NOVEL

週末は命懸け9「血」 -10-

「あ……っ、やっぱ鍵……」
「駄目です」
 中原は耳元で囁いた。
「これは、迂闊で無防備すぎるあなたへのお仕置きなんだから」
 そう言いながら、俺のベルトを外し、ジッパーを下ろして、中身を取り出す。
「……っ!!」
 触れられただけで、ぞくりとする。なんだかヤバイ。すぐにでもイッてしまいそうだ。
「ぬ……脱がなくて良いのか? ほら、下……っ」
「心配しなくても後で脱がせてあげますよ。さんざん喘がせて、焦らせた後でね」
「……ぁっ……!!」
 中原の、太くてごつごつした指が、ゆっくりと俺を撫で上げる。
「触る前からこんなに固くして。あの男とのキスがそんなに良かった?」
「……んなわけないだろ……あっ……!」
 ぎゅっと、強く握られて思わず呻く。
「痛っ……痛いって……中原……っ!!」
 中原はふっと柔らかい優しげな笑みを浮かべて、甘く囁く。
「痛い? それは可哀想に。じゃあ、舐めてあげましょうか?」
 あ、くそ。このバカ。
「それとも、この痛いままの方が良い?」
 泣きたくなった。やめろ変態、と普段なら言ってたところだけど……。
「あなたの望む通りにしてあげますよ?」
 表情と声だけは、とても、優しく。目は欲情に濡れたままで。
「……舐めて」
 ああ、くそ。本当に恥ずかしいんだよ! なんで俺がこんなこと言わなきゃならないんだ、とか思うけど。『なんでもやってやる』とか『好きなだけ欲しがれ』と言ったのは俺だから──それに、そう言った気持ちは嘘じゃないから。
「舐めてくれよ」
「……本当は、誰でも良いんじゃないですか?」
「違う」
「本当に?」
「お前だけだ。……俺が欲しいと思うのは、お前だけ。だから、お前の口で、舐めてくれよ。お前以外、要らない」
 中原は嬉しそうに微笑んだ。
「大サービスですね、郁也様。いつもこうだったら良いのに」
「ふざけるな。お前……本当質悪ぃよ」
 答える代わりに、中原は、舌でそれを舐め上げた。
「……んっ……!!」
「色っぽいですよ、郁也様。色が白いから、羞恥に染まった肌が、とてもキレイだ」
「……やっ……」
 ちゅっと、口づけられて、くわえられる。中原はわざと音を立てて吸った。それから、上から下まで撫で下ろし撫で上げ、吸い上げる。左手で腰を掴み、右手は後ろからズボンと下着の下へと滑り込み、双丘を撫で下ろす。
「……ぁあっ……!!」
「声を上げると、廊下から誰か人が来るかもしれませんよ?」
 ぎくりとする。
「不意に誰か来たら、見られちゃいますね」
 判っててやってるくせに、そんなことをわざわざ言う。
「頑張って我慢してくださいね」
 にっこり微笑む笑顔が、凶悪だ。それから、中原は俺のズボンと下着を、膝まで下ろし、また俺のをくわえた。それから、俺の左手を掴み、それを俺の入り口へと導いた。思わず、さっと青ざめた俺に、唇で愛撫しながら、中原が挑戦的に見上げてきた。……まさか。
「……ちょっ……待て……っ……それはっ……!!」
「……何でもするっていうの、嘘だったんですね?」
 唇を離して、言われた。
「っ、……ま、待ってくれよ。俺、そんなの一度もしたことな……っ!」
「どうでもいい?」
「そうじゃなくてっ!! そ、それはさすがに……っ!!」
「じゃあ、やめましょうか。別に今ここでやらなきゃならないわけでもないですしね」
「……おまっ……凶悪だぞ!?」
 ふるり、と揺れる。ずくずくと熱を持ったそれが、刺激を求めて揺れている。
「……本当に、やり方なんか知らねぇよ」
 半分泣き言だ。
「じゃあ、教えてあげますよ。一人でやりたい時も『便利』でしょうし」
「……一人でなんか、やらねぇよ」
「どうして?」
「お前が傍にいるのに……一人でやる必要なんかないだろ。それとも、お前、俺を一人で寝させる気か?」
「……随分情熱的ですね。そんなの、これまで一度も言われたことなかったですけど。それってつまり、あなたを毎晩求めても良いってことですよね?」
「俺も……本当、お前がいなくて……淋しかったんだよ。いつも、傍にいるやつがいないの……思ったよりキツかったし、その……」
「なんです?」
「……改めてお前のこと、好きだと思ったんだよ。冷静に考えたら、やっぱりお前って最低だし、性格悪いし、ひがみっぽいし、嫌味臭くてヤなやつだけど……それでもお前がいいんだよ。俺もまぁ、溜まってんのかもしれないけど……その、お前がいるのに一人で抜こうとか思わなかったし」
「……そうなんですか?」
「抜いてもいいけど、空しくなるだろ? 終わったあとで」
「本当に?」
「……たぶん」
「たぶん、ですか?」
 中原は少々不満そうな顔になった。……ああ、くそ。
「教えてくれるんだろ? 早くしろよ」
 そう言うと、中原は唇をゆるめた。
「じゃあ、教えてあげますか」
 そう言って、ポケットから、潤滑剤を取り出した。
「なっ……なんで、そんなの持ち歩いてんだ!?」
「必要でしょう?」
 何の必要があるって言うんだ、と叫びたくなった。
「だって、一昨日、苦しそうだったじゃないですか。まあ、そういうのもそそられますけど」
「……っ!!」
「まず、手を開いて人差し指を伸ばしてください」
 言われた通りにすると、中原は、その伸ばした人差し指に手を添えて、潤滑油を取らせた。そして、それを後孔へと導き、触れさせる。
「自分で指を入れてみてください」
「む……無理……入らな……っ」
 言いかけた途端、前を握られる。そしてそれをしごき上げながら、俺の左手に指を添える。そして、円を描くように、ゆっくりと入り口を撫で回す。そうしながら、少しずつ指を埋めていった。
「……っ……!!」
 ぶるり、と震えた俺の耳たぶを、そっと甘噛みして、中原は囁く。
「自分の指だと思うからいけないんですよ。俺の指だと思えば良いんです。そうしたら、いつもとそう変わらないでしょう?」
「……っ」
 本当、凶悪だ。なんか、いつもよりぞくぞくする。少しずつ、抜き差ししながら、指を沈めていく。そうしながら、中原は俺に囁く。
「いやらしい顔ですよ、郁也様。すごく素敵だ。紅潮して、熱っぽくて、潤んでいて。今すぐ挿入して、ぐちゃぐちゃに揺すり上げたいくらい、イイですよ」
「……うっ……ぁあっ……!!」
「立ったままだから、余計入りにくいでしょう? じゃあ、こうしてみますか?」
 少し、腰を浮かせた状態で、便器の上にしゃがませる。
「ほら、こうすると、さっきよりも入り口が広がって、入れやすくなったでしょう?」
「あっ……ちょっ……!!」
 抗おうとする俺を無視して、そのまま一気にずぶすぶと俺の指を、奥まで沈めた。
「……っ!!」
 息を吐いて、身体を宥めようとする俺に、中原は追い打ちをかける。奥まで沈めた俺の指を入り口近くまで一気に引き抜き、すぐにまた奥まで突き込んだのだ。思わず、呼吸を止めて、唇を噛みしめた。強く噛んだ唇が破れ、血が滲む。それを、中原が舌で舐め上げる。
「ああ、ごめんなさい。少し乱暴すぎましたね。つらかったらつらいって言っていいんですよ? 郁也様」
 ひでぇよ、中原。お前、ひどい。
「しばらく自分で入れたり出したりしてみてください。俺はこっちに集中しますから」
「えっ……なっ……!?」
 中原は俺をくわえ、すすり上げた。
「ぁあっ……!!」
 ろくな愛撫もされてなかったのに、一気に達してしまった。
「えっ、ちょっ、早すぎません?」
 驚いたように、中原は俺を見上げた。思わずカッと顔が熱くなる。
「う、うるせぇっ!! そんなことかまうな!! だ、大体、お前がスケベだからだろ!? 卑猥なことばっか言いやがって!!」
「そんなに快かった?」
「じゃねぇだろ!! あぁ、くそ……」
 中原の髪を掴んで、唇を押しつける。
「悪かったな。俺は、お前が好きなんだよ。だから……」
「だっていつもより、早いですよ?」
「仕方ねぇだろ。感じたんだから。それより、早く続きしてくれよ、中原」
「……なんだかすごくイイですね。ちょっと夢でも見てるんじゃないかと思ってきました」
「バカなこと言ってる暇があるなら、別の方面にその口と手を動かせ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 中原は舌で白濁を丹念に舐め取り、舐め上げる。その舌先が立てる濡れた音が、卑猥に響いた。外の通路の奥から、人の歩いてくる音が聞こえて、思わず息をひそめた。が、足音は通り過ぎ、立ち去った。
「緊張してる?」
 中原が囁く。
「普通、するだろ?」
 自分で入り口付近で指をぐるりと円を描くように、ゆっくりと抜き差ししながら、答える。
「……気持ちいい?」
「まだよくわかんねぇよ」
「雑念多すぎるんじゃありません?」
「雑念? それ自体十分雑念だろ? 性欲なんか」
「あなたはもっと乱れても良いですよ。俺の前では、もっと乱れて溺れてください」
 俺は苦笑した。
「お前さ、普段、一体どんなこと考えてるわけ?」
「そりゃ勿論、あなたとヤることばっかりですよ。先日の騎乗位は最近で一番のヒットでした。昨日のオカズにさせていただきましたよ、ありがたく」
「……っ!!」
「……にしても、下手ですね」
「なっ……!?」
 中原は自分の指を、無理矢理滑り込ませた。
「……っ!!」
 そうして、指をくっと折り曲げて、その部分を撫で上げる。
「……ぁあっ!!」
「ほら、ここですよ、ここ。あなたの気持ちの良いところは。普段、俺が触ってあげてるのに、自分で判らないんですか? それって、いつも気にしてないんじゃありません? やっぱりあなたは、一人エッチもちゃんとした方が良いですよ。そうしたら、自分の気持ちいいところがどこか、イヤでも判るでしょうから」
「なっ……かはら……っ!!」
「俺がいないと、オナニー一つ満足にできないんですか? 困った人だな」
 中原は唇をゆるめて笑った。それから、自分の指と、俺の指を引き抜き、自分のジッパーを下ろした。
「っ!!」
「我慢しようと思ったけど、もう挿れます。……良いですよね?」
 こくり、と頷く。
「……来てくれ」
 中原はにやりと笑い、次の瞬間、一気に奥まで貫いた。
「ぁあぁっ!!」
 思わず悲鳴を上げた。中原は困ったように顔をしかめながら、荒い息をつく俺の顔を見る。
「今日はあなたの顔を見ながらやりたいんですけどね。……なるべく我慢してもらえます? 声」
「ぁっ……うぁっ……」
 中原がずるり、と抜きかけると、思わず声が洩れた。
「って今日、本当、声大きいですね。まあ、いいか。俺はそれでもいいですし」
 お、俺は良くない。でも、声が出なかった。口を開くと、喘ぎ声になってしまいそうで。そんな俺の気持ちなどお構いなしに、中原は抽挿する。俺の身体は、俺の意志とは無関係に、びくびく震え、俺の中央にそそり立つものは、中原の着衣に時折擦られ、震えながら、先端を濡らしている。俺は自分の声を抑えるために、両手で口を覆った。
「んっ……んくっ……んんっ……んっ……!!」
「良く締まりますね。それに、表情もイイ。そそりますよ。でも、もう少し協力してくれると嬉しいかな」
 何を協力しろって言うんだ。相手の顔を見上げると、中原はにやりと笑った。
「俺に、しがみついてくれます? できればぎゅっと。あなたを抱いていることを、もっと意識したいんで」
 ……恥ずかしいやつ。それでもまぁ、突っぱねることでもなかったから、俺は両手を伸ばし、中原の背中に手を回し、ぎゅっとしがみついた。
「顔は上げて。俺にあなたの顔を見せて。俺の目を見て」
 熱と欲望に浮かされたまま、言われるままに従う。
「……俺に、どうされたい?」
 これ以上?
「ずっと」
 熱い息の下で。
「ずっと俺の傍を離れるな。……もっと、ずっと傍にいろ」
「……今は?」
「俺のことは気にするな。お前のしたいようにしろ。……それが、俺の望みだ」
「もっと激しくしてもいい?」
「……お前がそれを、望むなら」
「あなたは? あなたはどうされたい?」
「……お前の全部が欲しい。隠さないで、全部見せろ。今更、恥もくそもねぇだろ? こんだけお互いさらけ出してるんだから。俺が欲しいなら、もっと力いっぱい求めろ。後悔するかも知れないけど、今はとにかくお前が欲しいから。正気も理性もぶっ飛ぶくらいに、俺を気持ちよくしてみろ」
 中原は苦笑した。
「それでこそ、郁也様ですね。キレイで、傲慢で、高飛車で。でも、お願いするなら、もっと上手にしてくださいよ?」
「…………っ!!」
 勢い良く突き上げられて、声にならない悲鳴を上げた。激しく強く抽挿されて、気が狂いそうになる。必死に中原の背や肩に爪を立てて必死に掴まり、激しく揺すられ、突き上げられて、背を仰け反らして、悲鳴を上げる。痛みだか、快感だか、もう区別つかない。頭の中が沸騰して、自分の身体の内の中原のことでいっぱいになる。中原は時折、唇を首や頬に口づけながら、俺の腰を掴み、がくがく揺らしながら、俺の顔へと視線を注ぐ。
「……頼むから、俺以外の男に、そんな無防備な顔見せないでください」
 呼吸を荒げ、掠れた声で。
「……嫉妬で気が狂うかと思いました」
「なかは……ら……っ」
「あの男と、あなたを、殺したいと思うくらい」
「……っ!!」
「それくらい、我慢してるんだから、あなたもそれくらい察してください。俺は、あなたを愛してるんですから……殺すくらいなら、離れた方がマシだ。あなたを傷付けるくらいなら、俺が死んだ方がマシで……だから……っ!!」
「俺は……お前のものだっ……」
 ほとんど掠れて、声にならない、けど。
「いつだって、心は、お前にある。俺は……っ……少なくとも今の俺は、お前が好きだ。愛してる。こんなことしたいと思う相手、お前以外に一人もいない……っ!!」
 悲鳴を上げる。身体の中で、中原がその大きさを更に増した。ぎり、と背中に爪を立てた。中原が呻き声を上げたが、中原を受け入れるのでいっぱいで、それ以上気遣ってやれない。中原が切羽詰まってるように、俺も切羽詰まっていた。
「俺が一緒にイキたいと思うのは、お前だけだ……から……!! だから……イカせてくれ……っ!! お前と一緒に……!! もう、俺、限界ギリギリだけど、お前がイクまで、我慢するから……なかは……っ」
 気が狂いそう。唇だけで呟いた。中原はもう笑みを浮かべていなかった。真剣な、熱い目で、俺を真っ直ぐに見つめて。貫く。涙が溢れ、こぼれ落ちた。それを拭うことなく、俺はひたすら、俺を求める中原の目を見返した。──可能な限り。最深部で、中原が精を激しく解き放ち、それを合図に俺は自分のを解放した。苦しくて、ぜいぜい、喉が鳴る。呼吸が荒い。水が欲しい。体内でドクドクと溢れ続けるそれを、ずるりと抜いて、がくがくしそうな足腰を必死で堪えながら、まだ幾分固さを残しながら、両足の間で揺れるそれを口に含んだ。
「いっ……くや様!?」
 驚いたように、中原が声を上げた。ぺろぺろと舐め上げていく内に、またむくりと立ち上がり、硬度と大きさを増していくそれに、口づけた。
「ちょっ……何してるんですか……っ!!」
 焦ったように、中原が叫んだ。
「何って……フェラチオ。駄目か?」
 すると、中原は真っ赤な顔で自分の口を両手で押さえた。
「駄目も何もっ……ぁああ、あなた、まだここでする気ですか!? てっきり嫌がってるんだと思ってたのに!!」
「嫌がる? なんで?」
「なんでって!! 普段のあなたなら、こういうの、絶対嫌がるでしょう!?」
「俺が嫌がるって知ってて、ここでやらせたんだ?」
 まあ、そうだろうとは、思ったけど。
「あっ……それはそうですけど……そそるんですよ……郁也様……。嫌がることを無理にさせたくなるって言うか……そういう時の恥ずかしそうな表情とか、屈辱に震えている姿が可愛くて、つい……」
 今更焦った顔で、抗弁してる中原の顔を見ていたら、笑い出したくなった。
「えっ……ちょっ……郁也様!?」
「おもしれー、中原、今の顔。すげぇ、困った顔で」
「…………っ」
「……可愛いよ。……って病気か? これ。お前みたいに図体デカイ三十男つかまえて」
「……ちょっと複雑な心境です」
「俺も。……で、出しっぱなしのそれ、どうする?」
 俺が尋ねると、中原は困惑した表情で、真っ赤になりながらも、小声で呟いた。
「……お願いしても、良いんですか?」
「今更だろ」
 言うと、中原は唇をゆるませた。

To be continued...
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