NOVEL

週末は命懸け7「追憶」 -2-

「やっ、お待たせ!」
 昭彦が脳天気な顔で、部室から出てきた。
「おせぇよ、お前。ウ○コでもしてたのか?」
「そんな訳ないだろ!! 部室でするかよ!! バカ!!」
 ……本気で怒るしな、こいつ。バカみたいに素直って言うか、真に受け過ぎっていうか。良くこんなんで世間渡って行けるよな。信じらんねぇ。……たぶん、こいつの周囲は平和なんだろうけど。しかし本人の頭の中が一番平穏平和だな。昭彦みたいな奴ばっかりだったら、この世は本当幸せだ。
「で? どっか行きたいとか希望ある?」
「……て言われてもなぁ。俺、普通のとこしか想像つかないし。お前が良く行くような店、絶対知らないし」
「OK。じゃ、妥当にフランス料理、行くか?」
「……この格好でか?」
「平気。個室あるとこ知ってるから。それに俺顔パス。文句は言わせねぇから安心しろ」
「……それは別の意味で心配なような……」
 昭彦はぼやいた。
「……何? フランス料理嫌い? じゃ、中華にするか? 良いとこ知ってるぜ?」
「あー、俺、中華の方がまだ安心かも。フランス料理なんて行ったら、何か恥ずかしい失敗しそう」
「何? お前恥ずかしいとか思う訳? 俺と二人で飯食うのに? 何でまた。バカじゃねぇの? お前」
「……郁也に恥ずかしいんじゃなくて、店の人に恥ずかしいんだよ。判ってくれよ、郁也」
「判らねぇよ。んなの。……じゃ、中華? それで良いのか?」
「うん。中華料理ならそんなね。高そうなとこでナイフとフォーク持たされるのは、ちょっと心臓に悪い感じするから」
「飯食うだけだろ?」
「……だって俺、そんな高いとこで食べた事ないし。慣れないとこだとやっぱ心臓に悪いって。中華なら使い慣れた箸だから、もうちょっとマシ。何か心拍数上がりそうだよ」
「……変な奴」
 呆れて言ったら、昭彦は真っ赤になった。
「変なのは郁也だって!! 俺、郁也にだけは言われたくないよ!!」
「……イイ度胸だな? 昭彦。俺に喧嘩売ってんのか?」
「あぁ、いや、そういうんじゃない。そういうんじゃないけど、郁也が変なのはただの事実じゃないか」
「……やっぱ奢り無し。割り勘で行こう」
「ええっ?! ちょっと待ってよ!! 郁也!! そんなっ……だって……その中華って一体幾らぐらいするんだよ!? なぁ!!」
「……聞きたい?」
 にやりと笑った。
「……そんなに聞きたいか? 昭彦」
 昭彦はぐっと息を呑んだ。
「……あ……いや……あんまり……聞きたくない、や。何か物凄いヤな予感する……」
 俺はくすりと笑った。
「……まぁ、一回奢るって言ったし? 奢ってやるよ。約束は約束だし。俺が律儀で良かったよな? 昭彦。感謝しろよ」
「……律儀って……」
 昭彦は何か言いたげな顔をした。
「とにかく、早く行こうぜ。店が閉まる」
「……なぁ、予約ってしなくて良いのか?」
「大丈夫。……何とかするから」
「……郁也」
 昭彦は小さく溜息ついた。昭彦の自転車の後ろに乗って、顔利きの中華レストランへ行った。
「悪い。俺だけど……今、個室、空いてるかな?」
 そう、店員に尋ねると、相手はにっこり笑った。
「はい、空いております。久本様ですね。……何名様でいらっしゃいますか?」
「俺とこいつ、二人だけ」
「了承いたしました。只今、ご案内致しますので、暫くお待ち下さい」
 男はそう言うと、一度奥へ消えた。
「……すげぇ……本当顔パス……」
 昭彦がまじまじと俺を見る。
「……普段、偉そうなとこ以外、金持ち坊ちゃんなイメージないけど、お前本当ブルジョアだよな。さすがは財閥。普段からは全く想像つかないけど」
「……お前、俺をどういう目で見てるんだ?」
 俺は眉を顰めた。
「いや、普段はただのタカリなケチケチ魔人だし」
「ほほう。お前、言って良い事と悪い事の区別付いてないらしいな? 余程俺に教育されたいとみた」
「きょっ……教育って!! 何だよ、それ!! 郁也!!」
 その時だった。
「……君、久本郁也君?」
 不意に、声を掛けられた。振り返ると、店の客らしきスーツを着た中年の男が立っていた。俺は眉を顰めた。相手を注視する。
「……失礼ですが、どなたですか?」
 俺の記憶に無い顔だ。少なくとも、『久本』の重要な『顧客リスト』からは洩れてる人間だ。声にも聞き覚えがない。……厭な予感。警戒モードへ移行する。怪しい。この男。
「……いや、覚えてないかな? 私の事を。そうだな。君は小さかったし。覚えていないのも無理はない」
「……あの、失礼ですが……?」
 妙に馴れ馴れしい。このおっさん。身なりはそう悪くない。きちんとした格好で、髪を黒く染め、綺麗に撫でつけている。年は四十から五十の間。穏和そうな顔はしてるけど、顔で中身は判断出来ない。楠木の例が良い証拠だ。
「お待たせしました。久本様」
 丁度そこへ店員が戻って来た。
「すみませんが、我々はもう……」
 そう、俺が言いかけた時、男はそれを遮った。
「ああ、どうかね? 私のテーブルへ来ては。実は一人で来ていてね。良ければ君達も一緒に食べてくれないかな? 一人で食べるより、大勢で食べる方が楽しい」
 つーか、中華に一人で来んなよ! おっさん!!
 大体、あんたが勝手に一人で来たくせに、どうして俺達が巻き込まれなくちゃいけないんだ!! それに、滅茶苦茶怪しい。初対面のガキにそんな事言う奴なんか、この世で一体誰が信用するっていうんだ。冗談じゃない。
「すみませんが、友人と二人で来たので……」
「俺は気にしないよ? 郁也」
 お前は少しは気にしろっての!! ちったぁ、空気を読めよ!! バカニブボケトンマ!! 俺が厭がってるのが判らないのか!?
「あの、お客様……」
 店員が、困ったような顔をしている。
「……久しぶりに佳子[よしこ]の事も話したいし、どうかね? 郁也君」
 どきん、とした。
「……よ……『佳子』って……!!」
 目の前の男を、思わず凝視した。男はにっこりと笑った。
「ああ、名前をまだ名乗っていなかったね。私の名前は高木沢静一[たかぎざわせいいち]。君の母、佳子の従弟だよ。彼女には良く可愛がって貰ったんだ。十一年近く前に会っているんだが……もう覚えていないね。その後も全く会う機会は無かったから、君が覚えていなくても仕方ない。偶然とは面白いものだね、郁也君」
 ……十一年前。
「……すみませんが、友人もいるので、ご一緒出来ません」
 俺はきっぱりと言った。
「郁也……っ!!」
「またの機会に宜しくお願いします。……では」
 会釈して、二階の別室へと向かった。
「……良いのかよ? 郁也」
 昭彦が言った。俺を責めるような、何か言いたげな声で。
「……お前も『お気楽』だな」
 俺は言った。
「何だって?」
 昭彦はムッとした顔をした。
「……十年以上も音沙汰無かった親族が、声を掛けてくる理由なんてろくなもんじゃない」
「何て事言うんだ! 郁也!! 良い人だったろ!?」
 ……お前、本当『お気楽』だよな。
「……『良い人』かどうかってのは、少なくとも表面上じゃ判らない。それに、本当に俺と話したい事があるようなら、ここでわざわざ話さなくても、いつでも何処でも話し掛けられる筈だろ? だって相手は俺のフルネームを、こちらが名乗る前に知っていたんだからな。それに俺の記憶に無い以上、親戚かどうかなんてひどく怪しい。あいつが誘拐犯か何かじゃないって保証は何処にもない」
「郁也!!」
「……それにな、昭彦。音信不通だった親族が、不意に現れて声を掛けてくるとしたらな、大抵目当ては『金』だ」
「なっ……?!」
 昭彦は目を見開いた。
「『借金』の申し込み、『保証人』の申し込み、まだまだあるぞ。不動産とか株、預金や保険のセールスなんてのも。数え上げればキリが無い。……覚えておいた方が良いぞ。顔も名前も知らなかったような親族が、不意に親しげに話し掛けて来た時、一応名前だけは知ってるけど、そう親しくも無く行き来もなかった奴が、親しげに懐かしがって現れる時は、大抵ろくでもない事を企んでる。そういうのには関わり合いにならないのが一番だ」
「……お前って……後ろ向き……」
 昭彦は溜息ついた。
「後ろ向きじゃない。ただの『現実』だ。昭彦は絶対カモにされるぞ。気を付けろ。世の中の良く知らない奴らは全部『敵』だと思っておいた方が無難だ。痛い目に遭いたくなかったらな」
「どうしてお前って……そう悲観的なんだ?」
 昭彦はぼやくように言った。
「悲観じゃない。現実だ。……お前にどう見えたって、それが俺の『現実』だよ。この世は昭彦みたいな考え方する人間ばかりじゃない。世の中、一に金、二にも金、三にも金、何でも金だよ。金が無ければ始まらない。金さえあれば何だって出来る。何だって叶うって考えてるバカばっかりが横行するのが現状だ。金中心に生きてる連中は金のためだったら、親だって子だって平気で売る。『道徳』なんて奴はもはや『過去の遺物』で『幻想』だよ。そんな物当てにしてたら殺されたって文句は言えない」
「……お前、極端だよ」
 昭彦は呆れたって顔をしたけど、呆れるのは俺の方だ。
「……仕方ないだろ。お前と俺は違うんだから」
 昭彦は溜息をついた。
「……そうやって俺を突き放すんだな」
 淋しげな口調で言った。俺は昭彦の目を見た。昭彦は大きな瞳で、真っ直ぐに俺を見ている。
「……もう慣れたけど」
 疲れた口調で。
「昭彦!!」
 俺は叫んだ。
「……あのな、昭彦。俺は……」
「……判ってるんだよ」
 昭彦は目を伏せた。
「判ってるんだ。お前が……そういう奴だって事は。俺が、勝手に淋しいとか思うだけで……」
「俺は、昭彦の事、大事だ!! 突き放してるなんてそんな事は……!!」
「……判ってるよ。だから、ちゃんと判ってる」
「判ってるって……何を判ってるって言うんだよ!! 昭彦!!」
 お前なんか、何も判ってない癖に!! 何も理解しようとしない癖に!!
「……俺は、お前の事、好きだけど、時折たまらなく淋しくなるんだ。お前は絶対に頼ろうとしないから。そりゃ頼りなく見えるかも知れないけど、俺にだってやれる事はあるよ。ある筈なんだ。なのに……」
「俺はお前の事、頼りにしてるよ!!」
 思わず怒鳴った。
「面と向かってあんまり言ったりしないけど!! 俺、お前がいて本当に助かってるんだ!! 感謝の言葉とか、照れ臭いからいちいち言ったりしないけど!! 俺はちゃんとお前がいて助かってるから!! お前がいなかったら、この世の中は本当最低最悪だよ!! お前がいるから、この世はまだ救われるって思えるんだから!!」
「……郁也……」
「……お前の周りの空気は暖かいからさ。俺の周りなんて、本当殺伐としていて、気が抜けなくて……どいつもこいつも『敵』で、安心できる奴なんていないからさ……。お前と一緒にいる時だけは、『世界』を『敵』にしなくて良いんだ。それが……俺にとって、どんなに心安らぐ事か、昭彦は知らないだろう? 俺は、お前といる時だけは、安心できるんだ。リラックスできるんだよ。そういうの、凄く貴重なんだ。俺は何処にいても、安心なんか出来ないから……お前がいて本当良かったって思うよ。お前がいなかったら……本当、俺、地獄だからさ。お前がいるから、お前の存在そのものが、俺を救ってくれるんだ。人間はまだ少しは信じても良いって思えるの、お前がいるせいなんだから。お前に出会えて、俺は本当良かったって思うよ。お前がいなかったら、俺は本当救いよう無いから」
「……郁也……」
「……だからさ、昭彦の事、軽んじた事なんて無いよ。どう見えたってそうなんだ。それだけは確かだよ」
「……郁也……」
 昭彦が、泣きそうな顔で笑った。
「……俺……まぁ、こういう性格だからさ。かなり昭彦に甘えて乱暴な事言ったりとかしてる気もするけど……昭彦の事大事だって思ってるのは本当確かだから」
「うん、ごめん。郁也……」
「どうしてお前が謝るんだよ?」
 困ったように、昭彦は笑った。
「いや……郁也、こういう事言うの、苦手だろ?」
 思わずカッと顔が熱くなった。
「……そういう事言わせて、本当悪かったとか思ったから。……って言うより……何だか今、俺、郁也の事、試した。そう自覚したから……俺……」
「……昭彦……」
 何て言ったら良いのか判らない。戸惑いながら、昭彦を見つめた。
「……ごめんな、郁也。でも俺、時折不安になるんだ。お前が何処か遠い世界へ行ってしまうような。自分一人で、全然知らないところへ行って、二度と帰って来なくなるような。そんなわきゃないっていつも思ってるんだけど……不安になるんだ。お前、時折恐いから。本当目の前が見えてないっていうか、何処か遠いところを見てるっていうか。何かいつも、違う事を考えてる気がするんだよ。だから、俺は不安になる。お前が見えなくなりそうで」
「……俺はいつだって、ここにいるよ」
 昭彦の言葉に、少しどきりとしながら、笑って言った。
「俺はいつだって、お前の目の前にいるから。……少なくとも、お前の前にいる時の俺は信じても良い。……まぁ、嘘はつくけど」
「『嘘はつくけど』じゃないだろっ!! 郁也っ!!」
 昭彦は真っ赤な顔で怒鳴った。
「だって、本当の事だろ。『嘘はつかない』とは真顔でちょっと言えない。絶対『嘘』になるから。俺は、お前にそういう『嘘』はつけない。軽い『嘘』をつくのは、俺のパーソナリティーだと思ってくれよ」
「思えるかっ!! 大体、お前、嘘つき大魔王じゃないか!! 嘘ばっかりで、本音見せようとしないだろう!! お前の大半嘘じゃないか!! いちいち挙げたらきりがないけど!!」
「大半嘘だぁ?! そりゃ嘘はつくけど、そんな酷く無いだろう!!」
「自覚ない奴って一番質悪いよ!! お前俺にいっぱい隠し事して嘘ついて、それでいて『何でもない』とか『お前に関係ない』『お前と俺は違うんだから』と来るんだよっ!! 俺はいっつも、お前に振り回されっぱなしで、それでも何となく『ま、いっか』とか思わされて、何だか時折損してる気分になるんだよ!!」
「……損?」
「……だって何か、悔しいじゃないか。俺ばっかり素さらして。お前はまるっきり隠しきっちゃってたりするのにさ。俺、なんか格好悪いじゃないか」
「そうか?」
「……真顔で言うなよ」
 呆れたように昭彦は言った。
「……振り回されるのが心地よいってのが、特になんかむかつく。それもお前の計算の内って気がしてさ。目一杯お前に泳がされて利用されてるんじゃないかって思う。ま、これは俺のひがみって奴かも知れないけど」
「……『ひがみ』?」
「『卑屈』と言い換えても良いけど。俺は郁也のこと、本当好きだけどさ。いつも負けてる気がする。それでも一緒にいるのが楽しくて気持ち良いから、やめられないけど。……お前、質悪いんだよ。客観的に見れば、どう考えたってすごいヤな奴で、関わり合いにならない方が良い奴なんだけど、でも、一度知り合ったらもう離れられないんだ。お前みたいな奴、俺が放っておける筈ないんだ。お前みたいな奴がこの世に存在するってそれが、俺にとっての『奇跡』だよ。危うくて恐くて、不安になるけど、一緒にいるのを辞められない。関わることを辞められない。……なのにさ、手応えがまるでないんだ。俺の独りよがりで空振りっぽくて。本当に、俺がいて郁也の何か役に立ってるのかなって不安になる。本当は俺なんか必要ないんじゃないかって」
「そんな事ねぇよ!!」
 俺は本気で怒鳴った。
「そんな事絶対ねぇよ!! お前って奴は、本当、存在自体が『貴重』なんだから!!」
 昭彦は柔らかく笑った。
「……そう言って貰えると、何だかちょっとほっとするな。すごく嬉しいよ。郁也。……本当、ごめん」
 俺は毒気を抜かれた。
「……謝るなよ、俺に」
「うん」
 昭彦はにっこり笑った。……こいつだって、十二分に質が悪いと思うけど。自分がどういう人間かってちっとも判ってない気がする。例えば、俺にとってどういう存在か、とか。
 昭彦の笑顔には裏がない。実際本当に裏がないけど──だからって疑わずにいられるってのは、本当『凄い』んだぜ? お前は他人を安心させるんだ。それが何なのか判らない。のほほんぼーっとした鈍ガメだけど、喜怒哀楽激しくてお人好しで、おせっかい。こうと決めたら梃子でも動かない頑固者。お前を疑い信用しない、なんて俺にはたぶん一生出来ない。どんなに固く鎧を身にまとって、ぴりぴりと警戒していても、その合間からするりと滑り込んで忍び込んで、人の心を溶かしてしまう。それはもう、十分『才能』だよ。お前を知って、嫌いになれる奴なんてそうそういない。少なくとも、俺はそんな奴がいるだなんて信じられない。お前には時折苛つくけど、それはお前の存在自体じゃなくて、お前の幸せとかそういう事の為に苛つくんだ。俺は、お前には絶対に幸せになって欲しいから。世界の他の全ての人間が不幸になっても、お前にだけは幸せになって欲しいから。俺がそんな事望まなくたって、お前は絶対幸せだけど。
「……俺は、脳天気に笑ってる昭彦が好きだからさ」
「それ、褒めてないよ。郁也」
 昭彦は憮然とした顔で言った。
「……そうか?」
 聞き返すと、昭彦は溜息ついた。
「褒めてないけど、郁也にとっては褒め言葉なんだろ? ……まあお前のパーソナリティーって事にしといてやるよ。仕方ないから」
「……仕方ないからって……」
「仕方ないだろ? 直せったって直らないだろう? だったら仕方ないじゃん。あんまり仕方なくもないけど。無理をさせるよりは良いから。それに、俺はそういうこと、あんまりこだわらないから。……だって、大切なことは他にあるしね」
 昭彦はにっこり笑った。……お前の笑顔は『世界最強』だよ。本当凄いって。……ああ、つまり俺はちょっとほろりと来たんだな。
「……郁也?」
 不思議そうに、俺の顔を覗き込んでくる。俺はそれを押し退けた。
「ああ、とにかくオーダーしようぜ? お前、何が食いたい? ほら、ちゃんとメニュー見ろよ。ラストオーダーの時間は引き延ばせるけど、さっさとしろよ。帰り遅くなるぜ?バスなくなるじゃねぇか。それともお前が2ケツで乗せて帰るってんなら話は別だけど」
「いや、俺の自転車は荷台が無いから立ち乗りだって」
「判ってるよ! そんな事!! ……それよりさっさと決めろよ!!」
「……郁也が乗せろと言うなら、幾らでも乗せて帰るよ。でもまあオーダーはさっさとするけど。腹減った」
 メニューを開いて顔を隠した。
「……なぁ、郁也?」
「……何?」
「……お前って本当、照れ屋だよな」
「!!」
「……判りにくいけど、判り易いよ。お前」
「…………何言ってんだよ。オーダー決まったのか?」
「ええと一応」
「んじゃ、ウェイター呼ぶぞ」
 そう言って、ボタンを押した。

To be continued...
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