NOVEL

週末は命懸け9「血」 -3-

 たぶん。何をどう考えても。あのクソ狸『社長』はまともに聞いたって、笑ってはぐらかされるだけだろう。心底あの男と血が繋がっているという事に腹が立つ。人に迷惑かけるなよ。
 でも、良く考えたら、俺はあの男の息子で──不幸な事に──引き取られてから十年ばかり同居しているけど、あいつの素性についてろくに知らない事に気付いた。どういうタイプの人間で、何をどう考え、どういう発想でどういう風に行動するか、大体のパターンは把握していると思う。おおよその事ならば想像がつく。だけど、どういう人生を送ってきたのかとか、出身学校が何処で、そもそも友人なんてやつがいるのか、なんて事を全く知らない。旧姓が『四条』で、『久本』の前社長の一人娘と結婚して婿養子になった事は知っている。その最初の妻が顔は良いけど中身は最低な女で、俺の母と俺を襲わせ、母を殺し、俺に死の淵をさまよわせ、やっと回復した俺を再度襲撃したり、毒を盛って殺そうとしたり、小動物の死体をベッドの中に放り込んだりした。
『お前のような薄汚いネズミは、生きている価値なんか無いのよ!』
 そんなバカな事受け入れられるか。俺に生きている価値があるかどうかなんて、そんなの俺が決める事だ。他人に勝手に決められて、ああそうですかと受け入れられる訳が無い。
 あの時俺を支配した怒りは、初めて中原に会った時に味合わされた怒りに似ていた。
『死にたいなら死ねば良いさ。嗤ってやるから』
 あの瞬間は一生忘れる事が出来ない。どうする、なんて聞かれるまでもなく俺の気持ちは決まっていた。他人に虐げられ、他人の犠牲になって、他人に殺されるのなんか冗談じゃない。それくらいだったら自分で死んでやる。誰かに自分の命をどうこうされるなんて、絶対許せない。弄ばれていたぶられて、ボロ雑巾のようになって惨めたらしく死ぬなんてごめんだ。
 そんな生き方するくらいなら殺してやる。俺は、生きたいんだ。俺の心の望むままに。
「だから、誰にも邪魔なんかさせない」
 人からどう思われようとも。俺の望む事は大それているか? 俺自身は些細でささやかな事だと思ってる。命を懸けなければ叶わないとしても。俺はただ生きたいだけだ。俺として生きたいだけ。それからどうしても『久本貴明』を、その背後にあるその帝国を、どんな手段を使ってもぶっ潰してやる。あの男に屈辱と絶望と敗北感を味合わせる事が出来るなら、何だってやってやる。なりふりなんか構ってられるか。
 復讐の事を考えると、胸がすっとする。ひどく体が熱くなる。指先から痺れるような酩酊に包まれて、俺の肉体を支配する。
 俺に手を貸す決断をした事を後悔するなよ、中原。俺を好きだなんて言った事を後悔したりするなよ。そんなつもりじゃなかったなんて言ったって許さない。お前が思っていたような人間じゃなかった、なんてそんな言い訳は許さない。だってお前が俺を動かしたんだ。お前が俺に決めさせて、お前が先に好きだと言ったんだ。俺はもうお前を失えない。お前を手放す事はもう出来ない。
 お前なんか好きじゃなかった。嫌いだと思ってた。ずっと。誰も何も要らなかったのに。それでも今はお前がいるから。お前を傷付けようとする奴がいるなら、俺の邪魔する奴がいるなら、答えは簡単だ。ぶっ潰す。地獄の果てまでも追い掛け追い詰め、後悔させてやる。
 決めてしまったら簡単だ。悩む事なんて何一つ無い。俺が持ってるカードは一枚も無い。俺に出来る事は何だ? 俺が持っているのは、自分の肉体と精神だけ。使えるコネクションも身分も能力すらも、ろくにない。だけど無いからって何もしないでいるのは俺の性分じゃない。今までは中原に甘えていた。中原がいなかったら俺なんかこの世の何処にもいない。
 鍵を握ってるのは『久本貴明』。だったら、俺のやる事なんて一つだ。

「野木」
 案の定、その一見サラリーマンは野木泰男だった。知らなかったら入社したての新人、で通じるだろう。
「い、……くやさま」
 赤い顔で俺を見る。……少し潤んだような瞳で。
 溜息ついた。
「車あるか?」
「えっ? あっ、はい! あります!!」
「乗るから回せ」
「今! 只今!!」
 ……こいつはつくづく向いてないと思う。社長の考えてる事は判らない。騙そうと思えば簡単に騙せそうだ。……まさか、それを見越してこいつを俺に付けた訳じゃないだろうな? 何となく厭な感じがした。
「野木です。正面に車を一台。郁也様が乗って帰られるとの事です。至急お願いします」
 携帯でそう告げると、にっこり嬉しそうに笑って俺を見る。
「今、すぐ来ますから」
「了解」
 ……本当素直というか単純と言うか。だんだん可哀想になってきた。心底。
 正面入り口前に一台車が止まった。
「ここでお待ちください」
 野木がそう言い、迎えの車か迎えに近付いた。何事か話しかける。俺はそれを横目に見ながら、軽くぶらつくふりで辺りを注意深く観察する。四、五、六、……九。車が一台。バイクが二台。……ここじゃ無理、か。
「郁也様。どうぞ」
「判った。有り難う」
 そう言って笑うと、耳まで赤く染めて嬉しそうに俺を見た。……柴犬みたいだな。こいつ。それもあまり出来の良くない雑種系の。本気で可哀想になってきたけど……ま、そういう事もあると諦めてくれ。別にお前が憎くてやる訳じゃないから。
 車に乗り込んだ。隣に野木も乗り込んだ。運転手と入れて三名。走り出してからバッグミラーをそっと覗くと一台、外の景色を眺めるふりで窓の外を見れば右に一台。チャンスがあるとしたら、今が夕暮れ時で帰宅ラッシュにかかる時間帯だって事だ。教育が行き届いているから、運転手は走行中必ず鍵をロックする。窓も勿論開かない。じゃなきゃ防弾仕様の車も意味無いから。
「あ、悪いけど中州のCDショップ寄って貰える? 今日発売のインディーズのアルバムあってさ。『Lunatic Machinoid』ってバンドなんだけど、この辺じゃすげぇカルトな人気ですぐ行かないと手に入らないんだよ。今日の五時から販売予定でさ」
「え? 五時って……もうあと二十分ですよ?」
「飛ばしてよ。そのくらい軽いでしょ? 志崎さん」
 運転手の志崎は苦笑しながらちらり、と野木を見た。野木は困ったような顔をする。
「どうしても今日ですか? この混み具合じゃ中州町までどう考えても三十分掛かりますよ?」
「行けるだろ? 志崎さんのテクなら」
 にっこり『営業』スマイルで。
「それは……行けない事はありませんが」
「無理は承知で頼むよ、本当。一生のお願い。聞いてくれたら恩に着るから」
 そう言いながら、身を乗り出して、そっと志崎の肩に手を置いた。志崎は困ったように表情をゆるめた。
「どうします? 野木さん。飛ばして行けない事はありませんが……」
  濁した言葉は野木に通じたらしい。少し悩む顔になる。今度は野木の腕に手を置いた。
「ねぇ、頼むよ。野木。限定1000枚なんだよ。どうしても手に入れたいんだ。本当一生のお願い」
 甘える目で、相手を見つめた。野木は見る間に真っ赤になった。面白いくらいに。
「言う事聞いてくれたら何でもするから」
 やりすぎか?と思いつつも、縋るような目で相手を見上げてみせる。野木は完全にのぼせてとろんとした目つきになった。
「……どうしても駄目かな?」
 その途端、野木は俺の手を握りしめた。
「判りました!」
 こっちが面食らうくらいの大声で。
「私からもお願いします。志崎さん。なるだけ早く中州町のCDショップへ。ええと、名前は……」
「山畜だよ」
「ああ、そうです!とにかく早く!」
 ……騙されすぎ。
「了解」
 途端に、車の速度が上がった。ぐぉん、と右車線に移動して、それから更にUターン。少し戻って裏道へ左折。一通を五十キロで駆け抜けて、右へ左へ折れて進んで。後の連中、何が起こったか判らなくて泡食ってるな。と、思ったら案の定、野木の携帯が鳴り響いた。野木が慌てて出て弁明してる。悪いな、それどこじゃ済まなくなるけど。まあこの辺りで人生の無常って奴を知っておくのもきっと勉強になるよ、野木。志崎にも本当悪いけど。
 飛ばして飛ばしに、山畜ショップまでなんと十二分。表じゃなくて裏に止めて。
「有り難う、志崎さん、野木。すぐ行って買ってくるよ。このお礼は必ずするから」
「私も一緒に行きます」
「そう? 本当悪いね。俺の我儘なのに」
「いえ、これも仕事のうちですから!」
「本当悪いな?」
 にっこり笑うと、野木は泣きそうに嬉しそうな顔になった。山畜ショップへ裏口から入る。
「あ、ごめん。野木。俺、急にトイレ行きたくなって。悪いけど列着いておいてくれる?」
「えっ!?」
 野木は驚いた顔になった。
「二階のレジだからさ。看板あるからすぐ判るよ。ごめん、俺ちょっとマジでヤバイからさ。頼むよ」
「すぐいらして下さいね?」
「判ってるよ。じゃあ、頼んだから」
 少しばかり苦しげな顔で懇願するように言うと、野木は力強く頷いた。
「了解しました。ではお待ちしてます!」
 そう言うとダッシュで駆けて行った。……本気でバカだな。そんな人気のあるバンドのアルバムをどうしてわざわざ不便で混雑する二階のレジで扱わなくちゃいけないんだ。そんな事したら一階にまで支障が出るだろ。少しは考えろよな。それにそんなに欲しいアルバムが出る日だったら、学校から直で行くし、『悪いけど寄って貰える?』なんて言葉は出て来ないだろう。すぐ気付よな。騙した俺が言う台詞でも無いけど。トイレ行くふりで野木の背中見送って、それからダッシュで表から外に出た。早くしないと他の連中も追いついて来る。その前にさっさと逃げ出そう。
 制服で目立たない場所、てのは割と良くある。しかも俺が通ってるのは公立高校、しかも学ランで。紛れ込んでしまえば早々見つからない。茶髪に学ランの男子高生、なんてのは巷にゴロゴロ転がってる。手頃なゲーセンに入った。さぁて、どうするかな。取りあえず二千円を小銭に両替して。シューティングゲームに百円硬貨を放り込む。実際の銃は重くてとても使えたもんじゃないけど、こんなのははっきり言ってチョロい。撃鉄も引き金も軽すぎるんだよ。しかもどれだけ撃っても弾込めしなくて良いしな。
  コースやキャラ設定を簡単に狙い付けて引き金を引くと、選択される。『Ready Go』の文字とともに、軽快なBGMが流れ出してゲームスタート。良くあるシステム。頭で考える事なんて何一つ無い。空っぽな頭で体が動くままに動けば良い。攻撃される前に撃つ。そんな事が簡単に出来るのは、これがゲームで俺が死ぬ事が無くて、銃身が軽くて簡単に左右に振れて、引き金も連射がひどく簡単だからだ。本物がこんなに軽かったら、俺は今すぐ射撃の天才だ。
 画面に『Great!!』の文字が表示された。ランクで二位。名前を「I.H」と入力する。……ちょっと軽すぎた。
 自販機で缶コーヒーを買って、時計をちらりと見る。五時二十分。さて、と。取り出し口から拾い上げて、プルタブを上げた。
 ……いい時間、だな。服をどうにかしないといけないけど。コーヒーを飲み干すと、適当な店に入って服を物色する。
「すみません、これください」
 カードで一括。制服を脱いで買ったばかりのスーツに着替えて、学生鞄とともにコインロッカー。整髪剤とサングラス買って、トイレの洗面台で髪を濡らして髪型を変える。それからサングラスかけて外に出た。それからオフィス街へ向かって歩く。『HISAMOTOコーポレーション』本社向かいの喫茶店に入った。
 社長室の明かりは点いている。
「ご注文は?」
「サンドイッチ。それとコーヒー」
「申し訳ございません。サンドイッチメニューはランチタイムのみとなっております」
「じゃ、ペペロンチーノ」
「かしこまりました」
 本当だったら、盗聴器なんか付けたりした方が良いんだろうけど、一般的高校生の俺にはそんな芸当は出来そうにない。鍵を握ってるのは『久本貴明』。だったら奴を張るか、奴を張ってる連中を見つけて張るか、だ。この変装で何処まで誤魔化せるのかは謎だけど。
 大体、玄人のやる事にド素人の俺が敵うのか?という気はしてる。相手は百戦錬磨の連中だ。ここで現れるのが楠木だったら話はもう少し簡単だ。一筋縄で行くような男じゃないけど、面は割れているし勝手は知っている。他の全く見ず知らずの連中に比べれば、マシなんじゃないかと思う。あまり救いにはならないが。
 コーヒーがやっと来た。が、社長の姿が正門前に見えた事で、ペペロンチーノともどもお預け決定。
 いつもより仕事上がるの早いんじゃないか? ……けど、文句垂れてても仕方ない。伝票握って立ち上がる。
「すみません、会計お願いします」
「え、あの……ペペロンチーノはどうしましょう?」
「悪いけど急用なので」
「では取り消しておきますね」
 悪い事した。
「それではコーヒーのみ、四九三円になります」
「ありがとう」
 現金で五百円。
「お釣り、いいから」
 慌てて駆け出す。早くしないと見失う。社長は車には乗らないようだった。笹原と、その他のボディーガードと徒歩で歩いて行く。それを秘書の土橋が見送っている。……何処へ行くんだろう? 近付きすぎるとバレるので、適当に距離を置いて着いて行く。
 社長が入ったのは地下に降りるバーだった。……参ったな。外にいたら着いてきた意味は無いし、かといって中へ入ったらバレるかも知れない。こういう時中原がいてくれたらと思って、赤面した。
 ああ、くそ。度胸だ。でも慎重に。でも本当は既にバレてるんじゃないだろうか、とも思いながら。
 外に待機してるボディーガード連と目を合わさないように、かつ怪しまれないよう堂々と歩いて、階段を下りた。穴蔵みたいなカウンターバー。うわ、見事にテーブルが無い。唯一の救いは死角になる場所が無い事も無いって事か。社長の座った位置を確認してから席に座る。入り口に近い、社長から四人離れた席。隣に体の大きい男が座っているから、こいつが衝立代わりになってくれるんじゃないだろうか、とかすかな希望を抱きつつ。
「待った?」
 社長が声掛けると、相手はぼそりと呟いた。
「五分ほど」
 乾いた、ハスキーボイス。
「なら、君も遅刻したんじゃないか」
「そっちの遅刻を見越した上でだ。更に遅れてくるとは弛んでいるな」
「わざと遅刻したんだよ」
「巌流島?」
「そういう訳でも無いけど。あ、水割り下さい。……喉が渇いたよ。全く本当水飲む暇も無い」
「嘘ばかり言うな」
 ふふん、と社長は笑った。
「それで、君の意見はどうなのかな?」
「君とは赤の他人だ」
「OK。僕もそうだ」
「何故わざわざ呼び出したりした?」
「電話を掛けても、気に入らない話だと君はすぐ逃げるだろう? 酒でも飲ませて酔わせてしまえばこっちのもんだと思って」
「悪いが、俺は酒に強いんだ」
「僕もだよ」
 そう言うと、目の前のグラスを一息に飲み干した。
「ご注文は?」
 俺への質問だ。
「水割り」
 目の前のコースターに汗のかいたタンブラーが置かれる。琥珀色のブランデーの水割り。そっと右手で弄ぶ。
 目を伏せて耳を澄ます。時折、言葉が途切れて聞こえる。社長の待ち合わせ相手の声が、特に聞き取りづらい。掠れたような声が、語尾を掻き消し、曖昧にする。
「……だから、君がしたことは俺に……」
「贖罪せよ、と?」
「そう言ったら、するのか?」
「すると思うのかい?」
「……しないな」
 すると社長はくすくす笑った。
「判ってるじゃないか」
「……本当最低な男だな」
「でも君は僕を嫌いじゃないだろう?」
「……ぬけぬけと」
「本当の事を言っただけだよ」
「俺は、息子を愛していた。傍目からは、どう見えようとだ」
「うん、子供は可愛いよね。実際生まれてみるまでは判らないものだけど」
「……判っていてやったのか?」
「そんな訳が無いでしょう? お気の毒だと思っているよ」
「……どうだか」
 男は吐き捨てた。
「おかげで妻はあれから泣き暮らしだ。一緒にいると、こっちまで気が滅入ってくる」
「君は? どうしてるの?」
「ピアノを弾いている」
「……相変わらずだよね」
「君に言われたくない」
 社長はくすりと笑った。
「僕たちはね、互いに良く似ているんだよ。否定し合おうとね」
「気色悪い事言うな」
「お互いに、出来の悪い鏡でも見ているような気分になるから、一緒にいると不愉快になる」
「だったら俺をわざわざ呼び出すな」
「……一つだけ聞きたい事があるんだ」
「何だ?」
[なつめ]とは、会ってる?」
「いや」
 即答だった。迷いの無い声。
「本当に?」
「自分と一緒にするな。俺は嘘はつかない」
「……そうだね」
 社長はタンブラーを傾げた。
「……棗が今、どうしてるか知ってる?」
「そういう事は君の方が詳しいんじゃないのか?」
 くすくす、と社長は笑った。
「もう一つ。……君の息子は、棗を知ってた?」
「いや」
 男は答えた。
「律は知らない。知らなかった」
 その途端、頭が真っ白になった。……律、だって?!
「……そうだな、棗には久しく会っていないが、先日、中瀬という男が君の事で訪ねて来たよ」
「……中瀬?」
「これが、その時の名刺だ。良く判らないが、雑誌記者らしい。おかしな戯言を言っていたから、早々にお帰り願ったがね」
「内容については教えてくれないのかい?」
「本当の話だとしたら、実に興味深い話だった。ただ、俺はゴシップには興味がない。本当だろうと嘘だろうと」
「そう」
「その名刺はもういらない」
「では貰っておくよ。……コンサートはいつなんだい?」
「日本でする予定は無い。……雑音がうるさいからな」
「ああ。有名人は大変だね」
「……誰のせいだと思ってる」
「僕は被害者側なんだよ?」
「良く言う」
 男は吐き捨てた。
「だったらあの花束は一体何だ?」
「君のためだよ」
「俺のために、俺の息子の墓参り? そんな殊勝な男の筈があるか」
「……そうだ。ここから出る時は表から出ない方が良いよ。カメラを懐に隠した男を見掛けたから」
「……謀ったのか?」
「まさか。わざわざ何故僕がそんな事をするんだい?」
「君のやる事は時折俺の理解の範囲を超える」
 男は不機嫌な口調で言った。
「俺を陥れるためなら何だってやりかねない」
「そんな事言うかな?」
「本当の事だ」
「……確かに昔は、君を殺したいと思った時もあったよ。けど、僕はそんな子供じゃないからね。君の奏でる音楽はとても好きだ」
「それは……一応褒められているんだろうな?」
「勿論」
「それで結局、何が目的だったんだ?」
 社長は笑った。
「君と直接話したかったのも事実だけど、本当の目的は、君と僕の周囲にいるネズミやゴキブリのあぶり出し、だよ」
「!?」
 その時、店の客全員が立ち上がった。う……そだろ?思った瞬間、誰かに腕を引かれた。
「ささは……」
 笹原徹。出入り口からもボディーガード連が駆けつけてくる。
「今日は本当はこの店、臨時休業なんだ」
 そんなのって……ありかよ?
「一度で全部片付くとも思ってないんだけどね?」
 一発の銃声が鳴り響くと同時に、店内は乱戦になった。

To be continued...
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