、耳元に口づけた。
「……んっ」
「ねぇ、郁也様。……もう一度、しても良いですか?」
「……最後まで、しなくて良いのかよ?」
「それもイイですけど、俺としては、あなたの中で果てたい気分なんですけど」
「そうしたいなら、それでもいいよ。俺もなんかちょっと……勃ってきたから」
「知ってます。……それに、あなたのイク時の顔見るの、俺、好きですから」
「……バカ」
「駅弁って知ってます?」
「……あ? 何言ってるんだ? なんでこんなところで駅売り弁当の話が……って……あっ……!!」
 かああ、と顔が熱くなった。
「そう。そういう意味です」
 にっこりと中原は笑った。……く、くそ。
「そ、そんなの、わざわざ口で言う必要もねぇだろ」
「照れた郁也様の顔って、俺、すごく好きなので。見たかったんですよ。あなたのことだったら、なんだって素敵で、楽しいですけど」
「……質悪ぃよ、お前。俺、お前に振り回されてばっかりだ」
「俺の台詞ですよ。でも、そういうところも含めて、あなたに惚れてますけど。マゾじゃないはずだけど、あなたにだったら、何をされても良い。俺は、身も心も、あなたの虜ですよ。他には何もいらない」
「……中原」
「純情なのかと思えば奔放で、クールなのかと思えば情熱的だったり。俺は本当、いつもあなたには振り回されてるし、混乱させられてますけど、つかみ所のない、読めるようで読めないあなたは、魅力的で、愛らしくて、心惹かれますよ。これ以上ないくらいあなたに溺れてるのに、これ以上俺をあなたに溺れさせる気ですか? ちょっぴり恨み言を言いたくなるくらい、あなたは素敵です。気が狂いそうなくらい」
 そう言いながら、中原は俺を便器の上に座らせ、両足を大きく広げさせて、間に入り、ゆっくりと俺の中に自身を沈めていく。俺は呻き声を上げて、それを受け入れた。
「両足を俺の身体に絡めるようにしてください。あと、両手は俺の首の後ろへ回して」
 羞恥に顔を赤らめながら、中原の指示に従う。両足を中原の腰に絡め、両手を首の後ろに回して、しがみつく。中原は、笑いながら俺を抱き上げる。奥深くにまで達する中原に、俺は呻き、びくりと背を震わせた。中原はそんな俺を抱いたまま、個室の仕切りに押しつける。
「……はっ……うっ……!!」
「すごくイイ顔ですよ」
 そんなこと、どうでもいいから。
「……はや……く……っ!!」
 俺は呻いた。
「……はやく、しろ……よ。くるし……っ!!」
「どういう風に?」
 意地が悪い。
「とにかく、早く腰を動かせよ。イキたいんだろ? 俺の中で果てたいんだろ? だったら、俺が音を上げる先に、さっさとやれよ。……なんか、俺、あんまり保ちそうにねぇ、から……」
「気持ちよすぎて?」
「……駄目なんだよ。こういうの、俺、苦手だ。……普通にやる方が良い」
「感じてるのに?」
「駄目だよ。気が狂いそうだ。こんなことばっかやってたら、俺、バカになる」
「なっても良いですよ?」
「駄目だって。お前だって、俺がアッタマ悪ぃクソガキだったら、好きだとか思わねぇだろ?」
「俺はそれでも構いませんよ」
「俺が構うんだよ。とにかくさっさと始めろよ。……お前が欲しくて欲しくてたまんねぇんだから」
 その言葉に、俺の中の中原がびくんと跳ねた。ぞくりとして、ぎゅっと、中原にしがみつく。それを合図に、中原は抽挿を始めた。俺はあられもない悲鳴を上げかけて、慌てて歯を食いしばる。指が食い込みそうなくらい、荒々しく腰を掴まれ、ガツガツと貪るように、突き上げられて、幾度も、幾度も口づけされる。真剣な顔で、必死になって、懸命に俺を求めてくる中原の顔は、キレイというよりは、熱くて、苦しくて、大人で、男の顔で、それでいて子供のように見えた。それしかないとすがりつくような。他には何もないのだと訴えかけてくるような。……俺だけでいいなんて言ってんじゃねぇとか、常日頃俺が中原に言ってること全部、どうでも良くなる。俺が、世界で唯一人、俺だけが、この男に求められているという感覚は、ヤバイと思うくらい甘かった。他には何もいらないと言うこの男が恐いと思ってるくせに、この男が求めているのがこの世で俺一人だという幻想が、とても甘く、優しく、うっとりするほど魅力的に思える──俺はもう、狂ってるのかもしれなかった。この『恋』に取り込まれ、狂わされている。今、この瞬間だけは、俺は、中原と共通の幻想を共有できる気がした。……つまり、お前しかいらないと、中原龍也以外は欲しくないと、それ以外のものなど全てどうでも良くて、この男さえいれば、それで良いのだと──正気に返ったら、絶対違うと思ってしまうようなことを、だ。
 中原しかいらない、なんて俺は思えない。正気の時には絶対思えない。なのに、今、俺は、他に何もなくても、中原さえ傍にいてくれたらそれで良い、なんて思ってる。なんだかおかしい。それはおかしい。だって、俺はそんな風に生きられる人間じゃないはずだ。俺はそんな風に生きたことなど一度もない。……でも、こんなにまで、何かを誰かを『欲しい』と思ったことなどあっただろうか、と思う。俺はこれまで、誰を、何を失っても後悔しない、そういう生き方しかしてこなかった。親友である藤岡昭彦のことでさえだ。俺は昭彦が好きだったが、昭彦が俺に愛想尽かして立ち去っても平気だった。そりゃあ、少しは泣いたり傷付いたり悲しんだりしたかもしれないが、俺が昭彦に愛想尽かされるほど、どうしようもない人間ならば、見捨てられても、立ち去られても、仕方ないと思っていた。俺にとって昭彦は、この世に唯一残された『希望』で『光』だったが、失われるなら、失ってしまうなら、それでも良かった。だが、中原は違う。以前はともかく、今の俺には、失えない。絶対に失えないのだと、ようやく気付いた。
「中原……っ!!」
「……郁也様……っ」
 互いの視線が絡み合い、しばし、相手の顔に見入った。濡れた瞳に、俺が映ってる。浅ましく、中原を求め、貪ろうとする、俺の姿が。どこか泣きそうな顔で、中原が俺を見つめている。その瞬間、俺は達した。続いて中原も、軽く呻いて、放出した。
「ぁっ……はっ……!!」
「……郁也様」
 中原はぎゅっと俺の身体を抱きしめた。そして、キスする。俺も中原の唇を貪り、互いに互いの舌を欲して、絡め合った。中原の首や背は、汗でぐっしょり濡れていた。その感触が、愛おしくて、俺はぎゅっとしがみついた。
「ああ……駄目だ。際限なく求めてしまいそうだ」
 中原の言葉に、俺は苦笑した。
「……ごめん。俺はちょっと、しばらく無理」
「すごく、良かったですよ。……特に、ラストの顔。ぞくぞくしました」
 どきり、とした。
「何を、考えてました?」
 顔が、熱くなる。
「……お前こそ」
 声が小さくなる。
「……泣きそうな顔してたぞ?」
「だって、幸せすぎますから。なんだかもう、これで死んじゃうんじゃないかと思うくらい。たぶん、あなたが思っている以上に、俺はあなたのことが、好きですよ」
「……お前のことを」
「え?」
「……お前のことを、考えてた。俺は……たぶん、これまで、誰のことも、本気で愛したことなど、一度もなかったんだ。きっと」
「……郁也様……」
「だから、俺は、俺からお前を奪おうとするやつがいたら、ためらいなく攻撃すると思う。お前を守るためじゃない。俺自身のためだ。お前のことは絶対に失えない。それに気付いたから、たぶん良心や良識はもう、俺の枷にはならない」
「……郁也様っ!!」
「あのさ、中原。恋人同士で『様』付けってなんかおかしくない?」
「え?」
 驚いたように、中原は俺を見た。
「……『郁也』って呼んでみて」
 中原は真っ赤な顔になった。それでも、口を開いて、言った。
「……郁也」
「照れながら言うなよ。こっちまで照れくさくなるだろ?」
「郁也」
 そう呟いて、中原は俺の額に口づける。
「郁也、郁也、郁也……」
 名前を呼ぶ合間に、口づけながら。
「連呼するな。犬の名じゃないんだから」
 俺が苦笑すると、
「判ってるよ、郁也」
 うっとりしそうなほど優しく、甘い声で。途端にカァッと顔が熱くなった。
「だっ……なっ……!?」
「なに、照れてる? 今更。郁也がそう呼べって言ったのに」
「ごっ……め……っ!! ……お、俺……っ!!」
「で、俺のことは?」
 どきん、とする。中原は優しい笑顔で微笑する。
「俺のことは名前で呼んでくれないの?」
 やたら、ドキドキする。心臓の音が、うるさい。
「……なんで、そんな、いつもと違……っ!!」
「どうして? 俺は、恋人なら、ベタベタに甘やかせて、優しく甘く囁きたいと思ってるのに」
 ちょ、調子に乗ってないか?! この男!!
「ちょっ……待て、中原……っ!!」
「冷たいな、郁也。恋人を、名前で呼んでくれる気はないの? 俺、淋しくて、哀しくなるよ」
 か、勘弁してくれ!! この男!! な、なんでこんな質悪いんだ!?
「や、……やっぱ今のなし!! 取り消し!! 無かったことにしてくれ!!」
「え? そういうこと言う? 俺、あなたの恋人なんじゃなかったの? それともどうでも良い?」
 意地悪ににやにやと笑いながら、中原は言った。……俺、やっぱり早まったか?
「そういうこと言うやつを、名前なんかで呼んでやらない」
「照れてるだけじゃなくて?」
「うるさいな!! 俺はお前のそういうところが嫌いなんだよ!! 俺のことからかってばっかりで!! どうせ俺は修行が足りないよ!! 仕方ねぇだろ!? 俺はお前より人生経験不足してるんだから!!」
「俺は、あなたが自分の名を呼んで欲しいと思うように、あなたに名前を呼ばれてみたいと思ってるだけなのに。……ずるいですよ、郁也様。あなたはずるい」
「……中原」
「自分ばっかり。俺の都合なんて、いつも考えてなんかくれないんだ。俺がそれで、いつも、苦しくなってること、ちっとも気付いてない。……ずるいですよ。俺はそれでも、あなたを憎んだり、嫌ったりできませんけど、でも、ちょっぴり恨みには思ってます。いつも、ですよ」
「…………」
 中原は苦笑した。
「まあ、慣れているから、それこそ『今更』ですけど」
「……待てよ、中原。……『ずるい』って……そういう意味か?」
「そういうって? どういう意味だと思ってます?」
「……つまり、今だけじゃなくて、その、普段から、俺の言動で苦しいとかつらいとか、そんな風に思ったり、してたのかって……」
「……今更でしょう?」
 中原は言った。
「あなたが自覚してないのは判っていましたし、それを恨みに思ったりする俺の方が間違ってるんだろうってことは良く判ってたし、だから、それはあなたには無関係の話ですよ。俺はずっと昔から、あなたのことが好きでしたけど、あなたにはそうではなかったことも、ちゃんと知ってる。恋人同士でもないのに、何かを強要することもできないし、恋人同士だからって、やっぱり強要できるわけでもない。俺はあなたに何をされても、幸せだと思えるから──だから、そういうことで、あなたが気に病む必要なんて、全くありませんよ。俺は、あなたに心振り回されることですら、幸せ感じてますから。まあ、愚痴は言いますが」
「……名前を呼べというなら、呼んでやるよ、龍也」
 言った瞬間、顔が熱くなる。
「う……ごめん、やっぱ駄目だ。俺、すげぇバカで……ごめん、中原」
「恥ずかしい? それとも照れくさい?」
「……その内でも、いいか? 今はまだ無理。自分から言っておいて、なんだけど。ちょっとまだ、普通に呼べそうにないから」
「俺はそれでも良いですよ? 恥じらってるあなたの顔、見るの好きですし。ところで、名前……二人きりの時だけでも良いですか? 一応、仕事中に呼び捨てはまずいかなと思うから」
「うん。……それは別に良い。俺……たぶん、確認したかっただけだから」
「何を?」
「お前に名前を呼ばれるのって、どういう感じかなって」
「……そう言えば、あの、志賀秀一という男」
 う。……なんで今、それを思い出すんだよ。
「あなたのこと、呼び捨てにしてましたよね?」
「別に許可してねぇよ!! あいつ、下品な上に傍若無人なんだ!!」
「……手も早いし?」
「悪かったよ。俺も油断してたし。……でも、好きこのんでされたわけじゃないぞ? 大体、お前が傍にいて、ガードしてくれれば、あんな事は絶対ありえなかったんだ。俺はあいつに触れられたくないし、声も聞きたくない。お前が……俺を守ってくれよ。あいつに俺を触れさせるな。お前なら、できるだろう?」
「やれと言われれば、やりますけどね、郁也様。……気持ちよかったんじゃありません?」
「あっ……あのなっ! 心と体の感覚は別物だぞ!? だからって、あいつとセックスなんて想像しただけでおぞましいし!! 勘弁してくれよ!! 俺が、やりたいと思うの、お前だけなんだからな!! そういうおぞましい想像はするな!! 頼むから!!」
「郁也様って結構快楽に弱いですからね。……信用して良いものやら」
 う。……そりゃあ、最初の頃は、中原のことそんな好きでもないのに、平気でセックスとかしてたけど。あの頃から今と同じように好きだったなんて、口が裂けても言えないけど。
「……俺はそんなにさばけてないんだよ。誰でも良いからセックスしたいとか思えるほど、自分捨てられねぇから。自由恋愛とかそういうの、苦手なんだよ、俺。……少しは俺を信用しろ」
「そうですね。藤岡君とはセックスしてないようですし」
「だっ……!?」
 あまりの言い種に、絶句する。
「どうして昭彦となんかセックスしなくちゃならないんだよ!! 俺にとって、あいつはそういう対象じゃないって前にも言ったはずだろう!? あいつにとっての俺も、そういう対象じゃないんだ!! 勘繰りすぎるのもいいかげんにしろ!!」
「勿論判ってますよ。ただ、俺としては、俺よりも長い時間、あなたと一緒にいられる藤岡君が、個人的に非常に羨ましいだけですから。俺はまさか、あなたと同じ高校に通うわけにはいきませんからね」
「……ヤだよ、俺は。お前がもし、同じ学校内にいたら、休み時間の度にトイレ連れ込まれそうで」
「ああ、それ、なかなか良いですね」
「やめろっ!! 俺はそういうの苦手だって言ってんだろ!? 絶対やるな!! やったら殺す!!」
「そこまで言いますか?」
「その代わり、夜なら、付き合ってやるから……さ」
「その言葉、私が退院しても、忘れないでくださいよ?」
「判ってる。なんかでも……」
「え? どうなさいました?」
「……今夜は、一人で眠りたくない気分だ」
「……っ!!」
 中原がぎゅっと俺を抱きしめる。そこまでは良かった。だが……
「ちょっ……待っ……!!」
「待てません。そんな、可愛いこと言われて、俺が我慢できると思ってます?」
「やめっ……かっ……勘弁してくれよ!! 俺はお前みたいな化け物じゃないんだからな!!」
 中原の左手が、俺をしごき、右手が中へ侵入してくる。
「あっ……はっ……!!」
「……好きです。大好き。……愛してる、郁也……」
「……っ!!」
 凶悪だ。……ひどく、甘い掠れ声で。耳元囁いて。だから、思わず流されそうになる。と、そこへ。
「中原さ〜ん! 郁也様〜っ!! あっれー、ここにもいないのかな?」
 脳天気な声。……野木だ。思わずカッと顔が熱くなる。中原はムッとした顔になる、が手を動かすのはやめない。
「っ!?」
 俺は慌てて、中原の胸を叩いて抗議する。すると、中原は左手を離して、俺の顎に手をかけ、引き寄せると口づける。
「……っ」
 そうしながら、右手中指で、前立腺を刺激する。
「……っっ!!」
 悲鳴を上げそうになるのを、懸命に堪える。そんな俺を楽しげに見遣って、中原はそっと静かに唇を離し、自分の分身に手をかけ、俺のと一緒に握り込む。
 こ、このバカ!! 変態!! 色魔!! 色情狂!! 泣きたい俺の気持ちなど、判っているだろうに、そのまま、それをしごき始める。……ぁああ、こ、こんなやつに一瞬でも気を許したりした、俺がバカだった。確かに俺は、こいつのことが、好きだけど、こいつのこういうところだけは、絶対好きになれない。頼むから、勘弁してくれよ!!

To be continued...
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