NOVEL

週末は命懸け9「血」 -2-

 人の視線を常に感じ続ける事ほど苦痛なものは無い。俺が自由になれた事も、人の視線から逃れられた事も、『久本』姓になってからというもの、ただの一度も経験が無かったが、それにしても、現在の状況は酷い、と感じていた。息が詰まる。窓の外を見ると、ろくでもないものを見つける羽目になるから――例えば見覚えのあるスーツ姿の男とか――授業中うかうかと外も見られなかった。
 苛々する。
「どうしたんだよ? 郁也。昨夜、いつの間に帰ったんだ? 驚いたぞ。朝目が覚めたら、隣にいないし! うちの誰もお前の行方知らないしさ。一言何かあるだろ? 普通。慌ててお前の家電話かけたら、お前いるんだもん。信じらんないよ! 全く。非常識も良い加減にしろよな?」
「気にするなよ」
「お前な! 怒るぞ!! 俺も、俺の家族も本気で心配したんだぞ? お前、一体どうしたんだよ? 何か理由があるなら言えよ! ひとの気持ち考えろよ!!」
 気持ちなら考えてる。少なくとも、昨夜のアレをお前やお前の家族に言ったら、厭な気分になるだけだろう。庭先の足跡は全部消したから、痕跡は見つからない筈だ。
「気が変わったんだよ」
「お前な! ……お前、めちゃくちゃな奴だけど、そういう勝手する奴じゃないだろ!?」
「そういう勝手する奴なんだよ。悪いけど」
「怒るぞ!!」
「怒ってるくせに」
「揚げ足取るなよ!!」
「本当のこと言ってるだけだろ?」
「郁也お前、俺に喧嘩売ってる!?」
「まさか。俺は平和主義なんだぜ?」
「嘘をつくなよ!! 嘘を!! 郁也が平和主義だったらこの世の人間全員平和主義だよ!!」
 ……そこまで言うか?
「酷いこと言うよな。傷付くだろう?」
「嘘つくなって言ってるだろ! 本気で俺の目を見て言えよ!! 本当のこと言えって!! 俺は、お前が何を言ってもちゃんと聞くから!! それくらい信用しろよ!!」
 信用とかそういう問題じゃないんだ。たぶん、そう言っても通じない。判ってるからわざわざ言わない。お前の言う事も、考える事も、大体、言動する前に判ってしまうから。気にするなと言っても無駄な事も判っている。
 俺はお前を巻き込みたくない。俺の事情なんて奴に、お前を巻き込みたくないだけなんだ。だから何も言わない。お前は知ってしまったことを、知らなかったフリは出来ない人間だから。お前は何も出来ない事を認めない。呆れるくらいバカで学習能力なくて、救いがたいくらいのお人好しで。俺はお前に何かして欲しいとは思わない。ただ、そこにいて笑ってくれればそれで良い。それだけで救われる。面と向かって絶対言わないけど。
「俺のことなんか気にしてる暇があったら、中西のことでも考えてろよ。青春野郎。男のケツばっか追っ掛け回してたら、そのうち本命に愛想つかされても知らないぜ? 中西、本当最近人気急上昇だからな。ライバル多くて大変だな、昭彦」
「俺のことはいいんだよ!」
 昭彦は真っ赤な顔で怒鳴った。
「お前に心配されなくても、それくらい判ってる! お前、茶化して話題そらそうとしてるだけだろ! もう、最近学習したんだからな!! お前が話そらそうとしてる時は、大抵何か裏にあるんだ!!」
 そういう余計なことは学習しなくていいんだよ。お前、他にもっと学習することあるだろ?
「そんなこと言うなよ。傷付くだろ?」
 笑って言うと、昭彦は眉根を寄せて、情けない表情になった。
「……お前、ずるい」
「どうして?」
「判ってるくせに」
「判らないこと言うなよ?」
 昭彦は疲れたような溜息をついた。
「……どうせ、俺はお前にかなわないよ。何言っても丸め込まれるんだ。勝ち目ないよ。勝とうなんて思ってないけど。……ただ、問題あるなら言えよ。悩んでることがあるなら言ってみろよ。役に立たないかもしれないけど、役に立たないかどうかは、何もしないうちから判るものじゃないだろ?」
 お前がそうやって役に立とうとするから、俺は厭なんだよ。お前が口先だけで、俺に積極的に関わろうとしない奴だったら、俺はもっと楽だった。そう言ったらきっと、お前は怒るだろうけど。
「お前が心配するような事は何も無いよ」
 だから、心配なんかしなくていい。お前が生きて、幸せそうに笑っていれば、俺はそれだけで良かったと思えるから。
 昭彦はふっと眉を顰めた。
「俺が、お前に関わりたいんだよ」
 どきり、とした。
「迷惑か?」
 真剣な目で。
「んな訳ねーだろ」
 でこぴんする。
「迷惑だったら、俺の前に立たすかよ?」
 にやりと笑うと、昭彦は困ったような顔をした。
「そりゃ、お前はそういう奴だけど……そういうの、な」
「何?」
「堂々と言うなよ。いばれた事じゃないんだからさ」
「別に威張ってないだろ?」
「…………」
 昭彦は溜息をついた。
「何だよ?」
「……郁也を再確認した」
「どういう意味だよ?」
「それはともかく、困ったこととか、悩んでることとかあったら、頼むから話してくれ。お前自身が大したことじゃないって思ってても、大抵大したことだから。後で聞いて心臓冷やすより、俺は郁也と一緒に悩みたいんだ。後で聞くのってすごいショックなんだぞ」
「別に俺は悩んでないって」
「お前は大嘘つきだからな」
 昭彦は断言した。……そりゃ俺だって、ちょっとは嘘つきだなとか思うけど。大嘘つきは無いだろう。
 眉を顰めた。
「お前がそういう奴だって知ってて俺は友達やってるけど、それでもやっぱり痛いんだよ。だからさ、時折甘えろよ?」
「え?」
「お前に甘えられたら、俺、嬉しいから」
 真顔で……言うなよ、お前。
「俺だけじゃないと思うよ? 郁也、もう少しひとに甘えろよ。お前にお願いされたら、どんな無茶なお願いでも、絶対断れないから」
「何それ」
「郁也は大抵一人で片付けようとするだろ? ……淋しいんだよ。何度も言ってるけど」
 だって。昭彦に言ってもどうにもならない事だし。これは俺の問題で、他の誰にも関わりなんかないし。大体、ガードが厳しいってだけで、特に実害は──たぶん無い訳だし。だけど、厭な予感はしている。奴らの上司は『社長』だ。俺を警護しているけれど、俺の部下な訳じゃない。だから、これはきっと『社長』の指示だ。元々、俺の身体に害を及ばされそうになるのは日常茶飯事だし。ボディーガードに紛れ込んで俺を襲う奴も、今に始まった事じゃないし。何か始まろうとしてるんじゃないか? 俺の与り知らぬところで。『久本貴明』の思惑で。
 俺の身体は俺のものじゃない。俺は自由になんてなれない。今は、まだ。俺の『未来』は『久本貴明』に握られたままで。だけど、命も心も売り渡した覚えなんて無い。俺の心と俺の命だけは、俺のものだから。最低限それだけは、誰にも譲らない。誰かの思惑通りに振り回されるのなんて冗談じゃない。俺の生死は俺が決める。それは俺だけの権利だ。他の誰にも許さない。俺のことを誰がどう思おうが関係ない。だが、俺の身体と心を誰かの意のままに扱われるなんてのは冗談じゃない。
 『俺』は俺自身のものだ。
 ふと、疑問が脳裏を掠めた。……十中八九、『社長』の差し金で間違いないと思うけど、だとしたらその原因ってのは一体何だ? 楠木が捕まってないのは知ってる。だけど、楠木が動き回ってたのはもうずっと前からだ。あの夏休みの時から。なのに今更護衛を強化するってのはおかしい。そうするならば、もっと早い時期にするものだ。何か他に要因がある。どんな理由か、なんて考えたくもないけど――だからと言って、それから俺が逃れられる訳でもない。
 何のために?
「郁也?」
 俺は笑った。
「大丈夫、心配すんな、昭彦。はげるぞ?」
「うるさい! そうなったら絶対お前のせいだからなっ!」
 真っ赤な顔で、昭彦が怒鳴った。そう言えば、昭彦の祖父は頭の毛が薄かった事を思い出した。

 帰りに、中原のところへ寄る事にした。相変わらず周辺がうるさいけど―――気にしてたら、胃が痛くなる。病院前でバスを降りた瞬間、ぞくりとした。……誰かに見られてる?
「…………」
 違和感。何故だろう、なんて考えるまでもない。明らかに、周辺に人が多いんだ。人が多い、というよりは人の『視線』が。……気持ち悪い。
 不自然に見えない程度に、ゆっくりと辺りを見渡すと、見知った顔が幾つか見えた。俺の周辺にいる連中よりずっと古株で熟練した連中。不意に、厭な予感がした。
 一体、何だって言うんだ?
 心臓が跳ね上がるのを自覚した。早歩きで病院の玄関をくぐり、病棟へと向かう。エレベーターが来るのが待ちきれずに、階段を駆け上がった。病室前にたどり着いて、ノックもせずにドアを開け放った。
「……郁也様?」
 きょとん、とした顔で中原が俺を見た。……元気そうな顔。思わずへたり込みそうになって、慌てて自分を叱咤する。ドアを静かに閉めて、ゆっくりとベッドへと歩み寄った。
 中原は嬉しそうに笑ってる。
「傷の具合はどうだ?」
「あなたがなめて下さればすぐ治りますよ」
 力抜けそうになる。
「……相変わらずの減らず口だな?」
「その減らず口が聞きたかったんでしょう?」
「黙ってろ」
 言って、半分身を起こした中原の右肩に手を置いた。
「?」
 中原が不思議そうに俺を見上げた。右手で額に触れた。熱は、無い。少し、安心して、そのまま首元を抱きすくめた。
「……郁也様?」
 僅かに熱を帯びた声で。俺は中原の首筋に唇を押し付け、匂いを嗅いだ。……懐かしい、香り。たった、一日会えなかっただけで。中原の腕が背中に回され、強く抱きしめられた。中原の指が俺の顎を捕らえ、仰向かせた。目を閉じて唇を触れ合わせ、互いを貪り合った。
「……どうしたんです?」
 唇を離すと穏やかな顔で、俺に尋ねた。俺は躊躇い、だけど結局ストレートに訊いた。
「何か、あったのか?」
「どうしてです?」
 不思議そうな顔。
「いや、何も無いならいいんだ。俺の勘違い……」
「待って下さい。何かあるなら言って下さい、郁也様。俺に関係あるんでしょう?」
 もっともだ。
「……お前の警備が……増えている」
「俺だけですか?」
 お前、本当厭な奴だ。
「お前だけじゃない」
 中原は唇だけで笑った。
「成程ね」
「……何だよ?」
「あの人が、ようやく重い腰を上げたって事ですか?」
 唇は笑っているけど、目は笑ってない。
「あなたの方も、特別何かあったって事は無いんでしょう?」
「ああ」
「だから、あなたは俺に何かあったんじゃないかって心配して下さった。そうでしょう?」
 その通りだ。だけどそうと認めるのは少し癪だ。
「俺にもあなたにも何も無いなら、あの人だ。あの人が何か始めようとしていて、そのとばっちりを俺達が受ける可能性がある。あるいは、俺達があの人の妨害をする可能性があるから、警備及び監視を強化した。……そういう事ですね?」
「たぶん……な」
 きっと、間違いなく。
「でも真っ先に俺のところへ駆け込んで来て下さったんですね」
 嬉しそうに、中原は笑った。
「たまたま学校に近いからだよ。この病院」
「今更照れること無いでしょう? 俺がいなくて淋しかったとか?」
「なっ……!!」
 カッと顔に血の気が昇った。それを見て、中原が頬を赤く染めた。
「え? まさか……本当に?」
 唇がだらしなく緩んだのを見て、舌打ちした。
「んな訳ねーだろ。ガキじゃねぇんだから」
 中原は無言で笑った。
「んだよ?」
「キレイですよ」
「バカ。褒め言葉じゃねぇだろ、それ」
「この上ない褒め言葉ですよ。すごくキレイだ」
 そう言って、中原は俺を抱きすくめた。
「俺は……淋しかったですよ。あなたが傍にいなくて。あなたは俺がいなくても淋しくなかったんですか?」
 甘い、声で。耳元に囁いて。唇が耳たぶを掠めて。首筋にキスを落として。
「な……か……はら……っ」
「あなたがこの腕の中にいないのがとても淋しかった……」
 押し倒されて、顔の両脇に腕をつかれて。間近に見つめる中原の顔。切なげな愛しげな熱情を秘めた瞳。
「……中原っ……!」
 俺は中原の肩を掴んだ。
「あなたは?」
 寝間着をぐいと掴んで引き寄せた。
「……郁也様?」
 そのまま口づける。唇を強く吸って、舌を滑り込ませる。中原の舌を捕らえて絡め、強く吸った。中原の両腕が俺の背中を強く抱きしめた。息苦しいほどの抱擁。苦しいのに気持ちいい。中原の重みが涙が出そうに気持ち良かった。
「好きだ」
 唾液が滴り、糸を引いた。言った途端、何故か急に恥ずかしくなった。別に初めて言う訳じゃないのに。中原が真顔でじっと俺を見るから。中原はそのまま真顔で顔を近付けてきた。目を閉じる。その途端、不意に生暖かいものが鼻先を撫でた。
「え?」
 中原はにやりと笑った。……今度は唇をぺろりと舐められた。
「俺がいなくて、淋しくありませんでした?」
 こいつはガキかよ?
「あー、はい、はい。淋しかったよ。すっげー淋しかった!」
「……そんな投げやりな口調で言わなくても」
 中原は不満そうな顔で言った。
「お前そんなに言って欲しかったの? 俺に『お前がいなくてとても淋しかった』とかって」
「たまにはいいじゃないですか」
「……判ってんだから良いだろ?」
「何を?」
「俺がわざわざ言わなくても、お前知ってるだろ?」
 言うと、何故か中原は顔を真っ赤に染めた。
「……ずるいですよ」
「何故?」
 中原は口元を手で覆って、溜息をついた。
「俺にばっかり言わせて」
「お前が勝手に言ってるんだろ?」
「そういう冷たい事言いますか?」
「俺は言えと言った覚えはないぞ」
「……どうせ言いたいのは俺ですよ」
「だったら良いじゃないか」
「でも、あなたの言葉であなたの声で聞きたいんです。他の誰でもなく」
「俺に? お前が? お前の望み通りにやれって?」
「……そういう意地悪な事言いますか?」
 中原は眉をハの字にして情けない顔で俺を見た。苦笑して、頭をぽんぽん、と撫でる。
「期待する相手が間違ってるんだよ、と言いたいところだけど……」
 ますます情けない顔になったので笑いを堪えるのに苦労する。
「そういうバカで情けないところも好きだからな」
 中原の顔がぱあぁっと赤くなって、目が嬉しそうにきらきら輝いた。……こいつ、犬みたいだ。やたら図体でかい、マジでのしかかられたらこっちが死にそうな犬。
 つられてこっちまで顔赤くなる。
「俺も淋しかったよ。だから早く良くなれ。待ってるから」
 大サービスだ。ていうかすげぇ恥ずかしいんだよ! このバカ。涙流しそうに瞳潤ませて真っ直ぐに見つめて、何かじーんと噛みしめてるから、ちょっとムカつきかけて、それでもここで突き放すのは、相手怪我人だからちょっと可哀相かなとか思ってたら。
「ちょっ……ちょっ!! 待てっ……!!」
 ベルト外してジッパー下ろそうとかしてるし!!
「やめろっ!! バカ!!」
 殴ろうとして肘鉄食らわせた。やばい、と思う間もなくまともに入って吹っ飛んだ。ベッドの手すりにがぁんと後頭部打って、中原は無言で頭押さえて突っ伏した。
「なっ……中原……?」
「……ひ……ど……っ」
 今の、たぶん目に入った。ぽたり、と中原の指の間から透明な液体が滴り落ちた。どきり、とした。
 中原が、ゆっくりと顔を上げる。両目を瞬かせながら。瞬きする度に新たな涙がこぼれ落ちる。左側を手の平で覆って。右目で俺を弱々しげな目で見つめる。
「……そんなに……厭ですか?」
「だっ……だって……まだ、昼間なんだぞ?」
 声が、震えた。顔が熱くなる。
「……そんなこと、気にするんですか?」
「お前にとってはそんなことでも……俺は……っ」
 駄目だ。まともに顔が見られない。
「俺にはそんなことじゃ済まない」
 お前が泣いたとしても。お前のことは好きだ。どうしようもなくて救いようなくて、本当信じられないバカでとんでもなく性格悪くて、すげぇ厭な奴で出来れば縁切りたいタイプだけど、それでもやっぱり好きで。良いと思う事より厭だと思う事の方が断然多いのに、それでもやっぱり切り捨てられなくて。放っとけなくて。
 好きなんだ。……それでも。やっぱり。我慢できる事と出来ない事があって。別に酷い目に遭わせるつもりなんかなくて。怪我させてもいいと思えるほど厭だった訳でもなくて。理由なんてあるかどうか判らない些細な事で。……それでも素直に謝れない俺の性格が、この期に及んで凄く苛立ったりとかして。……けど。
 長い付き合いなんだから気付けよ、とか。厭とかじゃなくて大した理由なんかじゃなくて、これは単なる事故で過失なんだから、そこでお前は俺を責めても良いんだ。そんな風に泣かれたりしたら俺はお前に何て言えば良いんだ? 何て言って謝れと言うんだよ。
「あー、痛かった」
 そう言うと、中原は左目をぐいと拭うと、けろりとした声で言った。
「は!?」
 ぎょっとして中原を見ると、さっきまで泣いてたのが嘘みたいに、けろりとした顔をしていた。
「……おい!?」
「目に肘鉄入ったら涙くらい出ますよ」
 何でもなげに中原は言った。
「お……お前っ……!!」
 カッと血の気が昇った。
「お前紛らわしいんだよ!!」
「あー……」
 中原はぽりぽりと額を掻いた。
「やっぱり誤解してたんですね?」
「涙声で『そんなに厭ですか』とか言ったのどこのどいつだ!」
「そりゃ痛ければそんな声出ますよ」
「お前俺をからかって遊んでるのか!?」
「そんなつもりは毛頭ありませんけど、そう思われるって事は俺にそうして欲しいって事ですか?」
「そんな事誰が言った!! お前ふざけてるのか!?」
「ふざけてないですよ。大真面目です」
「それがふざけてるって言うんだろ!!」
 マジマジと中原は俺を見た。
「……本当扱いづらい人ですね」
「お前に人の事言えるか!!」
 激昂すると、中原はくすりと笑った。
「こういうの、久しぶりですね」
「……え?」
「あなたとのこういうやり取り」
 何故か頬が熱くなった。中原は穏やかに笑った。
「俺は」
「え?」
「あなたが好きですよ」
 そう言って額にそっと口づけられた。

To be continued...
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